夏の蝉時雨と遠足
服、着替えた!財布、OK!鍵、持った!靴を履いて、防犯ドアをオープン!
開いた隙間から、熱波が即座に侵入してきた。エアコンで慣らされた快適な温度の肌は、急な温度変化でまた少し痒くなってきた。
こんな暑さの中、エアコンの庇護を離れる理由は二つ。俺が気が触れたか、やむを得ない事情があるかだ。で、今日はその両方ってところだ。
何せ久々の一人暮らし、俺はソファの玉座でくつろぎながら漫画を読み、エアコンを満喫していた。うるさい妹も、由香里と風間のちびっ子たちのところへ遊びに行った。ところが途中で、山賊に遭遇した…いや、面倒なことに遭遇した。冷蔵庫に入れておいた飲み物が、美穂って名前の書かれた借用書に変わってたんだ!
つーか、なんで借用書がまだ俺を追いかけてくるんだよ!
他に何か冷たい飲み物はないかと探したら、なんと牛乳パックまで空っぽで、パックだけが残されていた…くそ、ゴミはゴミ箱に捨てろよな!
怒りに任せて、空のパックをゴミ箱に叩き込んだ。
まるで、火鍋をつつきながら歌でも歌おうと思ってたのに、火鍋ごと消え失せたようなもんだ!
こんなの我慢できるか?
俺は我慢ならねえ!
エアコン、ソファ、冷たい飲み物、ポテチ、これらは欠かせない!
だめだ、今日は外がナパーム弾でも降ってこようが、コンビニに行くぞ!
部屋に戻って適当にTシャツと短パンを引っ掛け、必要な物を掴んで、玄関で立ち止まった。灼熱のダメージを受けつつ、深く考え込むことになった。
外は暑いが、落ち着いて考えてみると、ここはもうとっくにナパーム弾でも食らった後なんじゃないか?こんな日に、本当に冷たい飲み物ごときのために出かける価値があるのか?
エアコンはまだ効いてるし、今すぐドアを閉めてソファに戻れば、悪くない選択に思える。
でもそれじゃあ、最高の一日は味わえない。何せ冷たい飲み物はおろか、ポテチすらないんだからな!
それに今日は、あのクソ妹が朝から由香里と風間の家に行ってて、昼も夜もあっちでご馳走になるって言うから、美穂が金を置いて、俺にコンビニで弁当を買えって言ってたんだ。
ただ、俺は昼は暑すぎるから、コーラと優一のベッドの下に隠してあるポテチでしのいで、夕方涼しくなってからコンビニに行こうと思ってただけなんだ。
なのに家には何一つ残ってなかった上に、そもそも行くべきだったんだ!
しかし、外はこのナパーム弾でも降ってそうな陽気…
右脳と左脳が攻撃し合い、悶絶していると、腹がモノを言った。
翻訳すると、とにかく食い物を探しに行けってこった!
結局、外へ出てしまった。
「あちー!あちー!死にそう!」
ドアをバタンと閉めると、俺は裏庭の物置へと小走りに向かい、乗り物を出すことにした。
日差しが強烈だ!服に覆われていない肌はヒリヒリする。早く行って帰ってこなくては。
俺はそのまま優一の、補助輪を外してあった自転車を押し出した。あの補助輪はやっぱり邪魔だからな。
そして、恒星級の光線兵器による持続攻撃を浴びながら、コンビニへと自転車を漕いだ。
道中、吹いてくる風も吸う空気も生暖かい。こんな日に出歩くのは、脆弱極まる現代人の俺にはやっぱり酷だ。
しかし、もうすぐ夏限定の冷たい飲み物が飲めると思えば、今回は何が何でもまず一口だ!
同じ大失敗を二度も繰り返すわけにはいかない!
必死にペダルを漕ぐ。どうやら家にばかりいる弊害が出始めたらしい。スタミナゲージの減りが早すぎる!大した距離じゃないはずなのに、もうゼエゼエ言い始めてる。
信号に引っかかった。ちょっと休める。
自転車を降りてしばらく立ち、向こう側の歩道を見やる。見覚えのある人影が、目的もなさそうに歩いている。
同じクラスの…えっと、なんて名前だっけ?休みが長いと、脳みそは自動的にどうでもいい情報を消去するらしい。すごくシャイで、クラスの他の連中とあまり交流してる印象はない。
どちらかというと内気なタイプの子だったか?一人で帰ってるのを見たこともある気がする。
と、その時、視線の端に、反対方向から銀色のセダンが走ってくるのが映った。全身に鳥肌が立ち、呼吸さえ止まった。心の底から湧き上がる冷たい恐怖が、再び俺の魂を包み込んだ。
本能は体を逃がそうと命じるのに、完全に準備ができているはずの体はまったく動かず、突然接続が切れたようだった。
そのセダンが何事もなく走り去っていくまで、体はようやく指令を受信したかのように、震えながら数歩後退し、そして激しい息遣いと、逃走状態に入った心臓のド派手な鼓動が響いた。
あまりにも似ていた。やっとの思いで忘れることのできた記憶に。
信号が半分以上過ぎてから、ようやく我に返り、自転車を押して歩道を渡った。
あの時、家を出た理由も今日とほとんど同じだった。
不安を抱えながら、自転車を押してコンビニへ向かう最後の道のりを歩く。熱気が徐々に心の内側の冷たさを追い払ってくれたが、過去を忘れようと必死になればなるほど、ハンドルを握る手は緊張で震えていた。
思い出したくないことほど、まるで強制再生のように脳裏に浮かんでくる。あれからもうずいぶん経つというのに。
まったくもう、この役立たずのデータは消せないくせに、さっき置いたばかりの場所なんかは全然覚えてなくて、すぐにキャッシュみたく消しやがる。
このクソソフト、役に立たない上に、新しいハードウェアにも完全には適合してないし…
さすがは俺だ、まったく役立たず!
