25 おじさん珍道中
梅雨が明けたと発表された日から今日まで晴天が続いている。
今日は日曜日。
前日の工事が比較的早く終わったので、午前中に起きた俺は、鳥越という島根の出張所から来ている男と遊びに行くことにした。
鳥越は俺より三つ若く独身。こざっぱりした感じでもてそうなのだが。
お互い気楽な一人身ということで話が合う。
これまで休みに天気に恵まれなかったせいで、観光地らしい場所に行っていなかった俺たちはとりあえず有名どころの水族館や岬に行くことにした。
金城氏が会社の車を使っていいというので、お言葉に甘えて俺たちは車を借りて出張所から西側に出て北を目指した。
見たこともないような奇岩のある海岸を走りながら、俺たちはまず北にある水族館に向かった。
それにしてもここぞという景色の周辺にはでかいリゾートホテルが並ぶのはやはり観光地という感じだ。
むさいおじさん二人がそんな景色の中、車を交代で運転しながらゆくのはどう見えるのだろうか。
やっと到着した水族館にはそれはそれはでかい水槽があった。
妹の子ども達が見たらきっと皆興奮して大騒ぎするに違いない。
水の中を悠々と泳ぐジンベエザメやら熱帯の魚やら、はたまたチンアナゴという神様のいたずらで生まれたとしか思えないような生物を見た。
俺たちは子どもに返った気分だった。
「釣り行きてえ。」
鳥越がつぶやいた。
俺も行きたい。
スーパーで見ると、内地では食べないような色の魚が売っている。恐らく魚はいっぱいいるのだろうが、果たして期待するようなものが釣れるのかどうか。
外のプールのイルカを見たりするうちに、日差しがどんどん強くなってきた。
駐車場に行って車のドアを開けると、とてもすぐ中には入れない。しばらくドアやハッチバックを開け放しにしてから乗ったが、それでも暑かった。
水族館を出た後は南下した。
道の駅のフードコートでサーロインステーキを食べた。内地だったらこのサイズでこの値段は無理だろうなという価格だった。
さらに南下して海中公園に行った。
大きなホテルのそばにあって、ちょっと躊躇したが、駐車場から海中展望塔とかいう場所まで汗を拭きながら歩いた。
ホテルの敷地内をちらっと見ると植栽で中は見えないようになっていた。きっと泊まっている人はセレブとかいう人達で俺のような下々から顔を見られないようになっているのだろう。
ちなみに「セレブ」という言葉だが、あまりにも仕事が忙しく帰宅が遅いためにテレビを半年以上見ない時期があって、気が付くと、普通に使われるようになっていた。
最初はよく似た別の言葉と聞き間違い、ぎょっとしたものだった。ちょうどテレビの画面にはゴージャスな女性たちが出ていたので、この人達は一体誰の? とあれこれ悩んでしまったのも今では笑い話である。
俺たちの歩く横をバスが通り過ぎた。駐車場から公園まで無料のシャトルバスがあると知ってしまったと思ったものの後の祭りである。
海中展望塔までは海の上の橋を渡る。
風が吹きわたり、少し汗が引いたような気がした。気がしたであって、暑いのは変わらない。
展望塔の中に入って海底への階段を下りた。エアコンの冷たい空気が下から上がってくる。
展望フロアには高さや向きの違う丸い窓がたくさんあって様々な角度から海中の様子が見えた。
いた。本当に熱帯魚がいた。黒い太い縞のあるツノダシ、同じ縦縞でも背中が黄色いオヤビッチャ、群れをなすアカヒメジ、ハリセンボンもいた。
「釣り行きてえ。」
俺もつぶやいていた。
展望台からの帰りはシャトルバスを使った。駐車場の車は水族館と同じで熱の箱と化していた。
それを冷まして南下して向かったのは有名な絶景スポット。大勢の人が座ることができる草原という名を持つ場所だ。
駐車場に車を停め、ここからまた歩いて海岸へ。
なんだかこういうパターンが多いような気がする。駐車場から目的地まで歩いて十分以上……。
とはいえ海からの風もあって少しは暑さも和らぐような気がする。気がするだけだ。
海までの道の周囲は確かに原っぱだった。
そこを抜けると象の鼻に似た岩が見えるとかいう場所に出た。あたりは断崖絶壁で、足元注意の場所である。
海の底の岩まで見える透き通った海の色に俺はため息をついた。
「海ばっかりで飽きたな。」
鳥越氏が言う。確かにそうだった。綺麗な海もいいが、少し変わったところに行きたい。
というわけで、俺たちは那覇のほうまで行こうかと話しながら駐車場への道を戻った。
碌にガイドブックも見ておらずどこがいいのかわからないので、道路の標示を見て観光地っぽかったら寄ってみることに決めた。
駐車場に行き、車のドアを開け放った。近くの土産屋で買ったさんぴん茶のペットボトルで喉を潤しながらハンドルが冷めるのを待った。
「夕飯は何にしますかねえ。」
「ステーキはもういいよな。魚が食いたい。」
「寿司屋ってあるのかな。」
「全国チェーンの回る寿司でいいよ。」
俺は魚が食いたかった。
「まてえ!」
男の声がしたような気がした。鳥越も俺の顔を見た。
「なんすか、あれ?」
「なんだ?」
俺は声のしたほうを見た。次の瞬間、見えた人物に俺は驚いたあまり、車の熱いボンネットに触れてしまって跳び上がった。
「あち!」
その声に気付いたのか、俺を驚かせた人物が叫んだ。
「あ、あさどさーん!」
紅林眞帆子だった。白いワンピースに白いツバの広い帽子。サンダルも白。
典型的なお嬢様スタイルの彼女が俺に向かって駆けてきた。
「どうして……」
どうしてここにいるんだと言いたかったが、声が出なかった。
「乗せてください。」
見たこともないような切羽詰ったような表情の彼女に俺はうなずいた。
「後ろ乗って。」
鳥越は助手席に彼女は後ろに、俺は運転席に腰掛け、エンジンをかけた。まだハンドルは熱いが、我慢できるくらいにはなっている。
彼女を追ってきたらしい男達が車に気付いた。男達はサングラスにかりゆしウェアというんだろうか、アロハのようなものを着ていて、こっちに走って来る。
俺は彼らを避けるように車を発進させた。
鳥越がつぶやいた。
「これ、ドッキリかなんかですか。」
だったらいいんだが。




