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神代封呪録・第六章 試練 第一節 百鬼夜行 第二話 ペア

神代封呪録・第五章 試練 第一節 百鬼夜行


第二話 ペア


静まり返った討魔庁の一角に、カツカツと足音が響く。神代蒼真のデスクに歩み寄ってきたのは、警察庁の三輪だった。彼女はまっすぐな瞳で蒼真を見つめ、深々と頭を下げる。


「神代さん、お願いします。私とペアを組んでいただけないでしょうか?」


思いがけない申し出だったが、蒼真は嫌な顔ひとつせず、穏やかに微笑んで快諾した。


「構わないよ。ただ、一つ聞いていいかい? 討魔庁にはもっと若い捜査官がたくさんいる。そちらの方が年齢も近く、気も合うんじゃないかね?」


「いいえ。先日の練馬病院殺人事件の際、神代さんの卓越した洞察力と鮮やかな逮捕劇を目の当たりにしてから、あなたと組みたいと心に決めていました。本当にカッコ良かったです」


「あははは、そんなに褒めても何も出ないよ」


照れくさそうに笑いながら、蒼真はふとデスクの引き出しを開け、小さな布袋を取り出して三輪に手渡した。


「お世辞じゃないなら、これを受け取ってくれ。霊玉を特殊加工した対妖用の弾丸だ」


袋の中では、ほのかに霊光を放つ銃弾が静かに光を放っている。


「妖には、普通の拳銃の弾丸はなかなか通用しないからね。この霊玉弾なら確実なダメージを与えられる。もっとも、私の方から追加で討魔庁に手配しておくから、まずはこれを守りとして持っておきなさい」


「ありがとうございます……! 心強いです」


受け取った弾丸を大切そうにしまう三輪を見て、蒼真は柔らかな笑みを浮かべた。さらに、ふと視線を窓際の影へと向け、穏やかな声で呼びかける。


「さてと……そろそろ姿を現してくれないかい? 相棒」


影からふわりと姿を現したのは、妖艶な美しさを纏う九尾の狐・葛の葉だった。


「お呼びですか、蒼真様。葛の葉です。三輪さん、お見知りおきを」


「あ、葛の葉さん……! こちらこそ、よろしくお願いします」


三輪が緊張しつつも挨拶を返すと、蒼真はうなずきながら続ける。


「やっぱり、妖を相手にするなら妖の力があったほうが心強い。昨日の練馬病院の医師の逮捕にしても、私単体ではあの『陰縛り』を完全に破ることはできなかった。葛の葉さんが背後でサポートしてくれたからこそ、無事に事件を解決できたんだよ」


「もったいないお言葉です。私はただ、蒼真様のお手伝いをしたまでですので」


妖艶に微笑む葛の葉を見て、三輪は改めてこのコンビの底知れぬ実力を実感する。ふと、三輪が気になっていたことを尋ねた。


「そういえば、神代さんのお子さんも討魔庁にいらっしゃるんですよね?」


「あぁ、息子か。いまは中学生だよ。まったく、最近の若い奴らは吸収が早いからね……そのうち、俺の背中なんてあっという間に追い抜かされていくだろうさ。親としては悔しい気もするが、それ以上に成長が嬉しくて仕方ないよ。あははは!」


父親としての誇らしげな笑みを浮かべる蒼真に、三輪は思わず和やかな空気を覚える。しかし、話題はすぐに差し迫った脅威へと引き戻された。


「ところで三輪さん、もし百鬼夜行の最中に、強大な妖と遭遇してしまったらどうする?」


「そうですね……見つからないように隠れますかね?」


「それも一つの手だが、もう一つ、もっと確実で面白い方法があるよ」


蒼真は悪戯っぽく片目をウインクさせると、呪文のようにこう呟いた。


「『カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ』。これを唱えるといい」


「どういう意味ですか?」と首をかしげる三輪に、蒼真はそっと耳打ちする。


「『自分は酒に酔った者である。ひどく酔っ払っているから、妖怪の姿など見えません』という意味のまじないさ。いざというときは、酔っぱらいのふりをして切り抜けるのも大事なのさ」




第二話了

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