最後の角を慎重に曲がると、もうそこはセブンイレブンだ。この店は、放課後に二人のちびっ子を送り届けた後、俺たちが家に帰る途中で見つけたんだ。
通勤路にある駅前の店よりちょっと近い。
遠くからでも、見覚えのある三人の小さな人影がこっちに歩いてくるのが見えた。誰かって…
「家、ガス爆発でも起こしたの?」
優一が歩いてくるなり、からかい始めた。
「何考えてんだよ。聖杯戦争にでも参加するってんならともかく、こんな時間に外に出るわけないだろ。」
俺も冗談めかして答えた。
「瑠依!」
由香里が俺を見つけて、嬉しそうに抱きついてきた。
「一緒に探検に行かない?」
隣で風間も嬉しそうに誘ってくる。
「何の探検?」
由香里の頭を撫でながら、話の中心人物である姉に問いかけた。
「で、今日は何があったらお兄ちゃんが外に出られるようになったの?それに、なんで私の自転車乗ってるのよ?」
彼女はわざと答えず、話題をそらすために二つも質問を投げつけてきた。
「俺が出たきゃ出るんだよ。それより、なんでお前たちがここにいるのか説明してくれ。」
話題をそらさせまいと、問い詰める。
「暇だから散歩に来ただけよ。ダメ?あんたみたいに一日中部屋に籠もってられる人間ばっかりじゃないんだから。」
言い訳が通じないと見るや、彼女は開き直って事実を言い、ついでに嫌味も言った。
「こんな天気に外にいる人間と家にいる人間、どっちが多いか賭け…まあいいや、あの子たちの親にはちゃんと断ってきたんだろうな?」
説明しようとしたが、聞く耳を持たないのは分かっていた。
「言ってきたわよ。」
彼女はきっぱりと答えた。
「もう無理だ、コンビニに入ってからにしよう。」
炎天下での立ち話に、頭がクラクラしてきた。
「兄ちゃん、やっぱダメじゃん。」
嘲笑うように俺を見る。
自転車を日陰に停め、一緒にコンビニの中へ入った。
自動ドアが開いた瞬間、店内から流れ出る涼しい空気は、まさに救済と新生への道のようだった。
「生き返った…」
服をパタパタさせながら、独り言をつぶやく。
「俺たちにも水買ってよ。」
優一がいきなり言った。
「お前のは自分で払え。」
遠慮なく言ってやった。
俺の可愛い二人のちびっ子には買ってやるが、クソ妹には無理だ!
