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神代封呪録・第五章 試練 第一節 百鬼夜行 第五話 招待

神代封呪録・第五章 試練 第一節 百鬼夜行 第五話 招待


広間を満たす重く冷たい空気の中、大獄丸は腕組みをしたまま、悠然と座椅子に身を預けていた。その威圧感は、ただそこに存在するだけで周囲の空間を歪ませるかのようだった。


低い唸り声を上げるような気配を纏いながら、大獄丸は目の前にひれ伏す側近へと視線を落とす。


「大獄丸様」


静寂を破るように、側近が恭しく頭を垂れたまま声を張り上げた。その声音には、隠しきれない緊張と焦燥の色がにじんでいる。


「酒呑童子を討ち取った人間の身元について、徹底的に調べ上げました。奴の名は、神代蒼真(かみしろ そうま)――人間の陰陽師です」


「……ほう」


大獄丸の鋭い眼光がわずかに揺らぐ。酒呑童子の死は、妖怪の勢力図において決して無視できない重大な事件であった。


「それだけではありません」


側近はさらに身を低くし、冷や汗を拭うことも忘れて言葉を継いだ。


「彼はこれまでに、妖界においてその名を知らぬ者のいない『ぬらりひょん』や、恐るべき呪力を誇る『土蜘蛛』をも次々と打ち破り、葬り去っております」


「なに……っ!?」


轟音こそ鳴らなかったものの、大獄丸が放った凄まじい殺気が広間の空気を一瞬で凍りつかせた。側近の体がわずかに震える。


「ぬらりひょんまでもが、あの小童に敗北したというのか……!?」


「はっ。間違いありません。そればかりか、我が軍勢の先兵として動いていた数々の『影法師』どもも、ことごとく彼の手によって消滅しております。


大獄丸は聞き捨てならないといった様子で片眉を吊り上げ、しばし険しい表情で腕を組んだ。怒号をあげるわけでもなく、ただ静かに思考を巡らせるその巨体から、計り知れない闘気が波のようにうねりを上げて広がる。


やがて、大獄丸の唇に不敵、かつ狂気を含んだ笑みが浮かび上がった。爛々と輝くその瞳には、恐怖ではなく、久方ぶりに味わう強い興奮の色宿っていた。


「面白い……実に面白いわっ!」


大獄丸は膝を叩き、豪快に言い放った。


「これほどまでの強者がこの世に存在していようとはな。小賢しい人間の分際で、我が配下の強者どもを次々と屠るとは、よもや退屈しのぎには最高の獲物ではないか」


側近は主のただならぬ反応に息を呑み、恐る恐る顔を上げた。


「大獄丸様、まさか……?」


「そうだ」


大獄丸は立ち上がり、窓の外の闇夜を見据えながら言い放つ。


「一対一で、是非とも奴と手合わせがしたい。あの神代蒼真とやらの実力を、この身を以て試してみたいのだ」


「しかし、それでは我が百鬼夜行の大計が――」


「案ずるな。条件をつける」


大獄丸は側近を振り返り、低く響く声で命じた。


「奴と直接刃を交え、手合わせをする。その勝負の末、もしもこのワシが敗北することがあれば……その時は、この百鬼夜行を潔く中止しようとな」


「ぬっ……! 百鬼夜行の中止を賭けるというのですか!?」


「そうだ。奴にその旨を記した果たし状、否、正式な『招待状』を書くのだ。神代蒼真が真に我が首を狙う価値のある男か否か、この手で直接見極めてやろう」


主の揺るぎない決意を察した側近は、深く息を吸い込むと、再びきっちりと平伏した。


「はっ……! 畏まりました。大獄丸様のご意志、この者めが直ちに最高の使者を立て、神代蒼真の元へ届けさせます」


広間に静けさが戻る中、大獄丸は不敵な笑みを崩さぬまま、来たるべき決戦へと思いを馳せるのだった。

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