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ファリーナはふらふらしたかと思うと、また扉に向かい脱兎のごとく逃げ出した。
「っほんとあんたバカ!」
エリナが叫び、追いかける。追いかけようとした僕の腕は、強い力で引かれていた。振りかえると、目の笑っていないガイル。
「お前、ほんと、それはないわ」
意外と腕力のあるガイルに腕を掴まれると、一歩も動けなくなった。
なんでだ。ファリーナがまた泣きそうな顔をして逃げてしまった。早く追いかけて、復興資金の話を詳しく説明して安心させてあげないといけないのに。
「放してくれガイル! ファリーナを追わないと!」
「追ってどうすんだよ。お前、自分が今何言ったか分かってんのか?」
低い声で言われ、ルークの方を見ると、彼はいつもの優雅な笑みを完全に消し去っていた。
「シエル……。大変不敬ですけど、今のプロポーズは最低中の最低だと思いますよ」
「うん、百年の恋も覚めると思うわ。あり得なすぎる」
「最低……!? 僕がパントーニのためにどれだけ苦労して婚姻の王命をもぎ取ってきたか…!」
あの王妃の嫌がらせに乗じて父上を説得し、パントーニに一番有利になる条件を必死で勝ち取ってきたのだ。結婚すれば、パントーニは国費で完全に救われる。
なのに、ようやく喉の詰まりが取れたらしいトムが、涙目で僕を指差した。
「シエル、お前……復興費用が出るから結婚しようなんて言われて、喜ぶ女の子が世界にいるわけないだろ!!」
「……ファリーナなら、領地が大好きだから。喜ぶかと。………………………領地のためなら僕と、結婚してくれるかと」
正直に話すと部屋の温度がさらに数度下がった。ガイルがぽき、ぽき、と拳を鳴らす。ルークがこめかみを押さえた。
「シエル。貴方、プロポーズというものを何だと思ってるんです?」
「……? 将来を誓うことだろう」
「そこじゃない」
ガイルが即座に切り捨てた。
「お前さっき、好きだから結婚したいって一言でも言ったか?」
「……必要か?」
またもや部屋が静まり返る。ガイルは震えていた。
「必要だろうが!!!!」
部屋が揺れるほどの怒号が飛んだ。
思わず肩を震わせる。なんで怒鳴られているんだ。
「いや、好きだからに決まってるだろ」
「先に言え!!!!」
また怒鳴られた。トムが机に突っ伏す。
「なんでそこ省略したんだよぉ……!」
「だって、好きでもない相手と結婚するわけないだろう」
「ほんと王家の割に変に純粋だな…」
ガイルが深々とため息をつき、頭をぐしゃぐしゃ掻いた。
「いいか、シエル。ファリーナは今、自分が王子のお前の足を引っ張ったって思い込んでんの」
「そんなことあるわけない」
「お前はな。でも本人はそう思ってる」
「……」
「そこにお前が来て、復興資金が出るから結婚しようって言ったらどう聞こえると思う?」
自分だったらどう思うだろうか。
「……助けたい、では?」
「政略結婚」
「責任」
「同情」
「救済措置」
口々に刺される。自分でも分かるほど顔が固まった。
「…………」
「ちなみに好意はちっとも伝わってねえ」
「……なんでだ」
「お前が言ってねえからだよ!!!」
「……好きだという前提で話していたんだが」
誠実に対応したつもりだったのに。誰もが何とも言えない顔をしている。
「伝わるか馬鹿!!」
とうとう、殴られた。
そしてその日以来ファリーナは、本当に学園から姿を消してしまった。




