解放
「アイリーナ。今も変わらず、君を愛している。だが前と違って、衝動的な気持ちではないんだ。一年間君と距離を置いて自制した結果か、君の魅了が無くなったからかは分からないが、今の私なら穏やかに君を愛せる。あの別荘で君と親しげに話す男を見ても、殺してやりたいと思わなかったしな。君から自由を奪い、縛りつけておく気もない。ここから出て私と城に住み、そしてどこへでも自由に出かけてほしい」
真剣に言葉を紡ぐダグラスに、いつもの演技臭さはない。
ダグラスの提案する暮らしを想像してみた。再び王妃に戻り、愛のバランスを取れるようになったダグラスに愛され、自由に暮らす。なんて夢みたいな暮らしだろう。
しかし私はそんな風に夢見れなかった。
「あなたは傾国の魔女と恐れられた私を隔離して、ファンタジーな『聖母』に昇華させて、国政を建て直した。国民感情がようやく安定したのに、再び私を王妃に迎え入れるなんて、全国民を不安に陥れる愚策だわ。もう大丈夫、以前とは違うといくらあなたが自信を持って説明したところで、国民はそれを信じるかしら?」
世間の混乱が目に浮かぶ。
何より私が信じきれない。
「本当に前のようにはならない? 逆に魅了の影響が消え去って、あなたの愛が冷めて後悔する可能性は? 王妃の座で死刑宣告を待つような日々には、もう耐えれないわ。解放して、ダグラス。魔女でも聖母でも王妃でもない、ただの平凡なアイリーナとして生きたいの」
春色の瞳がじっと私を見つめたあと、ぎゅっと閉じられた。
「分かった。君を解放する」
そして静かな声で尋ねた。
「エリオス王子のところへ、エクリシア帝国へ行くのか?」
首を横に振った。
「誰も私を知らない国へ行くわ」
「そうか。ならばせめて、私に手配させてくれ。治安が良く、アルディア人に友好的で暮らしやすく、景色の美しいところが良いな。君がどこでどう暮らしているかくらいは把握して、安心したい。余計な干渉はしないが、それだけは許してくれ」




