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──濃すぎる。
それが、ここ最近の感想だ。いつも通り朝練に参加し、パンを配っていたファリーナが第二王子と会いたいと話しだしてから、怒涛の日々が過ぎていた。
なし崩し的に名前で呼び合うことになり、騎士科の面々に連れられるまま、売店に出向くことになった時は面倒なことになったと思った。絶対僕が第二王子だから店員が忖度すると思っただろ、あいつら。でも、僕のお陰じゃない。ファリーナなのパンが美味しいから正当に採用された。それでファリーナ嬉しそうに笑うから。良かったな、と素直に思った。
ただ、それだけでは飽きたらず売り出す初日に顔を出したり、試作に参加したりすることになるとは思わなかった。─気づけば、放課後に食堂へ向かうことにも違和感がなくなってきていた。
授業が終わり、身体を解しているとガイルたちがかけてくる。
「シエルー!今日も来るよな?」
「……何で僕が行く前提なんだ」
「冷却係いないと困るだろ」
「あと味見係」
「それは他にもいるだろ」
「ファリーナがシエルさんは舌が確かなので!って言ってましたけど」
「…………」
意味が分からない。何で僕が、菓子作りを手伝うんだ。
ただ、中々頼られる機会がなかった分、むず痒い
気持ちになる。舌には自信があった。幼少期から散々美味しいものにも、危険なものにも慣れされられてきた身だ。
それに。初めて食べた彼女のパンを思い出す。自慢するだけある、最高のパンだった。あの小麦で作ったお菓子なんて、間違いなく美味しいに決まっている。甘味は疲労に効くことだし。
自分で自分に言い訳しつつ、結局揃って食堂に向かうことにした。
「よ!ファリーナ、やってる?」
「ガイルそれ酒場っぽくない?」
「あんたその年で出入りしてるわけ?」
「うわー、引くわぁ」
「おいやめろよ!」
がやがやと入っていくと、ファリーナがこちらを向いて笑顔を浮かべた。
「皆さん!来てくださってありがとうございます!」
「あ、こら手元─!」
「え!?うわ、」
パフン。
言ったこっちゃない、粉を振るってるときにこちらを向くから。
ファリーナは、上半身粉まみれになっていた。特に眼鏡。
「大丈夫か?」
「いやー、やってしまいました。こんなはずでは…」
「すっごい粉まみれね、制服替えとかある?」
「足元も気をつけて」
粉を回避しつつ近づくと、ファリーナは眼鏡をあげた。
その姿を見て、止まること一秒。
「っあははははははははは!!!」
「な、失礼ですね!?」
「きみ、だって、かお…!!」
眼鏡を掛けていた部分だけが綺麗に残って、周りは真っ白。これで笑わないなんてあり得ない。
エリナやミアは流石に耐えていたが、男は全員爆笑していた。面白すぎるだろ。
「狙ってやってないのがすごいです」
「ルークさんもひどい…」
「男ってサイテー」
「いや笑うだろ、これは」
「トムは今日試食なしにしときましょ、ファリーナ」
「な!そんな後生な…」
「あーこほん、レディお顔が少々…ぶふっ」
「ガレンはさらに最低ねぇ」
女性陣の冷たい視線に少し罰が悪くなる。吹き出さないよう気を付けつつ、真摯に謝ることにした。
「悪かったよ。大丈夫か?」
「全然悪いと思ってない顔ですね…」
「いや、ほら、つい…」
「つい!?」
「鏡見るか?」
持ち歩いている手鏡を差し出すと、皆に目を丸くされた。なんだよ、悪いかよ持ってて。
「意外~!そういうの持ってるの?」
「親に持たされてんだよ」
「お、おやぁ…」
「つまり、そういうことか」
どう納得したのかは知らないが、親に持たされていることに間違いはない。正確には親付きの侍従に身だしなみを整えるように、と渡された物であるとしても。
ファリーナも目を丸くしつつ受けとり──吹き出した。
「なんっですかこの顔…!」
「な、な、俺らが笑ったの分かるだろ?」
「試食なしは止めてくれよお」
「本当に女性に失礼なことをしました…」
「良いですよ。むしろ、エリナもミアも、よく笑わなかったですね?」
「うんまあ、正直面白かったわよ、ねえ?」
「ええ。でも、ファリーナの心配が先に来ましたから」
「……まあ、悪かった」
「ふふ、もう許してます」
そう言って笑ったファリーナの頬には、まだ白い粉が少しだけ残っていた。
指摘するべきか迷っているうちに、ガイルたちがまた騒ぎ始める。
結局、今日も賑やかだ。
──本当に、濃すぎる。




