15
ガイルのとんでもない冗談に翻弄されて、結局課題中や寝る前に思い出しては机に突っ伏したりゴロゴロしたり。何とか気持ちを落ち着けて来たというのに。
「……おはようございます、シエルさん」
「……ああ」
返事はあるが短い。しかも、何故か目が合わない。一昨日までは、ぶっきらぼうでもちゃんとこちらを見て話してくれていたのに。視線が合った瞬間に逸らされる。
やっぱり、ガイルの冗談に気を悪くしてしまったのだろうか。こんな田舎娘が可愛いはずないだろって?想像して一人またへこむ。
パン作り中もそうだ。前なら隣で作業してくれていたのに、一歩では近づけない距離にいる。
「あ、塩はこちらに」
「……ありがとう」
それだけ言って離れていくシエル。
嫌われた ……いや、そこまでではないかもしれない。でも、避けられている気はする。
ちら、と視線を向けると、シエルは難しい顔でパンを見つめていた。
なんとなく付けていづらくなってしまって、水色のリボンは取ってしまった。
「ファリーナ」
「ひっ!?」
突然声をかけられて肩が跳ねた。目の前にいたシエルが、何故か同じくらい驚いた顔をする。
「……なんでシエルさんが驚くんですか」
「いや、君が驚くから……」
意味が分からない。そのまま気まずい沈黙が落ちる。今日はずっとこうだ。前みたいに自然に話せない。
ぎくしゃくしたまま、朝練へ二人で向かう。
「おはよ!あれ、今日はリボンないの?」
「可愛かったのに」
「おはよう、ファリーナ。どうしたの?」
口々に言われて、少し困ってしまう。また気を遣わせてしまうのは嫌だ。
「今日は実はその、…寝坊してしまって」
「ファリーナが!?」
「珍しいねえ」
「疲れがたまってるんだよ、ちゃんと休んでね」
嘘ではない、少しは遅くなった。リボンを結ぶ時間は、十分あっただけで。心配をかけた罪悪感で胃が痛い。話を終えてさあストレッチを、というところでシエルが待ったをかけた。
「少し負荷が物足りないから、僕は今日ガイルと組む」
「えっ」
「は?聞いてないけど」
「今言っただろ」
「なに機嫌悪いの?」
「違うから」
シエルはガイルを少し離れたところに引っ張っていってしまう。これは間違いなく、避けられている。今までに無い経験に、どうすればいいのか分からない。
そっとエリナが近づいてきた。
「何なの、あいつ。今日は私とやりましょう、ファリーナ!」
「ありがとうございます、エリナ」
自分では普通に微笑んだつもりだったけど。そっと背中を撫でられ、慰められているんだと気付く。その優しさが、とてもありがたかった。
◇◇◇
「ほんっとサイテー」
「は?」
「エリナの真似。絶対言われるぞ」
「別に…最低なことなんか…」
した自覚はある。ガイルを連れていきざまにみたファリーナは捨てられた子犬のようだった。罪悪感がすごい。でも、好きだと自覚して一緒にストレッチ?出来るわけないだろ。
顔が思わず険しくなる。ガイルに大きなため息をつかれた。
「ファリーナ、リボンもつけてこないし」
「それは…寝坊したって…」
「あんなバレバレの嘘も中々ないね。てか、お前とパン作る時間あったんだろ、寝坊なわけ無いじゃん」
「…」
「どうしたわけ。ファリーナに変なこと言ったの?」
「変なことなんて…」
思わず口ごもる。変なことを言ったんじゃなくて、僕が変なだけだ。どうしたら良いか分からない。
「あーあー可哀想、ファリーナ。しょんぼりしてさあ。ああいう時に優しくされるところっといっちゃうもんだよね」
「は、?」
「辛い時に優しくする、これモテ男の鉄則。知らなかったかな?」
「まて、いたたたたた!」
「負荷強くかけて欲しいんだろ?」
「方便に決まってるだろ、ばか!」
容赦なく体重をかけられ、伸びてはいけないところまで身体が伸びている気がする。思わず睨み付けると、睨み返された。
「大切ならちゃんと大切に扱わなきゃ」
「…してるだろ、大切に」
「は?どこが?避けてるだけだろ」
「っ!」
何も言い返せない。その通りだ。自分を持て余して、避けて、結局傷つけてる。
「明日までには何とかしろよ」
「何とかって…」
「俺に頼りすぎ!」
「いたっ!」
もう一度強く、体重をかけられた。




