誓約
「それで良い……」わけはない。
エリオスが何もかも捨てて私と暮らし、何も得られるものはなく、それを通信鏡越しに見守るダグラスが苦しみ身悶える。
これまでのささやかな意地悪どころではない、最大の報復だ。そしてダグラスへの最高のご褒美。
そんなことにエリオスを巻き込めるわけがない。
「エリオス。私が望まないなら手も触れないと言ったけど、望めばキスでもハグでもしてくれる?」
「ああ、いくらでも。君が望めば」
横目でダグラスの反応を窺って笑った。
「私の望みは、あなたがエクリシアに戻って立派な王になることよ。心からそう願ってるわ」
ダグラスが何を言っても聞く耳持たずだったエリオスだが、私の言葉は受け止めてくれた。
「分かった。君がそう望むなら、もう二度と姿は見せない」
エリオスは誓約書を記して、ダグラスに渡した。受け取ったダグラスは大きな息を吐いた。
「お騒がせしました」
「ああ本当に。一気に老けた気分だよ」
ずっと石のように固まっていたブルーナも、一件落着に安心したようだ。部屋を出て行くエリオスの後にそそくさと続く。
「ブルーナ、エリオスのことよろしくね。元気でね」
小さく引き止めてそう言うと、コクコクと頷いた。
「アイリーナ、私が帰った後に国王陛下ともっとちゃんと話すといい。今しかないと思えば、後悔せずに済む」
館の外へ出たエリオスが見送る私に言った。ヨゼフィンとアンフィーサに追い立てられるようにして出されたのにまだ余裕だ。
前に立つダグラスが辟易しているのが伝わってくる。それでも表面的には笑みを湛えている。昔よりも随分我慢強く、寛容的になったのだなと改めて思った。
ああ、これでさようならだ。エリオスを見送り終われば、ダグラスとも。
そう思ったとき、ぶわっと風が吹いた。ザザザザザと木々の葉が揺れて、一同空を見上げた。




