薔薇
「え〜と今日はぁ、開花した秋薔薇を紹介するね。見て見て、ふんわりしてて華やかで、まるで舞踏会で踊る貴婦人みたいな気品。みんなはどの色が好き? アイリーナはやっぱりピンクかな。でもこのクリーム色っぽい黄色も好き。色んな色があるほうがいいよね」
配信で秋咲きの薔薇を紹介しながら、エリオスのことを思い出した。
ヴァレンシア城の立派な植物園を二人で散歩したときに、満開になる薔薇を私に見せたいと言ってくれたっけ。
元気にしているだろうか? 呪いはあのまま収束しただろうか?
便りが無いのが無事な証拠だろうか。もしまた私の魅了が必要になったときには、私の配信をこっそり見ると言っていた。
だから私は大勢のアルディア国民へ向けて喋りながらも、遠い異国でこれを聴いているかもしれない一人のことを思い浮かべている。
ブルーナはどうしているだろうか。アルディアの黒魔法使いミコラーシュが使役させている楽園の使い魔二人とは話ができないので、ブルーナのことがつい恋しくなる。
私は会話に飢えている。毎日大勢の国民相手に話をしても、相手からのレスポンスはない。身の回りに会話できる相手もいない。
だからダグラスとの通信が唯一の会話の場であり、心の拠りどころなのだ。
恐ろしいほどの孤独に気づかないように、そこに焦点を当てないように、今までずっと上手くやり過ごしてきた。
気づいてしまうと恐ろしいほど孤独だった。
ヨゼフィンとアンフィーサがいなければ耐えられなかっただろう。二人は私の生活全般を支えてくれている。会話はできないが言葉を理解し、意思疎通ができる。
その二人はいま私の配信を横目に、通信鏡に映らない範囲で薔薇の手入れをしている。
影のように細長い体に細長い手足。器用に鋏を使っていたヨゼフィンが、ピタリとその手を止めた。空を仰ぎ、大きく尖った耳先をピクピクとさせた。何かを感知したらしい。




