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第17話 自信

「……えっ?」


 思わず驚きの声が出てしまった。

 しかし陛下は咎めることなく、言葉を続ける。


「この色が良いと思った。だからこの色が出せるお前を呼び、命じた。何を不思議がる?」

「し、しかし……今まで不出来な魔法だと……皆から言われて……」

「周囲を照らすという役割は果たせている。問題ない」

「でも色が……」

「俺が『良い』と言っているのだ」


 陛下の視線が鋭くなった。

 またまた私、出過ぎたマネをしてしまったみたいだ。


 しかし、やってしまったという後悔はなかった。

 陛下を不快にさせてしまったというのに、嬉しい気持ちが不思議と溢れ出てきて、口元が緩んでしまいそうになる。


 何故なら陛下が、私の光を認めてくださったから。

 気味が悪いと笑われていた色を、『良い』と思ってくださったから――


「この光はどのくらい保つ?」


 私の光は、通常よりも保つ。それが強み。

 その部分を少し誇らしく思いながら、陛下の問いにお答えした。


「何もなければ丸1日程は保つかと」

「長く保つのだな。俺が必要とした際、光を灯しに来い」

「畏まりました」


 謹んで頭を下げる。が、顔が隠れるからと油断したところを見られてしまったようだ。


「……変な女だな。何を笑っている?」


 指摘され、ぎくりと私の体が強ばった。

 しかし、隠す必要はない。


 何故なら私も、伝えたかったから――


「失礼いたしました、陛下。私の光の色を、良いと仰ってくださったことが、嬉しくて……」


 私を見下ろす金色の瞳が、細くなった。だけど表情が分からないため、笑っているのか不審に思っているのかは不明だ。

 でも私は続ける。


「今まで、私が発現する光は、色がおかしいと笑われてきました。普通は白色なのに、私の光には色がついていますから……」

「色がついていると言うが、不便ではない。何を笑う必要がある?」

「そう、ですね……」


 陛下が私の光を肯定すればするほど、クルシュや周囲の嘲笑う声が遠くなっていく。

 この部屋の中で輝く薄黄色の光が、何だか愛おしく思えてくる。


「私、陛下のお言葉のお陰で、自分の魔法に初めて自信が持てた気がするのです。ですから……嬉しいお言葉、心より感謝申し上げます」


 アステリオ様は何も仰らなかった。

 だけど、私の気持ちは伝わっている。根拠はないけれど、そんな気がした。


 役目を果たした私は陛下においとまの言葉を告げ、深く頭を下げると、背を向けようとした。が、


「ミーティア・エルタナ」

「はい?」


 突然呼び止められ、私は再び陛下と向かい合った。

 しかし私をジッと見つめ返し、少しの沈黙の後、仰った。


「お前の首の後ろの痣、生まれつきか?」



 反射的に首の後ろを押さえ、後ずさってしまった。

 陛下に知られているとは分かっていたけれど、いざ指摘されると、羞恥で心がいっぱいになる。


 今まで痣絡みで嫌な思いをした記憶がフラッシュバックし、頬が熱くなった。


 とはいえ、指摘をされた陛下に悪気がないことは分かっている。

 苦しい気持ちを押しとどめると背筋を伸ばし、頭を下げた。


「はい、生まれつきでございます」

「痣は首の後ろだけなのか?」

「は、はい……お見苦しい物をお見せし、申し訳ございま――」

「見苦しくなどない」


 食い気味に否定され、私は続きの言葉を飲み込んだ。


 どこか気まずい沈黙が私たちの間に流れた。しかし沈黙を破ったのは、アステリオ様だった。


「昔、お前と同じように、痣をもつ女と出会った」


 心臓が大きく音を立てた。

 唇が震える。


 私のような痣持ちなら、さぞかし苦労されただろう。そう思うと、他人事とは思えなかった。


 しかし陛下の反応は違った。

 金色の瞳は、私を映しつつ、別の何かを見ているようだった。


「その女の痣は、首の後ろと背中に痣があった。だが女は、痣すらも自分を象徴するものだと誇りを持っていた」

「そ、それは……凄い方……ですね」

「その分、昔飼っていた犬に似ているからと、その犬の名前で俺を呼ぶほど、性格には難があったが」

「い、犬!?」


 陛下を犬の名前で呼ぶなんて、なんて命知らずなのだろう。

 不敬で罰せられても仕方がないほどのことを話ながらも、陛下の表情は変わらない。


 彼の意識が、私の戻ってきたのを感じた。こちらを見つめる視線から、力が伝わってくる。


「恥じるな。お前は、俺自らが神子の世話係として命じた者だ。そして」


 彼の瞳がスッと細くなった。


「その役目も果たしている」

「……ありがとう、ございます」


 私の功績が評価されたことが照れくさくて、でも嬉しくて……だけどその感情の中に、ほんの少しだけ懐かしさが含まれているのは、何故だろう。


 ふと疑問が湧く。


 冷酷王アステリオは、噂通り、恐ろしい方なのかと。

 確かに厳しい方だが、理不尽にその権力を振るうことはなく、むしろ正当な評価を下す。


 本当は、優しい方なので――


「お前、部屋に入るまでに相当時間がかかっていたな?」


 アステリオ様の声で、思考が現実に引き戻された。

 いつの間にか俯いていたのか、慌てて顔を上げると、いつもの無表情がそこにあった。


 だけど何だか声色が先ほどとは違って軽い気がする。


 彼の顔が不意に近づいてきた。相変わらず眉目秀麗で、見ているだけなら目の保養になる美しさだ。


 が、艶やかな唇から紡ぎ出された言葉は……


「夜伽でも命じられると思って躊躇っていたのか?」

「!?」


 表情は変わっていないのに、心なしか楽しそうな雰囲気を纏っている気がする。


 陛下の発言に、自然と顔が熱くなっていく。すぐに否定したとはいえ、その可能性も考えていたからだ。


 さらなら追撃が私の心をえぐる。


「あと昨日の騎士役、中々迫力があったぞ」

「おやすみなさいませ、陛下! 良い夢を!!」


 騎士役とは、昨日セラスの寝かしつけの時に読んだ物語に出てきた人物のことだ。


 私は叫ぶ勢いでおいとまを告げると、勢いよくドアをしめた。


 前言撤回。

 アステリオ様は、優しくなんてない!!


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