表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/41

24 昼夜逆転生活

 沖縄に来て一か月余り、俺は完全に夜行性になってしまった。

 午後九時から翌朝六時までの現場のため、帰ってきたら寝て午後四時過ぎに起きる生活だ。

 今の現場は昼間は交通量の多い国道。夜もそれなりに交通量はあるが、昼間よりは少ないから交通規制がしやすい。

 台風の接近や悪天候でできない日もあったが、それと日曜以外はほぼ毎晩工事が続いた。

 俺の仕事はフィニッシャ。

 プラントから運ばれてきたアスファルト合材を敷きならすのがフィニッシャという特殊車両だ。

 フィニッシャの後からマカダムローラで深い部分を締固め、その後タイヤローラで表面部分を締固める。

 で、大事なのは均一に合材を敷きならしていくことなのだが、フィニッシャの速度が速過ぎると合材が多く入り過ぎ、遅過ぎると逆に合材が足らなくなってしまう。

 一定の速度でフィニッシャを走らせないと、舗装が均一にならない。

 施工内容によっても変わってくるが、一分あたり、三メートルほどの速度でやる。あんまり早いとローラがついてこられない場合もあるのだ。

 そういうわけで毎晩、プラントから運搬されてくる合材のローテーションに合わせて、ひたすらフィニッシャを走らせた。




 一つの作業に集中できるのはありがたかった。

 現場代理人だと、人がいない時は写真を撮ったりすることもあって、落ち着いて仕事ができなかったりする。

 この現場は人が足りているので代理人も少しはゆとりがあるようだった。

 現場が人手不足でギスギスしていないから、それだけでも仕事がしやすい。

 俺は毎日朝まで仕事をして、飲み屋から出てくる大勢の若者たちを横目に出張所に帰るのだった。

 朝飯を食って洗濯して、部屋で寝て、時々、ジェット機の騒音で目を覚ましてまた寝るという毎日。

 食事にも慣れた。

 休みの日の昼に沖縄そばを食ったら案外うまかった。

 ステーキが安いのには驚いたが、元々ステーキを食べることは少なかったので、二回ほど出張所の人と食べに行っただけだ。

 時々、スーパーに行って飲み物も買った。

 地元のビールやさんぴん茶を飲んだ。結構これが悪くない。

 やはりその土地に行ったらその土地の物を飲み食いするほうが、身体にはいいのかもしれない。

 だが、テビチという豚足とチラガーという豚の顔の皮はどうしても受け付けなかった。

 スーパーに置いてあったチラガーを初めて見た時には驚いた。

 まあ、沖縄の人から見れば、内地の人間の豚の食べ方のほうが不思議なのかもしれないが。

 ともあれ、俺はいつしかそんな生活に慣れてしまっていた。




 紅林眞帆子のことを忘れたわけじゃない。

 モハメドがメールに書いてたことも気にならないわけじゃない。

 だが、もしパーティで知り合った海外の大富豪と彼女が結婚することになったとしても、それを俺が止める権利はない。

 それにどう考えてもパーティに出ている大富豪のほうが彼女を幸福にすることができる。

 たとえ第二夫人でも、生活には困らないはずだ。

 遊びに行った時、妹がこぼした言葉を覚えている。

『女の幸せは結婚相手次第だよね。女は結婚相手で一発逆転するもんね。』

 妹は十分幸せだと俺は思うのだが、不満はそれでもあるらしかった。家計のやりくりの心配があるにしても旦那の雄基と雄一、基彦、健太、瑛斗ら子どもの世話をやいたり、おふくろと話している姿は幸せな光景だと俺は思う。

 愛があるというか……。

 愛。

 紅林眞帆子の幸せは……やはり愛なのだろうか。

 これまでの生活を思えば、何不自由のない生活が第一のはずだ。

 けれど、もし、そこに愛がなかったら……。

 彼女を愛さない男がいるとは思えない。

 一生懸命仕事に打ち込み、母を愛し、環境が変わっても家族を愛しているし、いろいろと学ぼうとしている。

 この生活でいいのかと自らの生き方を問うような生真面目さもある。

 そういう女性なら愛されて当然だ。

 彼女の環境ならば、経済力のある男も周囲に大勢いるだろう。

 彼女は愛も豊かな生活も手に入る環境にいる。

 何も俺が出しゃばる必要なんかない。

 俺は何も持たない男なのだ。

 仕事のことしか考えられないつまらん男だ。

 こんなつまらん男にはもったいない女なのだ、彼女は。




 高校野球の沖縄県予選が始まった。

 もうそんな時期になったのかと俺は食堂で新聞を広げて驚いた。

 俺が出たのは工業高校で、野球部は県内でもそこそこ強かった。在学中に一度だけ県のベスト四に入り、準決勝の全校応援をしたことがあった。残念ながらそこで負けたが、その時の選手の中には推薦で野球の強い大学に入ったのがいた。

 ふっと嫌な男の顔を思い出す。

 譲司だ。

 あいつは高校野球で賭けをしていて、そっちでも借金を作ったはずだ。

 一生懸命頑張ってる健気な高校生の部活動の勝敗に金を賭けるなんて罰当たりな話である。

 久しぶりに思い出した名前だった。

 なぜ思い出したりするのか。

 嫌な予感がする。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