表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎令嬢は直訴がしたい  作者: 夢幻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/33

3



朝靄の残る訓練場を見下ろしながら、ガイルは目を細めた。


「……またいる」


「ほんとだ」


隣でエリナが頷く。

騎士科の朝は早い。 自主練に来る者も少なくないが、その中でも第二王子シエルは別格だった。 毎朝誰より早く来て、黙々と剣を振るう。近寄り難い空気も相まって、自然と周囲は距離を取っている。


──はずだった。


「最近毎日いるよな、あの子」


訓練場の端。 大きな籠を抱えた少女が、にこにこしながらシエルへ何か話しかけている。

やたら声が通るせいでこちらまで丸聞こえだ。


「今日は胡桃いれてみたんです!」


「……朝から重い」


「育ち盛りなんだから食べてください!」


「君、僕の親か?」


「違います。でもいつもちゃんと食べてくれるじゃないですか」


「…………」


遠目でも分かる。 第二王子が、反論できていない。


「えっ、何あれ」


ガイルが思わず呟くと、エリナも困惑した顔をした。


「私もびっくりしてる」


「いやだって相手第二王子だぞ?」


「そうなのよねぇ……」


普通、王族相手にあんな距離感にならない。というか、誰かと親しくしている姿をほとんど見たことがなかった。


「……あの子大丈夫かな」


「怒らせたら終わりって感じするもんな」


「それは偏見じゃない?」


「いやでも怖いだろ」


実際怖い。 無表情だし、強いし、王族だし。

その時だった。少女が籠から包みを取り出し、シエルへ押し付ける。


「ほらこれ!」


「いらな──」


「食べて感想ください!」


「…………」


押し切られてる。

しかも数秒後、普通に食べ始めた。


「食うんかい」


ガイルのツッコミに、エリナも思わず吹き出す。


「ちゃんと食べてるわね」


「毒見とかなく?」


「警戒しなくていいと思ってるんでしょ」


確かにそうだ。あの子にそういう邪な感じはない。

シエルは無愛想な顔のまま咀嚼し──少し間を置いて口を開いた。


「……うまい」


「ほんとですか!?」


ぱあっと少女の顔が明るくなる。


「でも胡桃はもう少し砕いた方がいい」


「なるほど……!」


真剣にメモまで取り始めた。

何なんだあれ。


「……案外普通?」


「普通っていうか」


エリナは少し考えてから言った。


「嫌なら、あんなに話さない気がする」


その言葉に、ガイルは再び訓練場を見る。

第二王子シエル。 怖くて、近寄り難くて、雲の上みたいな存在。


だったはずなのに。


「なんか……思ってたより怖くないな」


その数日後。


「うっっっま!!」


静かな朝の訓練場に、馬鹿でかい声が響き渡った。


「トム、声デカ」


「いやだってこれめちゃくちゃ美味いぞ!?何これ!?」


「パントーニ領の小麦を使ったパンです!」


「毎日持ってきて!!」


「図々しいなお前」


流石食いしん坊、とあきれてしまう。ただ、ファリーナは嬉しそうだった。そして。


「……君も食べるか?」


ぽい、とシエルがパンを投げて寄越す。


「え?」


「余ってる」


「いやでも」


「いらないなら返してくれ」


「食う!!」


慌てて受け取る。

うまい。めちゃくちゃうまい。


「なにこれ」


「でしょ!?」


「なんでトムが得意げなんだよ」


朝の訓練場に笑い声が混じる。

その光景を見ながら、ガイルは思った。


──ああ、これ。


多分もう、皆そのうち普通に来るようになるな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