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連れてこられた場所は王城の謁見の間。にこにことしている王と、不機嫌を隠そうともしない王妃。兄は、いなかった。
「グランド・ボア討伐、見事だったぞシエル!」
王は珍しく上機嫌だった。側近たちも口々に称賛する。辺境の被害を最小限に抑えたこと。 王宮騎士団が動けなかった問題を、学園の演習という形で解決したこと。どれも、本来なら大人たちが─王宮が、やるべきことだった。
相変わらずだな、と内心毒づく。
「褒美を取らせよう。何が望みだ?」
その瞬間、ファリーナの顔が浮かんだ。踏み荒らされた麦畑に泣くのを堪えていた横顔。
欲しいものなんて、最初から決まっていた。
すっと頭を下げ、国王に願い出る。
「では、報奨として、今回甚大な被害を受けたパントーニ領への復興資金の援助と、来期からの減税を求めます」
「ほう…?」
側近たちのざわめきが聞こえる。ここで権力を得て、王位争いに発展させる気だと思われていのかもしれない。変な方に頭が働くやつばかりだ。そんなことするわけないだろ。
静かに壇上の声を待っていると、ぱちん、と扇がなった。見ると、王妃が目を細めて笑んでいる。
「素晴らしい慈悲の心ですこと。そうやって地方から自分の駒にしていくつもりかしら?」
そういえばこの人も変な方に頭が働く人だった。
ため息をつきたくなるのをぐっとおさえ、努めて冷静に言葉を返す。
「いえ、そんなつもりは全くありません。ただ、随分と──大変そうでしたので、穀倉地帯は」
「冷遇されていると?」
「騎士団の派遣が後回しにはされていたかと」
売り言葉に買い言葉。少し突っ込みすぎたかもしれないが、後悔はなかった。王妃はしばしこちらを見た後、嫌な笑みを浮かべた。
「そう言えば貴方と一緒にパンを捏ねていた子の領地だとか。好意もあるのでしょう。一地方に出すお金はありませんが、貴方がそこに婿入りするなら話は別です。住まう地という名目で出せましょう」
「なに、そうなのかシエル?」
「は、いえ、パンを捏ねていたのは事実ですが、」
「なら良いじゃない!素敵だわ、身分を越えた恋。そして二人は領地を豊かにすることに注力していく…ああ、なんていいお話なの!」
芝居かかった王妃の様子に、地方に引っ込んでろという意を感じとる。そこに怒りを覚える以上に衝撃的な内容があった。僕が、ファリーナに婿入り??
不完全な第二王子だ、攻撃魔術一つ放てない役立たずだと、この城で何度嘲笑われてきたか。だが、役立たずでもその王子という肩書きが、今、彼女の領地を救い、彼女を僕の隣に繋ぎ止めるための最強の武器になろうとしている。
ふと出発前の父娘の会話を思い出す。
『ところでファーラ、お見合いの件なんだけど─』
『さ、皆さん学園に帰りましょう』
お見合いが進んでいるのか。乗り気じゃないならば、僕ならば。どうなんだろうか。大義名分も得たことだし。パントーニ領も救えて、僕も彼女の隣にいられる。それを彼女が望むかは、とりあえず考えないことにした。打算的だと言われても構わない。
王妃を上回るような仰々しさで、頭を下げる。
「……王妃殿下のお言葉、謹んでお受けいたします。不肖の身ながら、パントーニ領の復興に生涯を捧げる所存です」
床を見つめる口元が、どうしても緩んでしまうのを必死に堪えて。
ありがとう、王妃陛下。あなたがくれたのは悔しがるような追放命令じゃない。──世界で一番欲しかったものだ。
王宮騎士団を出すのさえ渋った辺境への莫大な援助金。そして、ファリーナの隣という特等席。どんな魔法を使っても手に入らなかったものが、今、手の中に落ちてきた。
待っててくれ、ファリーナ。今度は第二王子として、君のすべてを救いに行くから。