「ひどいよ兄ちゃん、私に対してそんな態度?せめて…あ、ちょっと待ってよ!」
彼女の大げさな被害者面を聞きたくなくて、二人のちびっ子を連れてショッピングカゴを取り、まっすぐ冷凍ケースへ向かった。彼女を残して、そこで一人で余計な演技でもしていればいい。
「そんなケチくさいこと言わないでよ!」
彼女はそう言いながら、隣に来た。
「由香里と風間、飲みたいの取っていいぞ。」
隣の優一は完全無視して、冷凍ケースから夏の救命水を一缶手に取った。
「兄ちゃん、ひどーい!」
彼女は文句を言いながらも、コーラを一缶取って俺のカゴに入れた。
「400円。今すぐ払えよ。借用書は無しな。」
すぐさま手を差し出した。
「地面でゴロゴロ転がろうか?別に構わないよ。」
図々しくも言う。
「じゃあ先に二回ほど転がってみろよ。満足したら考えてやる。」
俺も気にせず答えた。
「変態!まさか私が転がるの見たいとか…」
嫌そうに言いながら、後ずさる。
「恥かくなら一人で行け。俺たちを巻き込むな。」
そう言って、二人のちびっ子が何を選んでるか見に行く。
「瑠依、これがいい!」
由香里が冷蔵ケースの紙パックのリンゴジュースを指さした。
「はいはい!そっちは?」
リンゴジュースを取りながら風間に聞く。
「ぼ、僕もリンゴジュースがいい!」
少し迷ったが、由香里と同じものを選んだ。
「よし、リンゴジュース二つね。」
そう言いながら、カゴに詰める。
それから隣の零食売り場に連れて行き、適当にスナックを取ったら、今日の食費はもうオーバーだ。仕方なく、適当なパサパサのおにぎりで今夜は済ませることにした。
「兄ちゃん、まさか今夜それだけってわけ?」
呆れたように、俺の手にしたおにぎりを見る優一。
「違うよ。これ、すぐに食うんだ!」
正直に答えた。
「じゃあ、まだ昼ご飯食べてなかったの?」
彼女は続けて尋ねる。
「違うね。今のは朝ご飯だ。」
彼女の言い間違いを訂正し、また冷凍ケースのところへ戻って、さっき忘れたウーロン茶を一本取った。後でスナックを食べながら飲むつもりだ。
レジで会計をする時、店員の兄ちゃんが、俺たち小ガキ共がカゴを持ち上げられそうにないのを見て、持ち上げるのを手伝ってくれただけでなく、袋詰めもしてくれて、袋まで出してくれた。ついでにストローも二本入れてくれた。
大量の買い物袋を提げてコンビニの外へ出ると、まるで地獄の門をくぐったようで、また太陽に焼かれながら帰らなきゃならない…
「はい、どうぞ。」
そう言ってリンゴジュースを二人のちびっ子に渡した。
「これ、持ってろ。」
そしてコーラを一本優一に渡す。
「開けられないよ!」
コーラを受け取りながら文句を言う。
「焦るなよ。しっかり持てって!」
そう言いながらプルタブに指をかけ、苦労してようやく一つ開けた。
指いてぇ…
そしてストロー二本を同じ缶に突っ込んだ。
「自分の飲めばいいじゃん?」
嫌そうに言う優一。
「何が俺のだよ。両方とも俺のだぞ。お前に一口分けてやるだけありがたいと思え。」
そう言って、ストローをくわえて一気に飲んだ。
冷たい液体と小さな気泡が舌先を流れ、甘さと糖分がもたらす愉悦感。さすがは一口で元が取れる夏限定の飲み物!突然、外もそんなに暑くなくなった気がする。
「ねえ!ちょっと残しなさいよ!」
彼女もそう言って、奪い合うように飲んだ。
あっという間にこの缶は空になった。
「じゃあ、お前らは早く帰れよ。俺も帰るから。」
そう言って、大量の袋を全部自転車の前カゴに詰め込んだ。
「そんなに早く帰らないよ。」
優一が言うが、それでも缶の底の一滴まで惜しむように見つめている。
「何考えてんだよ。こんな天気に二人連れてあちこち歩き回ったら、熱中症になるぞ。」
自転車を押しながら言う。
「大丈夫だと思うけど。」
彼女はまだ缶の中に残ってないか見ている。
もう二人は手元のリンゴジュースをほとんど一瞬で飲み干していた。
「で、お前、金あるのか?」
続けて尋ねる。
彼女は首を振った。
「じゃあ、どこに行くつもりだったんだ?」
さらに追及する。
「分かんない。」
彼女は名残惜しそうに飲み終えた缶をゴミ箱に捨てて言った。
「じゃあ、どこにも行くなよ!自分だって喉乾いて死にそうなくせに、他人まで巻き込むな!このクソ野郎!」
遠慮なく罵った。
「別に平気だけど?」
自分でも言ってて信じてなさそうだ。
「で、お前ら、どれくらい出てたんだ?」
自転車を停めて彼女に近づき、さらに問い詰める。
「ち、ちょっと出たばかり。」
彼女はそっぽを向いて言う。
「由香里!どれくらい出てた!」
一号ちびっ子に命令して答えさせる。
