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剣を地面に突き立て、大きく息を吐く。
静寂が戻った畑に、土煙がゆっくりと落ちていった。
振り返ると、ファリーナが両手で顔を覆ってしゃがみ込んでいた。肩が震えている。
「…ファリーナ?」
慌てて駆け寄り、泥だらけの手を伸ばしかけた。でも触れていいのか分からなくて、手が宙で止まる。
「泣いてるのか?」
「…ううっ、うぅ……」
ファリーナは顔を上げなかった。代わりに、嗚咽が漏れる。
ますます戸惑ってしまう。いつも明るくて強引で、鍛錬でヘロヘロになっても笑ってた彼女が、こんなに泣くなんて想像もしてなかった。
「…おい、大丈夫か?」
手を伸ばしかけた瞬間、遠くから叫び声が聞こえた。
「兄ちゃんやるなぁぁぁ!!!」
「ファリーナ様も無事か!」
「魔物全部倒したんだって!?」
領民たちが一斉に駆け寄ってくる。騎士科の面々は何とか気をそらそうとしているようだが、勢いは止まらない。
時既に遅し。
あっという間に囲まれ、背中をバンバン叩かれ、肩を抱かれ、頭をわしゃわしゃされ、泥だらけの体がみんなの勢いに揉みくちゃにされた。
「すげぇ!ほんとすげぇ!」
「あんたの魔術のお陰で、ファリーナ様の声も聞こえたぞ!」
「これで領地は安泰だ!」
必死に抵抗しようとしたが、領民の勢いは止まらない。
ファリーナは領民の声が聞こえた瞬間立ち上がり、涙を眼鏡の奥に隠すとにっこり笑ってみせた。
「みんな、本当にお疲れさま。明日はパーティーよ!」
◇◇◇
騎士科と領民の全員はとてもじゃないがパントーニ家の広間に入りきらない。パーティーは広場で行われることになった。焚き火が焚かれ、少ない物資ながら精一杯の宴が開かれる。
焼きたてのライ麦パン、残っていたチーズ、羊のスープ、みんなが少しずつ持ち寄ったもの。
それでも騎士科は笑顔で杯を掲げ、周りを囲んで騒ぐ領民と笑いあっていた。
「皆さんのおかげで助かったよ!」
「もう怖くねぇ!」
「最初はどうなることかと…」
同じように囲まれて、苦笑いしながら杯を受け取る。
「ファリーナの作戦が良かったからな」
「それは勿論そうだ」
「でもあなたの魔術で連携がとれなかったらどうなっていたことか!」
どんどん持ち上げられ、比例してどんどん戸惑っていく。こんなに素直に、泥臭く、温かく褒められるのは初めてだった。
ファリーナは、と視線を巡らせると、珍しく一人座っていた。
焚き火の明かりに照らされた顔は、王宮では見慣れた薄っぺらい張り付けた笑顔。
騎士科を褒め称える声が遠く聞こえる。ガイルがいつもの調子で話を盛りあげ、トムが笑っている。エリナが子どもたちと遊ぶ姿も見えた。皆と喜びあって、感謝も伝えたいのに。宴からすこし離れ、討伐後見て回った領地の姿を思い出す。
小麦畑は踏み荒らされ、畝はつぶれ、種は泥に埋もれていた。羊は半分が死に、生き残った牛たちは怯えて鳴いていた。ストレスに敏感な牛のことだ、生産乳量は落ちるだろう。魔物の足跡が畑に深く刻まれ、青葉が無残に散らばっていて─
今のままじゃ、税金も払えないかもしれない。自分の服や食べ物はいくらでも減らしていい。でも、こんな目に遭った領民に、これ以上辛い思いをさせたくない。
「ファリ、」
「さあどうぞ、兄ちゃんもう一杯!」
「…ありがとう」
一層笑顔が深くなったファリーナに寄ろうとするが、周りの領民がと杯を押し付けてきて、タイミングを逃す。囲まれる中から逃げ出すなんて慣れてない。
苦笑いしながら杯を受け取り、再度見る。
彼女は焚き火を見つめたまま、動かない。パーティーは賑やかに続き、結局最後まで声をかけられなかった。




