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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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柊の覚醒

 神殿に戻ったミコトはベットで眠っている柊を抱き上げた。

 柊は目を覚ましミコトに頭を擦り付ける。

 

「柊、お待たせしてごめんね。今からジョルジュ様の魔力と、祝福の力を渡すからね」

 

 ミコトは柊をベットに座らせその額に自らの額を当て瞼を閉じた。


 すると体の中心から込み上げる熱を帯びた不思議な力がミコトの額に集まり、それが柊に移転される。柊の目が見開かれ、強い光を帯びる。


 ジョルジュの魔力が柊に宿る。力強い柊の眼差しにミコトは息を呑んだ。

 

 次はミコトの祝福の力だ。ミコトは柊の額に口付けをする。柊の額がピカッと輝き青い瞳が一瞬黄金に輝いた。


 部屋中が光に溢れ木々や草花が喜びの歌を歌う。ミコトにはその声が聞こえた。

 柊の体が淡い黄金色に輝き纏うオーラも金色に変化し始める。


 力を移転された柊は小さな羽を広げ嬉しそうにミコトの周りを飛び始めた。

 明らかに今までの柊と違う。瞳には知性が宿り、ドラゴン王の風格が強くなる。

 

「柊、これが契りの力。ドラゴン王になるための一歩、前進したね」

 

 ミコトは嬉しそうに飛び回る柊を見つめ愛おしさに目を細めた。


  *


「ジョルジュ様、ドラゴンへの魔力移転、無事終わりました」

 モーリスはミコトから報告を受け、ジョルジュにその旨を伝えた。

「ああ、感じた。柊の魔力と俺の魔力が混ざり合い不思議なことに僅かだがドラゴンの意思を感じられた。それに、祝福の力。この世界の命が喜びの歌を歌った。私には聞こえた。ひとまず、第一歩が無事終わって安心したよ」

 ジョルジュは柔らかな笑みを浮かべモーリスに言った。

 モーリスはジョルジュの言葉に頭を下げる。創造の女神メシエに選ばれし人間だけがわかる何かがあるのだ。だが、それと引き換えに失うものもある。


 モーリスは顔をあげ含みある笑みを浮かべジョルジュに言った。


「しかし、あの日は大変でございましたね」


 あの日とはミコトが逃げ出した夜を指す。

 

「アハハ、そうだな、でも、わからなくはない。ミコトにとって全てが初めてで、背負うものの重さ、怖かったという気持ちはあって当たり前だ」

 

 ジョルジュはあの日のミコトを思い出し目を細めた。不安そうな顔のミコトがジョルジュを受け入れた瞬間、心に広がった不思議な感情。

 

「……ところでお妃の件ですが」


 モーリスは一枚の紙をジョルジュに渡す。ジョルジュはそれを受け取り目を通す。


「コレット・エマール令嬢、オレリア・ルエル令嬢、どちらも先の戦いで功績を上げた家門の出身」


 ジョルジュは顔をあげモーリスに言う。


「はい、先の戦いでジョルジュ様を支えた二つの家門、コレット様もオレリア様もこの国の皇后として遜色ない気品と知性をお持ちの令嬢。特に、コレット様は朝露に濡れた薔薇の様な初々しさをお持ちの方で……」


 話を続けるモーリスを横目にジョルジュは窓から見える神殿を見つめた。


   *


 初めて女性から逃げられたあの日、想像もしなかった現実に笑いが止まらなかった。

 けれど、プライドなのかそれもと他の感情なのかわからないが、魔法を無効にし逃げてゆくミコトを、気がついた時には裸足で追いかけていた。彼女を見失ったら、二度と探せないと分かっていただけに、夢中であの背中を追いかけた。


 またたく星の光を反射し輝く黒髪、闇に浮かぶ真っ白な衣、見失ったら二度と会えないと頬を切る冷たい風が教えてくれた。だから、魔法を使うことも忘れ朧げな後ろ姿を追った。


 ミコトがマグノリアの丘に立った時、その先に行けないことを知っていた俺はようやく冷静になった。バスローブ姿、しかも裸足。そんな自分がおかしくて、移動魔法を使わず走る自分に驚いた。こんなことをさせたミコト、彼女はあまりにも……不思議な存在だ。


  *


「……で、ジョルジュ様はいかがされますか? コレット様にお会いになりますか?」


 モーリスは窓から外を眺めるジョルジュに聞いた。


「……ああ、いいだろう」


 ジョルジュはモーリスの方に視線を戻した。ドラゴン王が誕生し、安寧がもたらされたら王としてこの国を発展させる大きな重積。その重責を共に背負う皇后の存在はジョルジュにとっても重要だ。

