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早速ファリーナに、復興資金が出ることを伝えようと思ったのに。
厨房に顔を出すと、今日は来てないのよ、と教えられた。なら朝練は、と向かえばファリーナはいなかった。代わりに今まで朝練に出てなかった奴らや、見たこともない他の科がわんさかいる。
「きゃー!シエル様よ!」
「シエル様!武勇、聞き及びました!」
「私に稽古をつけてもらえませんか?」
見慣れた人参色は、見えない。眼鏡の反射が見えた気がして駆け寄るとガイルだった。思わずため息をつく。
「何おまえ!なんで人の顔みてため息つくわけ!」
「いや、何でも…。ガイル、どういうことだこれ…?」
「どういうことも何も。本来はこうあるべきたったんだろ?」
「別に望んでない!」
「いやそりゃ知ってるけどさあ」
話している間にも、囲まれていく。どうしようもない。途方にくれた顔をしていたのだろう、今度はシエルにため息をつかれた。
「…今ルークが先生呼びに行ってるよ。何とかなるだろ」
「!本当か?」
「ああ、ほら」
指差すほうを見ると、サリアス先生が大股で歩いてくるところだった。それを目にした瞬間、他の科は逃げ出し、騎士科の空気は固くなる。─なんせ、大層強面だから。ファリーナが気にせず接しているから忘れていたが、怖がられることの多い先生だ。
「朝練の場が浮わついているときいたが」
「いっいえ、そんなことは」
「決してないです!今から始めるところで、なぁ?」
「ああ。さ、ペアを作ろう」
静まり返った訓練場は、勿論パンの匂いなんか漂ってこない。前に戻ったみたいだ。
朝練後、サリアス先生と共に蜘蛛の子を散らすように去っていく面々を見送っていると、いつものメンバーが近づいてきた。
「なんか…すごかったな?」
「俺いつもに増してお腹空いたわ」
「あれ、どうにかなんないわけ?ちゃんとやって欲しいわ」
普段通りの口調にほっとする。そしてやはり、朝日が反射してすこし眩しくなるあの眼鏡姿はない。
ばん!と背中が叩かれる。鋭い目のエリナがそこにいた。
「なに浮かない顔してるわけ」
「………ファリーナがいないな、と」
「そりゃそうっしょ、最初のほういってたじゃん。第二王子探してるって」
「その第二王子がまさかシエルだなんて!て驚いてそ~」
「王子にストレッチのペア組ませた!?とかパン作らせた!?って青くなってそうですよね」
「別に僕は…嫌じゃなかったし…」
「そんなんファリーナが分かるわけないでしょ。あるのは事実だけ、そして正直他の殿下たちにやったら不敬で怒られるわよ」
「それは確かに!!」
どっと周りには笑いが起きるが、全く笑えなかった。
ガイルが肩を組みながら言う。
「まあ、売店にはいるんじゃない?責任感強いし、ファリーナは」
「会えるかは別問題だけどな!」
「縁起でもない…」
本当に、縁起でもない。僕は早く伝えないといけないんだ。
◇◇◇
昼はミアとエリナがファリーナ探しに行ったが、見つからなかったと残念がっていた。
ここならいるだろうと踏んで、放課後の売店に行こうとすると、また人に囲まれた。授業の合間も囲まれたが、よくこんな面倒なことを喜んでやるなと兄のことを感心してしまう。自分一人で捌ききれる自信がなかったので、一緒にガイルに来てもらって正解だった。
「シエル様!この間勧めていただいたリボンつけてみましたの」
「あ、シエル様お茶にしませんこと?」
「シエル様、私は伯爵家次男で─」
「はい、こちら通りますよ~」
「おいなんだよお前!」
人を避けようとしたガイルの腕が捕まれる。止めようとして、踏み出した瞬間。
「ちよっと!ガイル君に何するわけ?」
「あんた表でなさいよ」
「え、あ、え???」
「腕はなしてあげてよ、かわいそう」
「そーよそーよ!」
わらわらと女子生徒が集まってきた。ガイルの腕を掴んでいたやつと一緒に目を白黒させていると、ガイルは気にした様子もなく笑う。
