決断
絶句する私を見て、大魔法使いシーラはニヤリと笑った。
「どうする? 迷うわよねえ。厄災級の魅了のせいで生きづらいとはいえ、その魅了のおかげで今があるものねえ。楽な暮らしができて、万人に好かれ、美しい王様と王子様に奪い合いされる唯一無二のヒロイン。その全てを自ら手放して、今より幸せになるとは限らないし。いざ失うと思ったら、勿体ないわよねえ?」
意地の悪い言い方だったが、親身な指摘だった。
「あの、魅了を奪われるとそれ以外にも変化がありますか? 老けるとか、病弱になるとか、不器用になるとか」
「いいえ、魅了は失っても他に変わりはないわ」
「今の私のまま?」
「そうね」
「良かった。じゃあ、お願いします。私から魅了を奪い去ってください」
「アイリーナ! 何を血迷ったことを」
ダグラスが慌てた声を出した。
「血迷ってなんかないわ。いたって冷静よ」
「本気で言ってるの? 魅了がなくなれば、その王様も王子様もあなたに執着しなくなるわよ。最愛だ聖母だとチヤホヤされて、お遊びみたいな生活もできなくなるのよ。怖くないの?」
提案者のシーラまでが諭すように言った。その焦りを見て逆にこちらが不安になる。もしかして、私の魅了を奪うなんて虚言で不可能なのかもしれないと。
「怖いわ。でもいつか必ずそれは訪れる。絶大な魅了も決して永遠じゃないもの。自然と中年期以降に薄れると言われている。それなら年を取ってから楽園を放り出されるより、早いほうがいいじゃない?」
「そんなことはない! 魅了が自然と薄まっても君が聖母であることに変わりはない。誰もが君を愛さずにはいられないし、年を取ったからといって放り出したりするものか。私は永遠に君を愛する。誓うよ」
ダグラスが泣くような顔で言った。
「ダグラス、そんな誓いはしないで。魅了が自然と薄まる私を愛するとは誓えても、たった今魅了を失う私を愛するとは言えないんでしょう?」
「何もわざわざ急いで無くす必要はないと言ってるんだ。自然に少しずつでいいじゃないか」
「自然に少しずつ失う、何十年もかけて。そのほうが怖いの。いますぐ一気に失えば、その何十年の間に出来ることがあるわ。私は、自由と希望がほしいの」
キッパリ告げるとダグラスは死刑を宣告されたような顔をした。少なからず胸が痛んだ。
「魅了を失っても他は変わりなく、私は私のまま。シーラさん、そうでしょう? それならそんなに悲観しなくて良いわ。魅了がなくたって私はそこそこ可愛いし、人生経験豊富だし、毎日の配信で鍛えたトークや食レポのスキルもあるもの。それはダグラスが与えてくれた環境のおかげで、感謝してるわ。私にはこれまでに培った土台があるの。魅了を失ったら何も残らない、ポンコツだと見くびらないでほしいわ。普通の人の何百倍も愛されてきた人生だもの、これからは愛されなくたってお釣りがくるわ」
呆気に取られたようなシーラとダグラスに、エリオスがぽつりと言った。
「俺はそれでいいと思う」




