28
「ほんと、あんた達って世話が焼けるわ」
「ありがとうございます、エリナ」
ほのぼの会話しながら扉を出ると、ミアとルークが揃ってニコニコしていた。
「ミア、ルークさん…」
「久しぶりですね、ファリーナ」
「エリナの速さに私はついていけないから。待ってたわよ」
「アフタヌーンティーのコック達も味を聞きたいと待ってますよ」
冗談めかして言われ、自然と笑みが溢れる。本当に、私はなんでこんな温かい人たちに裏切られた気持ちになっていたんだろう。ずっと、優しくしてくれているのに。
「最高でした!…ぜひコック達に、直接お礼を言わせてください」
「じゃ、行きましょうか!」
向かう先は、厨房。あの温かな場所。
◇◇◇
「…遅くないか」
「お前それ何度目だよ」
「だいじょーぶだって。女のコのことは女のコに任せなよ」
「そうは言っても…」
今日こそはファリーナを捕まえる、と息巻くエリナになにか手伝わせて欲しいとお願いをしたら、お茶会の準備をさせられた。野戦料理はそれなりにこなせても、お茶会の料理なんて食べることしかない。食堂の方にも師事を仰ぎつつ、細かいところに目をつぶれば何とか形になったスタンドを個室においてから、大分時間が経っていた。
僕には早く伝えないといけないことがあるのに。焦燥感に襲われて、あちこちフラフラしてしまう。
「出産前の熊か!」
「出産前の熊ってこんなんなの?」
「そー、気が立っててやばいらしい」
「こわ」
うるさいな。蹴っ飛ばしてやりたいところだがそれどころじゃない。
ミアかルークを連れていってからもそれなりに時間が経つんだぞ。お前ら落ち着きすぎだろ。
何度目か─いや、何十度目か、扉に目を向けた時、軽やかなノックが響いた。瞬間、緊張する。
「さあ、レディ。腕によりをかけましたので、コック達にお褒めの言葉を」
キザったらしい言葉も、ルークが言うと品がある。ガイル?あいつは慣れすぎてて論外。言葉が聞こえた後、現れた人参頭に何だか泣きそうになった。─ファリーナだ。ファリーナが、ちゃんといる。
「あの、皆さん…避けてしまって、ごめんなさい。色々と考えてしまって、煮詰まってしまっていて。でも、解決しました!是非また、一緒にいさせてください」
「いやー、もうすごい寂しかったわ、なあ?」
「まあな。ただ仕方ないさ、俺らはシエルのこと知ってたわけだし」
「それはそう。あまり気にやむなよ、ファリーナ」
ありがとうございます、と微笑んだ彼女と視線が合う。
「シエルさんも、本当にありがとうございます。知らなかったとはいえ、失礼なこともしてしまい…」
「…」
「でもまた、仲良くしていただけたら嬉しいです」
「…」
「シエルさん?」
第二王子ではなく、シエルと呼んでくれた。喜びで胸がいっぱいになった直後、眼鏡の奥の瞳に泣いた痕跡を見つけて頭が真っ白になった。とにかく早く伝えないと。そうすればファリーナはもう領地のことで泣かなくてすむ。
「僕と結婚すれば、王家の者が住まうところとして復興資産が出る。結婚しよう、ファリーナ」
「…え?」
「結婚すると、パントーニは王家の後ろ盾を得られる。復興も安定する」
何故だか部屋がしん、と静まり返る。
頬杖をついていたガイルの顎が落ち、ルークは優雅な笑みを張り付かせたままフリーズした。トムにいたっては、食べていたサンドイッチを喉に詰まらせて盛大にむせ込んでいる。
エリナが頭を抱えた。
「は???」
ミアがそっと目を覆う。
ファリーナの顔から、すうっと血の気が引いた。




