居直り
診察を終え、軽い脳しんとうだと診断が下りた。吐き気や目まいがないなら大丈夫だろう、念のため明日まで安静にということだった。
物置部屋から出されたエリオスとブルーナに、時間を置いて少し冷静さを取り戻したダグラスが言った。
「もうここへは二度と来ない、と誓約書を書いていただきましょう。それで今回だけは不問にします」
「帰らないつもりです」
「は?」
「この楽園で、アイリーナのそばで暮らせればと願います」
真面目な顔をして言うエリオスに驚いた。
「いやいや無理です、何を言ってるんですか。この楽園で、アイリーナのそばで暮らす? 誰がそんな許可を出すと」
「陛下にご許可いただきたい」
ダグラスは頭をぐしゃぐしゃと掻いて、大きなため息を吐いた。
「あーもう、ほんとイカれてるなあ。君みたいに魅了にやられてオカシクなる男が危ないから、アイリーナはこの楽園に隠居してるんだって。知ってるよね? 君みたいな男から守るためにね。なのに、一緒に暮らす許可など出るわけがないだろう。君がエクリシア帝国の王子でなければ、殺してるよ?」
「ダグラス」
と二人に割って入った。
「確かに魅了のせいよ。エリオス、言う通りに誓約書を書いて、もう二度と来ないと誓って。それがあなたのためよ。魔女の呪いが解けて、死が回避されたことを無駄にしないで」
「アイリーナ。君を無理やり手に入れたがる者たちに人生を振り回されてきたと恨んでいたよな。俺は、俺のそばに君を置きたいんじゃなくて、君のそばに俺を置いてほしい。俺のために何もしなくていい。ただ、そばにいさせてくれ。決して負担にならないようにする。君の寂しさを少しでも和らげたいんだ」
真摯に紡がれるエリオスの言葉が、さくりと胸を刺した。
「寂しいなんて、あなたに言ったかしら?」
「言わなくても分かる」
「決めつけだな。全て君の勝手な思い込みだ。これ以上ゴネるなら、誓約書も不要だ。次に顔を見せれば排除する。アイリーナは我がアルディア王国の、国民すべての聖母だ。私は全力でアイリーナを守る。君にだって容赦しない」