「一時間?私たち、学校の近くの公園にも行ったよ。」
由香里はどれくらい経ったかはよく分かっていないが、どこに行ったかを言ったことで大体分かった。
「まだ言い訳するつもりか?」
じっと彼女を睨む。
「やっぱりこの二人のチビは当てにならない…」
彼女はうつむき、謝るどころか他人のせいにしている。
「はあ…いいから、一緒に家に帰るぞ。お前が自転車押せ!」
そう言って、唯一の厄介者に先に自転車を押させる。
「なんで私が?」
まだ不満顔だ。
「うるさい!」
怒って言い、袋からウーロン茶を出して二人のちびっ子に分け与えた。
嫌がっても無理やり飲ませる。何せこのクソ妹は、こんな天気で熱中症になるかもしれないなんて、これっぽっちも考えていなかったからだ。
のろのろと家に帰りつき、やっとまたエアコンにありつけた。
買い物袋を傍らに放り投げ、ソファにうつ伏せになった。
「ここで休んだら、帰れよ!」
うつ伏せのまま言う。
「じゃあ、探検に行っちゃダメ?」
風間が隣に来て言う。
「ダメだ。熱中症になる。優一のクソ野郎はお前らのことなんか知ったこっちゃないんだ。」
顔を横向けて彼を見る。
「熱中症って何?」
彼は続けて尋ねる。
「細かいことはいいから…えっと、まあ、死ぬってことだけ分かってればいい。」
説明しかけると、由香里が這い上がってきて、俺の背中に覆いかぶさった。
「あちぃ…」
仕方なく小声でぼやく。
「私ばっかり責めるんだから。あんたが一緒に来れば良かったじゃん!」
元凶はまだ傍で火をつける。
「そうだよ、瑠依も一緒に来ようよ!」
風間はすぐに優一のたくらみに引っかかった。
「瑠依も一緒に行こうよ?」
由香里までそんなことを言うから、逃げ出しにくくなった。
「えっと…無理だ。もう外出る元気は残ってない。」
少し考えて、やっぱり断ることにした。
「瑠依が行かないなら、私も行かない。」
由香里が顔を背中にすり寄せて言う。やっぱり俺の一号ちびっ子は、俺のことを思いやってくれる。
すると優一のやつ、風間のそばに行って何かこそこそ話し、彼にOKのサインを送ると、ゆっくりと床に寝転がった。
そして次の瞬間、泣き叫び始めた。
「遊びに行こうよー!遊びに行こうよー!家、つまんないよー!あー!あー!」
転げ回りながら騒音をまき散らす。
風間は少し嫌そうだったが、それでも寝転んで一緒に騒音をまき散らした。
「騒がないで。瑠依、歩けないんだから。また後で行こうね。」
由香里が俺の上から降りて、風間のそばに行き、なだめるように言う。
でも、なんだかこの小娘が間接的に俺を外に連れ出そうとしてる気が…
「ダメだ!外に行くんだ!」
結局あのガキはもっと激しく騒ぎ出した。さっきまでのは演技で、今のは本気で駄々をこねている。
「じゃあ、私は家で瑠依と一緒にいるから、二人で行ってきなよ。」
彼女が続けて言う。
「えっと…そうじゃなくて、誰も外に出ちゃダメって意味。」
俺は起き上がり、補足説明した。
床で転がっている二人は、それを聞いてますます激しく叫んだ。
「本当にダメ?私も久しぶりに瑠依と遊びたいな。」
由香里は向きを変えて、俺の脚に抱きつきながら懇願する。時々、彼女が本当に自分でそうしたいのか、それとも風間のあのガキのためなのか分からないけど、彼女は頼み方をよく知っている。一体誰が教えたんだ…
ああ、たぶん俺が仕込んだんだな。
「ちょっと休ませて、飯を食わせてくれ。」
そう言うとすぐに、背景音と化していた優一はピタリと止まり、立ち上がると同時に軽蔑したように俺を罵った。
「変態!」
「クソ野郎。」
負けじと罵り返す。
しかし、先決なのはまず飯だ。さっき買ったパサパサのおにぎりを手に、テレビを見ながらこれで済ませることにした。塩を効かせた冷めた飯、まずいな…
「で、目的地はあるのか?」
飯を食いながら、隣にいるクソ妹に尋ねる。
「別にないよ。外に出られればそれでいい。」
俺の買ったスナックからポッキーを取出し、食べながら答えた。
「じゃあ、もういいや。俺のリュック取ってきて。ぼろきれか何か探してさ、公園にでも行ってピクニックにしよう。」
すぐに具体的な行動案を出した。
「やだよ。どこに何があるかなんて知らないし。」
また一本、チョコレートスティックを抜き出しながら答える。
「俺が知ってると思ってんのか?早く出たきゃ、さっさと探してこい!」
促す。
「もう、めんどくさいなあ。」
そう言いながらも、彼女は立ち上がって二階へ探しに行った。
パサパサおにぎりを食べ終えたが、ちょっと足りないな…もう一つ買っとくんだった。別のコーラを飲みながら、クソ妹が全部持ってくるのを待つ。
スマホの充電を忘れるところだった!