 共に国民のために喜び、共に苦しみ、全てを包み込む大きな器を持ち合わせる女性を選ばなければならない。


 一夜の関係をせがむ女性では到底担えない役割を、担い寄り添ってくれる女性が必要だ。

「神殿が進める令嬢なら間違い無いだろう。早速手配してくれ。あ、あと、またミコトにも会いたい。そのセッティングもモーリスに頼みたいが良いか?」


 ジョルジュは言った。モーリスは頭を下げ了承した。


   *


「おい、聞いたか? ジョルジュ様お妃候補のコレット様と本気でお付き合いを始めたらしい」


 神殿の食堂に柊の好きなフルーツをとりに行ったミコトは、若い神官たちの言葉に動きが止まった。

 聞きたくないと思う心、聞こうと立ち止まる身体、ミコトは山積みにされているりんごを取るふりをし、神官達の話に聞き耳を立てた。


「ああ、聞いた、美男美女のお二人は見ているだけでため息が出るな」

「お二人がこの国を治めるなど、考えるだけでワクワクする」


 神官達の言葉に心臓が痛くなる。複雑な感情の理由を紐解いても現実は変わらない。ジョルジュはドラゴン王を誕生させる使命と、国王として即位する準備を同時進行で行なっているのだ。

 だから結婚相手が決まったことは当たり前、それを喜ぶ人間がいて当たり前なのだ。

 そんなことはわかっているが、それでも心に重しを乗せられたようなすっきりとしない感情が生まれる。

 

(聞きたくない……)

 

 ミコトは唇を結び、皿にのせられたフルーツを手に食堂から出た。

 部屋への通路を歩きながら先ほどの言葉を思い出す。


(ジョルジュ様のお相手が決まった。そうよね、ドラゴン王が誕生したらこの国を治めなきゃいけない人だから……)


 頭では分かっているが複雑な気持ちが再びミコトを襲う。


 ジョルジュとミコトは同じ使命を持つ人間同士。

 恋愛などの感情は持ち合わせていないのだと誰もが信じ疑っていない。

 

 確かに、その通りだ。

 

 だからこそ、ミコトはただの道具として扱われているような気がし、気分が滅入っている。

 

 だが、言葉に表現できない感情が芽生えていることも否定できない。

 それが何を指すのかわからない。

 けれど、先ほどの話を耳にすると心の奥がチリチリと燻る。


「ハァー」

 

 ミコトは深いため息を吐く。

 モヤモヤした気持ちはジョルジュの噂を聞くたびにミコトを悩ませる。

 

(気分が悪い、すっきりしない)


 ミコトは部屋に戻った。

 

「柊、フルーツを持ってきたわ」

 

 先ほどまで眠っていた柊の姿が見えない。

 キョロキョロと辺りを見ていると柊がベットの下から姿を現した。

 

「柊? どうしてそんなところから出てきたの?」

 

 ミコトは床に座る柊に近寄った。


「ミコト、柊は少し大きくなった様だな」


 突然ベッドの下から声が聞こえ、ジョルジュが姿を現した。


「!?」

 

 ミコトは突然現れたジョルジュに驚き手に持っていたフルーツを落とした。

 

「あっ!!」

 

 その瞬間ジョルジュは魔法を使いフルーツは皿に戻り宙に浮いている。

 ミコトは目の前に浮かぶ皿に手を伸ばし掴んだ。すると魔法が弾け消えた。

 

「……と、とても便利、ですね」

 

 ミコトは突然現れたジョルジュに戸惑いながらも頭を下げた。


「柊の成長を見にきた」


 ジョルジュはそう言って床に座る柊を両手で掴み目の前に持ち上げた。

 柊は大人しくジョルジュを見つめている。その青い瞳はかすかに黄金色に光る。

 

「柊は私が現れたらベッドの下に潜り込んでな、だから引っ張り出そうとしていたんだ」


 ジョルジュはそう言ってミコトに笑顔を見せる。


 ミコトはジョルジュの笑顔を見て胸の中で何かが弾ける音を聞いた。

 ジュルジュを見ているとその周りが明るく見える。

 ジョルジュが笑うと部屋が真昼のように輝いて見える。

 緊張と不安と安心感。それに少しの苦しさを胸に感じながらミコトはジョルジュに言った。

 

「ジョルジュ様、突然いらっしゃるとは、正直驚きました、でも、柊のこと思ってくださって嬉しいです」


 ミコトはそう言って頭を下げた。


「ミコト、私だって私の使命を大事に思っている。柊の成長を案ずることは当たり前な発想だよ」


 ジョルジュは柔らかく微笑みミコトに言った。


 ミコトはその言葉を聞き胸の痛みを感じた。ジョルジュはミコトに会いにきたわけではない。ただ使命のためにここに現れ、柊の成長を見にきただけだ。それをさらっと言ったジョルジュの言葉に体に力が入る。


「あ、まずい、実は今から晩餐会があるんだ、少し時間があったから誰にも言わずここに来たんだが、私がいなくなったと城で騒いでいるようだ。」


 ジョルジュはそう言って城を指差しニヤリと笑い、柊をベッドの上に降ろした。


 ミコトはジョルジュの言葉を聞き心に温かい風が吹き込む。

 誰にも言わずここに来た。その言葉に不思議な喜びを感じた。

 

 ジョルジュは何も言わないミコトに戸惑いを感じながら、声をかけた。

 

「ミコト、また改める、じゃあ」


 ジョルジュはそう言ってその場から消えた。

 

 

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