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神代封呪録・第五章 試練 第一節 百鬼夜行 第十四話 家族会議

神代封呪録・第五章 試練 第一節 百鬼夜行 第十四話 家族会議


夕暮れの光がリビングの大きな窓から差し込む中、蒼真は重い息を一つ吐き出し、家族たちへと視線を向けた。ダイニングテーブルの上には、冷めかけたお茶の入った湯飲みがいくつか並んでいる。


「みんな、すまない。少し時間を取ってくれ。今夜は臨時の、そして重要な家族会議を開きたい。全員、集まってくれ」


蒼真の低く、しかし真剣味を帯びた声に、リビングの空気がピリリと引き締まった。ソファに座っていた者、キッチン周りで片付けをしていた者たちが、それぞれの足取りでテーブルの周囲へと歩み寄ってくる。


妻の姿があり、子供たちの顔がある。その誰もが、蒼真の突然の招集にただならぬ気配を感じ取っていた。


皆、これから何が語られるのかを察知したのか、それぞれの手にメモ帳と筆記用具をしっかりと握りしめ、緊張した面持ちで席に着いた。誰一人として私語を交わす者はおらず、ただじっと蒼真の次の言葉を待っている。その真剣な眼差しに気圧されそうになりながらも、蒼真はゆっくりと息を整え、用意してきた要件を切り出すことにした。


「ありがとう。……さて、今日こうして皆に集まってもらったのは、他でもない。今後の我が家の生活、そして蒼真の立場を大きく左右する、極めて重要な連絡事項が二つあるからだ」


蒼真はテーブルの上に両手をつき、家族一人ひとりの顔を見渡しながら言葉を継いだ。


「まずは一つ目の連絡事項だ。――それは、**『国民英雄賞』**の受賞についてだ」


その言葉を発した瞬間、リビングの空気がわずかに揺らいだ。家族たちの目が一斉ひ蒼真に集中する。


「実は今日、内閣総理大臣に会った。そこで直接、国家の安全とこれまでの数々の厄災に対する防衛実績について、過分なる評価をいただいたんだ。そして……これまでの我々の成果が国全体に認められ、この度、私が『国民英雄賞』を授与されることになった」


数秒間の沈黙のあと、長男である蒼也がハッと息を呑んだ。彼は手に持っていたペンをテーブルに置くと、真っ直ぐに蒼真を見据えて声を上げた。


「お父さん……それって、本当に、あの国民英雄賞かい? ニュースとかで国を救った大人物がもらう、あの……!」


「ああ、間違いない。国を代表して、総理大臣から直接打診を受けたんだ」


蒼也の言葉に対し、それを皮切りにリビングの空気が一気に爆発したように沸き立った。妻も、他の子供たちも、驚愕と誇らしさが入り混じった表情を浮かべ、たまらずといった様子で次々に手を叩き始めた。


パチパチパチパチ……!


乾いた、しかし温かさに満ちた拍手の音が、リビングいっぱいに鳴り響く。蒼也の誇らしげな笑顔があり、蒼也の目を輝かせた祝福の視線があった。家族全員が、蒼真のこれまでの苦闘と、それに伴う栄誉を心から称えてくれている。その純粋な反応に、胸の奥が熱くなるのを覚えた。蒼真は軽く会釈をして、その祝福を受け止めた。


「ありがとう。だが、驚くのはまだ早い。……問題は、二つ目の連絡事項だ」


蒼真は両手を軽く挙げて拍手を制し、さらに声を一段落としてから、本題の本丸へと切り込んだ。家族たちの視線が、再び緊張の色を帯びて蒼真に注がれる。


「二つ目は……今後の私の役職、および**『防衛大臣』**への就任についてだ」


静寂。


文字通り、リビングの空気が凍りついたかのような完全な静寂が訪れた。


「……父さんは、防衛大臣になった」


静まり返った部屋の中に、蒼真のその一言だけが妙にハッキリと響き渡った。


……えっ!?