しばらくして、彼女は折りたたんだピクニックシートとリュックを抱えて降りてきた。
「これでしょ?」
ピクニックシートとリュックを隣に置いて尋ねる。
「おお、あったのか。それでいいぞ。」
彼女の財布の上に重しとして乗ってたあのボロ布がピクニックシートだったことを忘れてた。前の花火大会で一度使ったきりで、その後は一度も出してなかったと思う。
問題なさそうだ。ちょっとほこりっぽいだけだ。
手慣れた手つきでリュックの中身を一度に全部出し、シートを詰め込む。次にスナック、スマホはポケットに入れておくのも邪魔なのでこれも放り込む。まだ読み始めたばかりの漫画も。
あれ?結構いっぱいだ。一番大事な水が入らなそう…
まあいいか、途中で買えばいいや。コンビニはそこら中にあるし。
財布も放り込む。
大体片付いたところでエアコンを切り、裏口の鍵を閉めて、彼女たちを連れて遊びに行く準備をする。とはいえ、俺にとってはまた地獄に足を踏み入れるのと大差ないけど…
「ちょっと待って!」
出かけ際に、優一のやつがトイレに走った。
俺が靴を履き終え、ちびっ子たちと玄関でしばらく待つと、彼女やっと出てきた。
「はい、これ。お前が背負え。背負わないなら行かないからな。」
そう言って、パンパンに詰まったリュックを彼女に差し出した。
「兄ちゃん、本当に空気読めないんだね。」
不承不承、リュックを受け取るが、ここまで来たら文句を言いながらも荷物持ちを引き受けるしかない。
ただ、彼女が近づいてきた時、虫除けスプレーか何かの匂いがした気がして、ちょっとくしゃみが出そうになった。
鍵をかけて、目的もなく出発した。
まったくどこへ行くのかも、何をすればいいのかも分からない。強烈な日差しで、目もあまり開けていられない。
優一のやつ、出てきてそう経たないうちに、リュックを風間に背負わせていた。そしてどこからか輪ゴムを見つけてきて髪を束ね、由香里の髪も結ってやり、涼しくしてやっていた。
俺はその後ろをとぼとぼ歩きながら、二つのことだけを考えていた。なんで外になんか出たんだ? 早く帰りたい。
頭は太陽に焼かれてズキズキ痛み、高温は思考にも影響する。時々真っ白になり、時々また突拍子もないことが浮かんでくる。黒の革靴を磨くのに、黒の芯2Bの硬度の高い鉛筆は使えるのか?とか、そんな変なことばかり…
前を歩く三人は、歩きながら騒いで、結構楽しそうだ。もう俺が彼女たちを見失わないように監視しているのではなく、ただ基本的な追従機能だけが残っている状態だ。
どれくらい歩いただろうか、川の土手の近くに着いた。川岸に沿って吹き抜けるそよ風が、やっと体感温度を下げてくれた。
「兄ちゃん、大丈夫?なんか死にそうに見えるんだけど。」
優一が立ち止まって尋ねた。
「ダメだ、休ませろ。」
息を切らしながら、服を引っ張って仰ぎながら言う。
「だからいつも家にばかりいるからだって。たった一時間でギブかよ。」
彼女は腕時計を見ながら言う。
「もうそんなに経ったのか。ここで直接ピクニックにしないか?」
苦しそうにしゃがみ込みながら提案する。
「それもいいかもね。」
彼女は反論しなかった。
「じゃあ、どこでピクニックする?」
装備を背負っている風間が興奮して尋ねる。
「ちょっと日陰のあるところ。ついでに飲み物も買ってこよう。」
小さな声で答える。
優一はあちこち見回し、なかなか良さそうな場所を見つけた。
「下の辺りはどう?」
彼女は見つけた場所を指さした。
辛うじて顔を上げ、彼女が指さす場所を見る。下方には遊歩道があり、木陰があって、片方には野球場らしきものもある。
他に選べそうな場所はなさそうだ。
「リュック貸せ。」
風間からリュックを受け取り、中から財布を出して優一に投げた。
「コンビニか自販機でポカリ買ってこい。無駄遣いするなよ!」
言い含める。
「私、アイス食べたいんだけど?」
俺の財布を握りしめ、要求を突きつけるように脅してくる。
「うるさいなあ。じゃあ人数分買えよ…」
俺のCPUは高温警報を発していて、値切るための余分な演算能力は残っていない。
「じゃあ、良い知らせ待ってて!」
そう言って、彼女は財布を持って走り去った。
「お前は残れ。」
一緒に行こうとする風間の腕を前に出して掴む。
何せ、ピクニックシートを広げるには二人必要だ。俺の指示で、二人のちびっ子はすぐにシートを敷き、風上の方にリュックを置いて押さえにした。それが終わると、俺はすぐに寝転がった。
やっと楽になった。ちょっと熱中症になりかけてたみたいだ。
「瑠依、すごくしんどいの?」
由香里が隣に座り、小さな声で尋ねる。
「ああ、ちょっと横になれば治る。何か食べたかったら、リュックから取っていいぞ。」
目を閉じ、手を頭の下に敷いて答える。
「じゃあ、川に水遊びに行っていい?」
風間が無謀な質問をする。
「ダメだ。由香里、彼を見てて、遠くに行かせちゃダメだぞ。」
断り、由香里に彼を見張らせる。
「これ以上、瑠依に迷惑かけちゃダメだよ!」
由香里も彼を叱る。
叱られた風間は、がっかりして大人しく座っている。
爽やかな川風が木々の葉先を揺らす。まばゆい陽光は葉の隙間から星のように降り注ぎ、影の地面に点在する。それはまるで、見上げれば緑の湖が風に揺れてきらめいているかのようだ。
どこにいるのか分からない蝉たちが、愛と名乗り、実は夏である交響曲を奏でる。
正直なところ、この虫たちの求愛の声を聞くのがどれくらいぶりか分からない。もしかしたら街ではあまり見かけなくなったからか、あるいはいつもエアコンの効いた部屋にいて、自然とその声を無視していたからかもしれない。
唯一覚えているのは、昔、田舎に帰省した時のことだ。夕飯後はすることがほとんどなく、田舎町には娯楽施設なんて何もなく、知り合いもいなかった。
弟と歩いて、一番中心部まで行ったものだ。実はただの市場のような場所で、そこにいくつかの訳の分からない名前のタピオカミルクティー店があって、時間を潰せた。主な理由はエアコンだったけど。
行き帰りの道すがら、蝉の鳴き声を聞いた。
でも、長く聞いていると飽きる。夜中近くになってもまだ鳴いているので、パチンコでも持ってきて、あの虫どもを全部撃ち落としてやりたいと思ったものだ。
今もだ。うるさい!
