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学園にも慣れ、より騎士科の仲が深まってきた今日この頃。何かと第一王子と比較され、なんなら下に見られていた第二王子に、入学した当初はみんな遠巻きだったのだけど。同じく遠巻きにされていたファリーナをきっかけに意外と接しやすいことに気付いてからは、不敬と言われてもおかしくないほどにフランクに付き合えている。そして、どう見てもお互いに特別視している二人を、影に日向に支えてきたつもりだ。練習試合でより意識するようになったようだし、昨日なんてあの領地偏愛ファリーナがお洒落に手を出したと言うのに。
朝練開始前の訓練場へ向かう途中から、違和感を感じていた。今日はやけに静かだ。いつもならパンの試作だの課題だの、ぽつぽつ話しながら来る二人が、妙に距離を空けて歩いている。
しかも。
「おはよ! あれ、今日はリボンないの?」
ガイルの声に、ファリーナが一瞬だけ困ったように笑った。
「今日は実はその、……寝坊してしまって」
嘘だ、とすぐ分かった。ファリーナは不器用だけど真面目だ。寝坊なんてするタイプじゃない。何より、笑い方が変だった。ちら、と隣を見る。
シエルはなんとも言えない表情だった。あんたがその顔する資格ないでしょ。
「疲れがたまってるんだよ、ちゃんと休んでね」
ミアが心配そうに言うと、ファリーナは申し訳なさそうに頭を下げた。皆で視線で会話する。─間違いない、何かあった。
当たり障りのない会話を続け、さあストレッチを、というところでシエルが待ったをかけた。
「少し負荷が物足りないから、僕は今日ガイルと組む」
空気が止まった。
「は?」
ガイルが素っ頓狂な声を上げる。ファリーナの顔が、ほんの少しだけ曇った。
あーもう。
「何なの、あいつ」
思わず低い声が漏れた。
「今日は私とやりましょう、ファリーナ!」
ぱっと笑いかけると、ファリーナも慌てて笑顔を作った。
「ありがとうございます、エリナ」
無理してる。ファリーナの背中をそっと撫で、離れていくシエルの背中をきつく睨んでおいた。
◇◇◇
「で、何したのよ」
木剣を打ち込んだ瞬間、シエルの剣が鈍く受け止める。
ガンッ、と重い音。
「……何の話だ」
「ファリーナ」
珍しくシエルの斬り込みが一拍遅れた。クロだ、こいつ。
「避けてるじゃない」
「避けて…」
「何。朝からあの距離感」
「……」
打ち合いの最中だと言うのに目をそらして無言になる。うわ、分かりやす。
「最低」
言葉の勢いのままに斬り込むと、なんと1本取れてしまった。悔しいけど、いつもは全く歯が立たないのに。その瞬間、ガイルが横から割り込んでくる。
「エリナそれくらいにしとけって。俺からも言ったし。シエルもいっぱいいっぱいなんだよ」
「は? 知らないわよ」
木剣を肩へ担ぎながら、じろりとシエルを見る。
「ファリーナ、明らかにしょんぼりしてたんだけど」
「……別に傷つけるつもりじゃ」
「結果傷ついてるなら同じでしょ」
シエルが黙る。そこへ、トムがのんびり近づいてきた。
「まあまあ。シエルも初心なんだから」
「初心で済ませるようなことか?」
「初心じゃないならもっと問題じゃない?」
「エリナお前今日当たり強くない?」
「当然でしょ」
即答した。だって、あのファリーナが。笑ったり悩んだり、素直に表情に出すファリーナが。内心を隠して、無理して笑って。あんな顔するなんて。
「大体、好きならちゃんとしなさいよ」
しん、と空気が止まった。シエルが目を見開き、ガイルとトムが吹き出す。
「うわ、直球」
「エリナ強ぇ〜」
「は、なんで知って…っ!?」
シエルの顔が一気に赤くなる。自覚はしているわけね、一応前進したわけか。とはいえ。
「はあ……」
思わず頭を抱えたくなった。面倒くさい、このこじらせ男。
近寄ってきたルークが苦笑しながら口を開く。
「でもまあ、謝った方がいいとは思いますよ」
「……」
「ファリーナ、気にしてましたし」
「そうよ。あんたたちの方何度も見てたんだからね」
睨み付けながら言うと、シエルの表情が止まって、数秒黙る。
「……昼、行く」
ぼそっと落ちた声に、ふんと鼻を鳴らした。
「最初からそうしなさいよ」
するとガイルが肩を組んでくる。
「いやあ青春だねえ」
「うるさい」
「痛っ!? 首締まってる締まってる!!」
「そこ、うるさいですよ!」
「はっ!申し訳ありません!」
教師の注意を受けて、また気合いを入れ直す。
ファリーナが、寂しそうに笑っていたのを思い出し、もう一回シエルを睨んでおいた。




