表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/35

第27話 不信感と違和感

 結界の消滅が、アステリオ様の真の目的。


 セラスのお絵描きを見守りながら、私は先ほどのやりとりを思い出していた。


 もちろん、セラスの命は絶対に守る。

 しかしセラスの命を守ることは、結界の消滅――つまり魔法が失われることと同義。


 他に方法はないのだろうか。

 セラスの命が奪われず、結界が消失しない方法が。


 そう思い、すぐに首を横に振る。


 あるならとっくにアステリオ様が実行に移しているはず。それに神殿だって、あんなに小さな命を犠牲にすることを、良しとしているわけがない。


 代替案があれば、それに変えているはず――と考え、ふと思考が止まった。


 果たして神殿は、仕方なく神子の命を犠牲にし、結界を守って来たのだろうか?

 幼い命を犠牲にすることに、罪悪感は無かったのだろうか?


 セラスを迎えに来たときのヴェルド様たちの態度を思い出す。


 小さな体をまるで道具のように扱い、無理矢理連れて行こうとした。


 あれが……命を懸けて結界を維持する神子様に対する態度だろうか?


 普通は逆じゃないだろうか。

 命を懸けてさせるからこそ、大切にされるはず。


 幼い命が散ってしまうその瞬間まで、感謝をし、大切に、大切にしないだろうか。


 神殿は、結界を作り出した創造神様と結界そのものを、崇めている。


 ならば――それを維持する神子こそ、最も敬い、大切にするものでは……


「あー……考えがまとまらない」


 私は頭を抱えてしまった。

 さっきからずっと、思考が堂々巡り。同じことを考えては、結局行き詰まってしまう。


 まるで花垣迷路にいるみたい。


 気がつけば、セラスがお絵かきの手を止め、私の顔を心配そうに覗き込んでいた。


 ……駄目だな、私。

 またやるべきことに集中できていない。


 不安そうな少女の頭を撫で、淡く微笑みながら、セラスの頭を撫でた。


「ごめんなさい、考えごとしてたの。元気だから安心して?」


 セラスの表情が、一瞬だけ安堵したように緩んだ。だけど私の服の裾をくいくい引っ張ると、小首を傾げてこちらを見上げる。


 考えごとの内容を、話せといいたいのだろうか。


 私は少し悩んだ末、思い切って聞いてみることにした。

 

「セラス……お父さんとお母さんに……会いたい?」


 この質問をした瞬間、不安で胸がいっぱいになった。

 もしセラスがご両親のことを思い出して恋しくなり、泣き出したらという不安。


 もう一つは――本当のご両親が見つかったとき、セラスと離ればなれになることに対する、底知れぬ不安、だ。


 後者なんて、完全に身勝手な私の考えで、嫌気がさす。


 セラスを親元に帰すことが一番良いに決まっているのに――


 自己嫌悪に苛まれていると、急に横からギュッと強く抱きしめられた。柔らかな温もりと、先ほど食べた菓子の甘い匂いが、私をふわっと包み込む。


 セラスが満面の笑みを浮かべながら、私を抱きしめていたのだ。


 予想だにしない行動に、私は大きく目を見開いた。


 今、私はセラスにご両親に会いたいかを聞いたはず。なのに、どうしてこの子は私を抱きしめているのだろう。


 何故この子は、こんなにも笑顔なのだろう……

 

 私を、慰めてくれてる?

 まだ四歳児なのに、そんな気遣いを?


 罪悪感が胸を締め付け、言葉となってこぼれ落ちる。


「ありがとう、セラス。私を慰めてくれて……でもいいのよ、お父さんとお母さんに会いたいって思っても……泣いたって……」


 だがセラスの反応は意外だった。

 ムッと唇を尖らせると、テーブルの上に置いていたおえかきを手に取り、私の前に突き出してきたのだ。


 そこに描かれていたのは、髪の長い黄色の髪の女性と少女、そして白髪の男性が手を繋いでいる絵だった。

 三人とも、にっこりと笑顔を浮かべている。


 もしかして……


「私とセラスと……アステリオ、様?」


 私の呟きを聞いたセラスの表情がパッと明るくなり、嬉しそうに何度も頷いた。


 どうやら、当たりみたい。


 セラスが描いた絵、それを私に見せてきたいきさつを考え、一つの結論を導き出す。


「私とアステリオ様がいるから……平気ってこと?」


 次の瞬間、セラスにまた横から抱きしめられた。だけど、私はセラスを膝の上に乗せると、小さな体を抱きしめ返した。

 触れあった胸から、子ども特有の、早い鼓動が伝わってくる。


 ……愛おしい。

 本当に、本当に、愛おしい子。


 そして……健気で、優しい、子。


 目頭が熱くなったけれど、涙として流れないよう、何度も瞬きを繰り返した。


「セラスは……凄いね」


 少し体を離してそう褒めると、セラスは小さな胸を張って得意げな顔をした。


 それにしても……と、セラスの絵に視線を向ける。


 毎日一緒にいる私ならともかく、何故アステリオ様も描かれているのだろう。


 セラスを中心として三人が手を繋ぐ様子は、アステリオ様に助けられたあの日、セラスが私とアステリオ様を繋いだときの光景と重なった。


 この子は、初対面のときから、アステリオ様に懐いていたし、私の体調不良について、真っ先に相談しに言った相手も、アステリオ様だ。


 触れ合う時間だけなら、ニーナさんや他の城仕えの人たちのほうが圧倒的に多いのに。


 でも陛下は厳しい態度をとりつつも、セラスを気に懸け、守り続けている。幼いながらにも、思うことがあるのかもしれない。

 絵の中のアステリオ様も、笑顔で描かれているし。


 ――あれ?


 ふと思考に引っかかりを感じた。


 アステリオ様は国王だ。

 ならば、何故セラスの命を守るため、結界の破壊という極端な結論を出したのだろう。


 結界がなくなれば、御自身だって魔法が使えなくなる。

 陛下のお立場であれば、神子の命を必要な犠牲だと考えても不思議はないのに。


 アステリオ様へのイメージと、実際の行動に大きな乖離がある。


 神子様の命を守らなければならない何かがあるの?

 それとも……神子様の命とは別に、結界を破壊しなければならない理由が――


 そのとき、急に私の目の前に、四角い光が現れた。

 これは、書簡を送付する魔法。


 相手と特別な繋がりを作り、合い言葉を設定することで、手紙や書類のやりとりが出来る魔法だ。


 だけど問題は、そんなやりとりをする相手が私にいないこと。

 城では極力、相手の顔を見て物事を伝えることがルールとなっているからだ。


 一体誰が――


 そう思った瞬間、全身が雷に打たれたような衝撃が走った。

 体が震え出し、手から温度が失われる。


 私の考えが正しいなら、この手紙を開く合い言葉は……


「……偉大なるエルタナ家に……栄光、を……」


 唇が戦慄き、声がうわずる。


 違っていて欲しいと祈る中、四角い光は、私の言葉によって実体化し、私の手の上にふわりと落ちた。


 真っ先に目に入ったのは、エルタナ家の家紋が押された封蝋。


 差出人は――私の、両親だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