「ただいま!先にアイス食べて!溶けちゃう!」
使いに出していた現・弟が帰ってきた。
「兄ちゃん、死んだ?死んだなら、そのアイス、私が食べていい?」
アイスを配りながら、からかうのも忘れない。
「誰が余計なもん買えって言った?水だけ買ってこいって言っただろ?」
わざと難癖をつける。
「今さらそんなこと言っても仕方ないじゃん。返品できないし。」
そう言って、彼女はアイスのカップを一つ、俺の額に乗せた。
「ミルク味だよ。あげる。」
「冷たくて、気持ちいい…」
額に感じるアイスの冷たさが、すぐに体温を下げてくれるのを実感する。
「早く食べなよ。そのうちミルクになっちゃうよ。」
彼女は自分のアイスを開けながら言う。
額のアイスを取り、起き上がる。それで顔も二、三回転がす。だいぶ楽になった。
「財布は?」
アイスを開けながら尋ねる。
「何の財布?」
わざととぼけて答える。
「じゃあ、お前が食った分は自分で払えよ。今月の小遣いから引いとくからな。」
わざと脅すように言う。
「はいはい、ケチ。」
財布を投げ返し、軽蔑したように言う。
「レシートは?」
さらに追及する。
「なに?国税局の調査官?」
不機嫌そうな顔で言う。
「無理に俺に足りない分を数えさせんなよ!」
わざと脅す。何せ俺も良い奴じゃないが、この妹はもっとタチが悪い。しかもここまで問い詰めて、彼女の答え方を見れば、ちょろまかしたのは明らかだ。
彼女は答えず、アイスを食べ続ける。俺も濃厚なミルクアイスを味わいながら、彼女をギロリと睨む。
「バカ兄ちゃん!」
そう言って、彼女はパンツの中から千円札をくしゃくしゃと取り出し、投げつけてきた。
「うわ、気持ち悪い!」
呆れて、その札を触る気にもなれない。
しかも、これが目くらましだってことは分かっている。でも、彼女をまさぐるる気はないし、彼女も俺がそんなことしないと分かっている…
「いらないなら、私がもらうけど?」
図に乗って、勝ち誇ったように言う。
「そうは問屋が卸さない。残りは見逃してやる。」
素早く札をひったくり、まだ隠し持っているのもお見通しだと伝える。
アイスを大体食べ終えたところで、リュックから持ってきたスナックを全部出した。でも、スマホがまだ入っているのを忘れていた。
立ち上がってぶちまけなくて良かった。それにポテチの袋がクッションになってくれた。
慌てて取り出して確認する。大丈夫そうだ。熱でシャットダウンすることもなかった。
一旦、脇に置いておく。
そして、スナックを摘まみながら休憩する。優一と風間の二人はじっとしていられず、すぐに川辺へ行って石投げを始めた。
残された俺と由香里はここで漫画を見る。たまに二人を見て、川に入らないように監視しなければならない。
由香里は俺に寄りかかっている。でも、長くは見ていられず、すぐに彼女は眠ってしまった。木陰で涼しい風も吹き、ちょうど良い気温で気持ちいいし、こんなに歩いたのだから彼女も疲れただろう。
彼女だけじゃない。俺も眠い…
あくびをしながら、まだ水切りをして騒いでいる面倒な二人を見る。問題は起こさないだろう。ちょっとだけ目を閉じよう。漫画を閉じ、顔を由香里の頭に預ける。すぐに眠りに落ちた。
「兄ちゃん?」
うつらうつらしていると、うるさい妹の声が聞こえた。
「あ?」
ぼんやり目を開けると、すぐに目が覚めた。
あの二人、明らかに川に入って遊んでいた。でも、上がってきてから岸辺で日光浴でもしたのか、まだ完全には乾いていない。
「起きてよ。もう少し川沿いを歩こうよ!」
よくもまあ、そんなことが言えるな。
「川に入るなって言っただろ!お前、日本語分かんねえのか?ちょっと目を離した隙に、すぐに川に入って遊びやがって!どうして流されなかったんだ、お前ら!」
