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ハードワーカー


「オシャレになりすぎて、なんか居心地悪い」


 週末、帰省したアデルさんの孫エトヴィンさんがベーカリーを見て言った。

 進学先の大学寮から半日かけて、一人暮らしの祖母を案じて月に一度は帰って来る。そういう優しさはあるのに無愛想だ。


 見るたびに雰囲気が変わっていく古巣が気に食わないらしく、私への当たりがきつい。


「エトには合わんかもなあ。アイリーナちゃんがいてこその、この雰囲気やで。明るくなったわあ。今度、何とかいう雑誌にも載るんよ」


 アデルさんが目を糸のように細くして笑った。


「ばあちゃん、大丈夫かよ。あんまり忙しくなっても体力的にきついで。ちょっと暇なくらいがええって言うとったやろ。よそもんのギャルにのせられて、無理せんときよ」


 ぎゃ、ギャル? よそもんの、と言われても仕方がない自覚はあるが、ギャルは予想外だ。楽園にいた頃よりもはるかに地味で、質素なのに。


「大丈夫や。ちょっと無理するくらいが楽しいんやわ。そういうのすっかり忘れとってなあ、アイリーナちゃんがワクワクさせてくれとるんよ」


「すみません、私が勝手に盛り上がって突っ走ってしまって。エトさんに言われて、気づきました」


 アデルさんのパンをもっと多くの人に食べてもらいたい。そう思ってがむしゃらにやってきたが、そのせいでアデルさんの負担が増えた。今まで無理のないペースで続けてきたお店を、新参者が引っかき回した。


「なーに、しょんぼりせんでよ。私は本当に嬉しいんよ。忙しくなった分、儲けてるからな。もう一人くらい雇って、アイリーナちゃんのお休みも作ってあげななあ。アイリーナちゃんこそ働きづめで申し訳ないわ。デートする暇もないとなあ」


「いえそんな、デートする相手もいませんし。ここでお店とパンのことを考えてたほうが楽しくて……ってそれがダメなんですよね」


 バイトに生き甲斐を見出してハードワーカーになってしまっては、店主のアデルさんを追い詰めてしまう。


「あらま勿体ないわ。デートする相手がおらんなんて。エト、あんたデートしてもらったら? ご飯でも食べに行ってき。そうや、今晩でも」


 えっと思わずエトヴィンさんを見た。無茶振りすぎる。


「やっ、それはさすがに申し訳ないですし。せっかくの連休で帰省中に」


 嫌いな女とデートしろなんて気の毒すぎる。五つも年下の大学生、しかも愛想なしと楽しく過ごせる自信はこちらもない。


「お友達に会うとか、他の予定があるんじゃないですか?」


「別にない。飯くらいなら、行ける」


 ボソッと吐き捨てるように言って、斜めに顔を逸らした年下大学生の横顔を凝視した。なにこれ。

 赤くなる耳を目にして、ひそかに衝撃を受けた。

 これはもしかして噂に聞く「ツンデレ」というやつ? 一見して好意があるとは思えない、むしろ嫌っているような態度で、実は照れているとか。


 厄災級の魅了持ちだった私は、分かりやすく好意を示されることに慣れていた。魅了に侵され自我を失い、直球で「愛してる」をぶつけてくる人ばかりだった。

 もっとこちらを見てほしいと懇願はされても、こんな風に顔を背けながらデートに誘われることはなかった。

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