表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎令嬢は直訴がしたい  作者: 夢幻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/33

5




──気になる。


翌日の昼休み。

地域史ではメモを盛大に間違え、法学では条文を3回も読み違えと、授業中からずっとそわそわしていたけれど、もう我慢できない。本当に売られているんだろうか。 誰か食べてくれているんだろうか。 パンには自信があるとは言ったが、それは食べてからの話。 誰か、あのちょっと無骨な茶色いパンを手に取ってくれているんだろうか。

パンには自信がありますと大見得を切ったものの、それは食べてさえもらえればの話だ。王都の洗練されたお菓子や白い柔らかなパンに気圧されて、まず選ばれすらしないなんてことになったらどうしよう。


落ち着かないまま、許される最大限の小走りで売店へ向かう。いつもながら大賑わいの売店に入ると。


「!!」


棚に並んでいたライ麦パンは、朝に置いた分の半分以上がなくなっていた。


「パンってまだありますか!?」


「おい、こっちが先並んでただろ。2個ください!」


「ねえ騎士科のおすすめってこれ?」


店内には予想外の行列ができていて、先輩が息をつく暇もない様子で袋詰めをしながら、目まぐるしく動き回っている。思わず呆然と立ち尽くしてしまった。


「……すごい」


思ったより大きくなったその声に気づいたのか、先輩が顔を上げてにこりと笑った。


「来てくれたのね!予想以上よ、これ」


「本当ですか……!?」


確かに飛ぶように売れている。パントーニのパンの良さを知ってもらえたなら、これ以上嬉しいことはない。

先輩は忙しく手を動かしながら、目を細めて言った。


「騎士科の子達が朝から宣伝してくれたみたい。『朝練後にこれ食わないと始まらない』って売店前の廊下で演説みたいなこともして」


そこへ、また次々と声が飛んでくる。


「パンって何個ありますか?」


「1つください!」


「待ってもうこれしかないの?!俺、3つ!」


騎士科の黒制服に、魔術科のローブ、同じく政務科の三つ揃えまで。人が美味しい草を見つけた羊のように押し寄せてくる様に慌てて袖をまくる。

どう考えても自分のせいで大忙しになっている。


「ドーミエ先輩!手伝います!」


「ありがとう、とっても助かる!はいはいちょっと待って──そっちの商品取って!」


「はい!」


「袋!」


「はい!」


「釣り銭!」


「はい!!」


気づけば、ファリーナは完全に店員になっていた。先輩が袋詰めをし、ファリーナが商品を渡し、お釣りを渡す。

行列は一向に途切れず、むしろ増えていく。


「これどこのやつ?」


「ありがとうございます!パントーニ領のパンです!」


初めて自分の領地名を王都の生徒に直接伝えた瞬間は、胸の奥が熱くなった。

遠く離れた黄金色の麦畑と、朝早くから畑に出る領民の顔が浮かぶ。


(これが売れ続ければ……少しは領民の負担も減るかもしれない!)


そう思うと気合いが入るもので、手はどんどん動いていく。


「そちら最後の一つです!」


「また明日も置きますので、よろしくお願いします!」


売れてる。本当に、売れてる!

目まぐるしい忙しさも、立ちっぱなしの足の痛みも気にならないほど嬉しい。踊り出したいほどだ。

財政の厳しい領地を支えるため、売れる特産品を考えたり、遠方の商人と書類の上で交渉したりすることは何度もあった。けれど、こうして自分が愛する領地の結晶が、目の前の人々を笑顔にし、直接手渡されていく現場を味わうのは生まれて初めてだった。

胸の奥から、じんわりと温かい、たまらない気持ちが込み上げてくる。






ようやく行列が落ち着いた頃、ファリーナはカウンターに突っ伏した。


「はぁ……疲れた……でも、嬉しかった……」


「よく頑張ったわね。今日の売上は上々。明日も置く?」


「ぜひお願いします!」


願ってもないことだ。出来ればチーズも時期が来れば羊毛のマフラーも置かせてほしい。

欲を膨らませつつ勢いよく頭を下げる。

その時、売店の入り口に騎士科が顔を覗かせた。


「おー、ファリーナ!どうだった?」

 

「人、すごかったみたいね?」


「売れてたか!?」


売れてたどころか。

気持ちと比例して口角も上がる。


「はい!すごく売れました!みんな、ありがとうございます!」


騎士科の面々が「やったな!」と盛り上がる中、ふと視線を感じて振り向いた。少し離れたところで、シエルが立っている。

いつもの仏頂面で腕を組んでいるけど、目が少し柔らかい。ファリーナは思わず駆け寄った。


「シエルさんも来てくれたんですか!?」


「こいつらに連れられてな」


素っ気なく答えられても何も気にならない。気分はノリノリだし、何より。見に来てくれた、それが事実だから。


「ありがとうございます。皆さんのおかげでこんな風にできて……本当に心強かったです」


「何を言うかと思えば。僕は何もしていない。……君が、必死に頑張っていたからだろう」


呆れ気味の表情でも、自分の頑張りを認めてもらえて。胸がふわりと温かくなった。


「緩みすぎだろ、顔」


「だって嬉しいんですもの」


エリナがにこやかに声をかけてくる。


「良いじゃないの、笑顔大事よ!」


「ありがとうございます!!」


「よし今日はお祝いだ!みんなで…何しよう?」


「食堂メニュー全制覇!」


「それはトムがしたいだけだろ?」


「あ、ケーキ買うのは?」


「それ良いじゃん!」


また騒がしさが戻ってくる。ファリーナは今日一番の笑顔を浮かべた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