怒りが爆発して大声で罵り、うっかり由香里まで起こしてしまった。
「ただ水辺にいただけじゃん。そんなに興奮すること?」
まだ言い訳をしようとする。
「由香里、ちょっと自分で座ってろ。」
まだ半分寝ぼけている由香里を自分で座らせ、それから手のかかる妹を叱り続ける。
「もし何かあったら、俺が責任取らなきゃいけないんだぞ!」
「あんたに何の責任があるの?頼むよ、あんたまだガキでしょ?いつもそうやって大げさに騒ぐのやめてくれない?」
彼女は相変わらず何でもないような顔だ。でも、確かに彼女は核心を突いていた。
確かに、俺には責任なんてないし、取る必要もないのかもしれない。
でも…
「もしお前が事故にあったらどうするんだ?もしあいつが事故にあったらどうするんだ?」
直接前に出て、怒りを込めて言う。
「止められる状況だったのに、それでも起きてしまったら、俺にそのことを忘れられると思うか?教えろよ、お前なら忘れられるか?」
彼女の襟元を掴み、ほとんど叫ぶように言った。
彼女は完全に目を合わせられない。今回は自分が間違っていたことを理解し、言い訳もできなくなったからだ。
傍らで見ていた由香里と風間も、突然怒り出した俺に怖気づき、完全に固まってしまった。
「ご…ごめん…」
長い沈黙の後、彼女はやっとの思いで謝罪の言葉を絞り出した。
「今回、生きていることがどれだけ尊いか、自分と友達の命を大切にすることを分かってほしい。」
自分が過激になりすぎたことに気づき、彼女の襟を掴んでいた手を離し、小さな声で下手な英語で戒めた。
今のこの素晴らしい生活が、ずっと続いていけますように。そんな、とても身勝手な願いも込めて。
どうやら、好感度は下がったな。
「瑠依、もう怒らないでくれる?ちゃんとおとなしくしてるから、瑠依のそばにいるから、どこにも行かないから。」
由香里は今にも泣き出しそうだったが、勇気を振り絞って前に出てきて慰めてくれた。
「大丈夫だよ。ただ暑すぎて頭がちょっとおかしくなっただけ。」
できるだけ冷静に、優しく答える。
「ごめんなさい。僕が悪かったです。水に入って遊んじゃいけませんでした。」
風間は怖がってすすり泣きながらも、しっかりと謝っている。
「由香里、あいつを叱ってやって、泣き止ませろ。」
そう言って由香里の体を向きを変え、そっと背中を押した。
「ゴミは片付けて、捨ててこい。」
まだ怒っているふりをして、優一に続けて言う。
「うん…」
今回は反論せず、黙ってゴミを片付け始めた。
「早くしろ!まだ散歩するんだろ?もう時間も遅いし。」
まだ許さないといった口調で言う。
「分かってる分かってる。兄ちゃんはそういうとこあるもんね。」
彼女も和解したいという俺の意図を理解したようだ。
まだ彼女には腹が立っていたが、兄としていつまでも喧嘩しているわけにもいかない。
食べ残したスナックとゴミを片付け、ピクニックシートを何とかリュックに詰め直すのに少し時間がかかった。優一はゴミを捨てに行って戻ってきたかと思うと、リュックを背負うと言い出した。
このやつ、自分はまだ乾いていないくせに、濡れたままで俺のリュックを背負わせるはずがないと確信していて、残念そうな顔をして見せる。
相変わらずのクソ野郎だ。
車道沿いの歩道まで上がる。下の遊歩道を歩き続けるのもできたが、主に騒動を起こした二人に日向ぼっこをさせて、風邪をひかないようにするためだ。
ただ、俺の体調はまだ完全回復してない気がする…でも風が吹いているおかげで、かろうじて正常な思考は保てている。
橋の近くを通りかかった時、向こうから歩いてくる三人に見覚えがある気がした。どんどん近づいてきて、ようやく誰だか分かった。
ダサい担任の先生と数学の先生と保健室の隠れボスだ。なんでこの三人がここに!
