我慢
「それは国王として、ですか? 一人の男として、アイリーナを愛しているからではないですか?」
エリオスの問いかけに凍りついた。
当然国王としてだと、ダグラスは答えるだろう。咄嗟にそう予測することで痛みを和らげる。
「そうだ。私個人としても、アイリーナを愛しているからこそだ」
「では私と同じですね」
エリオスの言葉にダグラスは目を剥いた。
「同じなわけあるか。私たちは愛の奴隷で同士だと前に言ったが、それは君が身のほどをわきまえていた時までの話。私は、どんなにアイリーナが恋しくても、欲していても、ぐっとこらえて、血の滲むような我慢をして、思いとどまっている。愛のままに、やりたい放題してしまえばお互いに破滅してしまうと知っているからだ。エリオス王子、君はその我慢をせずに破滅に向かっている。愚かだよ」
ダグラスはエリオスに正面から向き合って、睨みつけた。
「第一、ここへ住むとしたら国は、領地はどうするんだ? エクリシア帝国の王位継承権は」
「他の優秀な者へ譲ります」
「女一人のために、国も身分も捨てると?」
「エリオス」
と話に割り入った。
「帰って。ヴァレンシアへ。ラウリとルトヘルのところへ戻って、適切な処置を受けてちょうだい。今のあなたは魅了が効きすぎてるのよ」
「アイリーナ。本当にそれでいいのか? これで会うのが最後になっても良いのか? この楽園でひっそりと安全に暮らし、魅了が薄れるのをただ待つ日々に寂しさはないのか? 俺は決して君を害さないし、君が望まないなら手にも触れないでいよう。喜怒哀楽を共有する話し相手として、生涯の友人として、そばにいたい。それさえも君は望まないのか?」
エリオスの真面目な、恐ろしいほどストレートな問いかけに思わず息をのんだ。
望まないと即答すべきだと分かっているのに、エリオスの言う日常をつい想像してしまったから。
嬉しいこと、悲しいことを口に出して言えて、共有できる友人――そんなもの、欲しいに決まっている。
手に入れられないに決まっている。