「いやー皆ありがとう!ごめんね、こんなやつの相手させて」
「いいのよ!またデートしましょ」
「あっずるい。私はカフェ行きたいな」
「私は公園かな~。またね!」
「ばいばーい」
嵐のように去っていく。ガイルを思わず見上げると、肩をすくめられた。
「うーん、俺の女友達?かなあ?毎週末デートっていったでしょ」
「おんな、ともだち…?」
友達と言うには、なんか違う気が。
小さな声がおとされる。
「俺ん家と協力関係にある─うーん、派閥?の家の子達なの。情報収集と共有兼ねて遊び回ってるわけ」
「!」
「内緒な。お前、言わないと分かんないだろうなと思って言っただけだから。王子のわりに疎いもんな」
失礼な言葉だが事実だし、何より口調が優しい。言葉に応えるように、深く頷いた。
何とか売店にはたどり着いたのだが。
「いらっしゃいませ。討伐おつかれ様、話にはきいてるわ」
「色々とありがとうございました。ドーミエ先輩、ファリーナは…」
「売店は物を売るだけが仕事じゃないから」
それだけを言って、にっこり笑われる。ここにも姿はなかった。
売店を後にしながら、考える。
「どこにいるんだろう…」
「あとは政務科だし図書室とか?課題やるならあっちだろ」
「確かに」
足を図書室へ向けた、その時。
「シエル」
「兄上…」
今日も沢山の人を引き連れ、魔術科のローブにアクセリーを重ねづけした華やかな人が現れた。学園で話しかけられるのは初めてなので、少し緊張してしまう。
「討伐ご苦労様。そちらは君の側近かな?」
そっきん。側近?王子への礼をした後はいつものように佇んでいふガイルを思わず見つめてしまう。兄の後ろに控えている、よいしょが得意な奴らを見る。いや全く違うだろ。
「いえ、友達ですが…」
「ともだち?」
今度は兄に不思議そうな顔をされてしまった。相変わらず話が噛み合わない。向こうもそう思ったのだろう、気を取り直すようにこほん、と咳をしてみせた。
「まあいい。さっき野菜に焦がれたうさぎさんにあったよ。プルプル震えて、土に帰りたそうだった。きっと君なら月をも取ってこれるだろう、太陽をおとして」
「はぁ…?」
全く言っている意味が分からない。言うだけ言って満足したのか、集団は去っていく。
呆然としていると、ガイルに小突かれた。
「お前ちゃんと分かってる?ファリーナいたって」
「は!?そんなこと何時言ってた!?」
「いま」
「早く行くぞ!」
「どこにいるかは言ってなかったじゃん」
「は…?」
ガイルはまたため息をついた。悪かったな、察しがわるくて。
「お前が詩歌苦手なの分かっててわざと言ったんだろうな………。野菜に焦がれたうさぎさんがファリーナだろ。土に帰りたそうだったんだから、追い詰められてたんだろ。月をも取ってこれるってことは、望みを叶えられるってことだ。太陽を落とすんだから…お前、王子やめるわけ?」
「なんだその意味わからない解説は」
「はあ!?丁寧に解説してやってんだろ!」
そう言われても、わからないものは分からない。ガイルは三度目のため息をついて、頭に手を当てた。
「もーお前、よく王家でそだってそうなったよな…とりあえずファリーナ学園にいること分かって良かったじゃん、実家帰ってなくて」
「!そんなこと考えてなかった」
「領地があんなんなってたら、気にするだろフツー」
「そうか、そうだな…」
「ま、気長に探していこうぜ!」
「…ああ」
彼女は今、何を考えてるんだろう。
王子だってバレて、距離を取ってるんだろうか。
あの明るい笑顔が、最近見られないのが、こんなに寂しいなんて思わなかった。
ちら、と売店の方を見るが勿論姿はない。
「……いないな」
小さく呟いて、ため息をついた。
周りの騒がしさの中で、初めて「静かすぎる」と思った。
だが、その次の日も。次の、次の日も。そのまた次の日だって。ファリーナに会うことは、一度もなかった。