数秒のタイムラグを経て、家族全員の動きがピタリと止まった。思考が停止したかのように、誰もが目を丸くし、蒼真を凝視したまま固まっている。ペンを持ったままの手が空中で制止し、瞬きすら忘れている者もいる。


防衛大臣!?


えーっ!?


一瞬の静寂を切り裂くように、ひときわ大きな、ひっくり返ったような叫び声が上がった。


我が家の母であり、普段から誰よりも状況の変化に敏感なレイカだった。彼女は椅子からガタッと音を立てて立ち上がり、信じられないものを見るような目で蒼真を指差している。一番驚いていたのは間違いなく彼女だった。その瞳孔は恐怖に近い驚愕で見開かれている。


「ちょっ、ちょっと待ってよお父さん! 国民英雄賞だけでも頭が追いつかないのに、防衛大臣って……それって、あの日本中の軍事組織のトップに立つってこと!? テレビで政治家が記者会見してる、あの防衛大臣!?」


レイカの叫びを合図に、周囲の家族たちもようやく現実感を取り戻したのか、一斉にざわめき出した。


「大臣って、国のトップの一人でしょう?


「お父さん、それって明日から会社行くのとはわけが違うよね……?」


「国会議員とか、そういう人たちがなるやつじゃなかったっけ……?」


リビングは一気にパニック状態のような混乱に包まれた。蒼真は苦笑いを浮かべながら、両手を軽く振って家族たちをなだめるように制止した。


「まあ、落ち着いてくれ。みんなが混乱するのも無理はない。蒼真自身、辞令を受けたときは我が目を疑ったからな。だが、これは決定事項だ。そして、それに伴って、明日からの我が家の生活スタイルも大きく変わることになる」


蒼真は呼吸を整え、淡々とこれからの実務的な変更点を告げていく。


「まず、今度から私の勤務先は、これまで通っていた討伐庁ではなく、中央官庁街にある**『防衛省』**の本庁舎へと向かうことになる。毎日の通勤の勝手も変わる」


家族たちは息を呑んで蒼真の説明を聞き入っている。


「行きも、帰りも、移動はすべて専用の送迎用公用車になる。自分で運転したり、満員電車や普通の移動手段を使うことは今後一切なくなる。また、それだけではない。私が乗る送迎車の前後には、常に警護のための護衛車が数台連なって追従することになる」


「護衛車……って、SPとかが乗ってるアレ!?」


蒼也が声を荒げた。私は静かにうなずく。


「そうだ。それだけではない。我が家の敷地内、および私の身の回りには、今後は常に専門の護衛人員が常駐し、身辺を警護することになる。我が家の警備体制も、大幅に強化されるそうだ」


「ま、待ってよお父さん……それじゃあ、私たちが普通に学校に行ったり、買い物に行ったりするのにも影響が出るんじゃ……?」


妻が不安そうな表情で尋ねてきた。私は彼女の目をしっかりと見て、優しく首を横に振った。


「その点は心配いらない。国としても、君たちの安全確保を最優先事項としている。必要な警護体制は整えられるそうだ」


怒濤のような説明を受け、家族たちは再び言葉を失っていた。国民英雄賞という名誉だけでも重すぎるというのに、日本の国防の最高責任者である防衛大臣への就任、そして家全体が国家の警護対象になるという現実。あまりにもスケールが大きすぎて、誰もが頭の中で処理しきれずにいるようだった。


蒼真は、部屋の中をゆっくりと見渡し、最後に大きな声で問いかけた。


「……さて、ここまで一気に説明してきたが、何か、今の時点で質問はあるか?」


しかし、誰も答えなかった。


凄すぎて、圧倒されすぎて、家族の誰もが何から質問していいのかすら分からず、ただただ口を開けたまま私を見つめているだけだった。誰も、声を出す者すらいない。


「……誰もいないようだな」


私は小さく息を吐き出すと、ピシッと背筋を伸ばし、最後に家族たちへ告げた。


「では、今日の連絡事項は以上だ。急な話で戸惑うことも多いだろうが、明日から少しずつ生活に慣れていってほしい。――以上、解散!」

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