先を歩く面倒な二人を捕まえた。
「隠れろ!担任が前にいる!」
そう言って、この二人を引っ張って脇の坂の芝生の上へ。由香里は一瞬きょとんとしたが、ついてきた。
「どうしたの?」
優一が尋ねる。
「向こうから歩いてくる三人の女が、俺たちの学校の先生なんだ。捕まったら絶対叱られる。」
彼女に説明する。
「で、ここに隠れて意味あるの?」
周りを見回すが、隠れられそうな場所は半分もない。
「俺にもどうしようもない…見られてませんようにって願うしか…」
仕方なく言う。
でも、全く意味がない。今の状態はまさに、耳を塞いて鈴を盗むようなものだ…
「可愛い子たち、ここで何してるの?」
いつも魅惑的なオーラを放つ保健の先生が、狩人のように俺の後ろにしゃがみ込み、リュックに手を置いた。
「本当に瑠依くんじゃない。」
ダサい担任がそれに続く。
「君たちの保護者は?」
最後に数学の先生が問い詰める。
「だから、可愛い子の感覚は間違ってないって言ったでしょ。」
保健の先生は、つい逮捕されそうな発言をする。
「俺が保護者です。ただ散歩に来てただけです!」
慌てて体を回し、言い訳をする。
「じゃあ、なんでリュック背負ってるの?」
ラフな私服に着替えた奈々子先生が、核心を突いて尋ねる。
でも、なんで相変わらずツインテールなんだ…
「ついでにピクニックです!」
さらに言い訳を重ねる。
「へえ、そうは見えないけどね。」
超ミニのキャミソールにホットパンツという、まるで釣りにでも行きそうな格好の美里先生が、にこにこしながら俺の頬をつまむ。
俺のちびっ子たちは、数学の山崎先生に捕まってお説教されている。
「保護者の同伴なしで、こんな所をうろついちゃダメだよ!」
奈々子先生もしゃがみ込んで言う。彼女は眼鏡をかけていないと、確かにずっと可愛く見えるな。
「別にいいんじゃない?私たちがこのくらいの時だって、あちこちうろついてたわよ。山崎、あんたもあんまり叱らないの。まだ夏休みなんだから。」
美里先生は俺の頬を揉むのに飽きると、立ち上がってかばってくれた。
山崎先生も今が夏休みだと気づいたようだ。でも、一つだけ言いたい。奈々子先生と同じラフな大きめTシャツなのに、なんであなたのTシャツのプリントだけこんなに抽象的…
「でも、瑠依くんが一緒なら、問題ないでしょうけどね。」
奈々子先生は気楽に言う。
「私たちはもう行くわね。ちゃんと水分取るのよ。時間も遅いし、そろそろ帰りなさい。」
美里先生はそう言って、俺の頭をひと撫でするのも忘れない。
「先生たちも用事があるからね。早く帰るんだよ。」
奈々子先生も立ち上がって言う。
「ああ、可愛い子ちゃん。今夜お風呂に入る時は、お湯を熱くしすぎちゃダメよ!」
去り際に、美里先生がなぜか振り返って忠告をくれた。
何のことだかさっぱり分からない。
でも、彼女たちと別れた後も、俺たちは川岸に沿って歩き続けた。太陽が目に見える速さで地平線に沈み始めるまで。
涼しくはなったが、俺のスタミナゲージは底をついた。ずっと騒いで歩いてきただけで、今どこにいるんだ?
由香里もあまり歩けなくなっている。うっかり帰りの体力を残すのを忘れていた。これで進退窮まった。
「どうする?」
優一が尋ねる。彼女自身ならまだ全然歩いて帰れるし、もう二人もちょっと無理させれば何とかなるだろう。
問題は、主に俺がもうダメってことだ…
「レッカー車を呼べ!」
リュックからスマホを取り出して言う。
「え?」
彼女は明らかに意味が分かっていない。
でも、どうでもいい。すぐに伊咲の番号をタップした。
「番号間違えてるよ!」
繋がった途端、相手がこっちが喋る前にそう言って、すぐに切れた。
「うわ…」
切れた電話を見つめ、もう一度かけ直す。
「だから、番号間違え…」
「美穂に電話攻撃されたいのか?」
彼女が言い終わる前に、先に口を挟んだ。
「それで、どこに行ってたの?家に誰もいないじゃない。」
彼女の次の言葉に、逆に俺が困惑した。
「あ?」
全く話が見えない。
「君たち、午後中どこをほっつき歩いてたの?家に人影一つなかったわよ。」
彼女は続ける。
そういえば、こいつも俺の家の鍵を持ってたんだった。
「車で助けに来てくれ?」
我に返って尋ねる。
「は?」
今度は電話口の伊咲が困惑する番だった。
「自分の居場所、こっちに送りなさいよ!」
彼女はそう言って、また切った。
地図アプリを使って現在地をチャットアプリで送信した。すると、すぐに彼女から電話がかかってきた。
「頭おかしいんじゃないの?」
出るなり、怒鳴られた。
「で、結局来るのか来ないのかよ。来ないなら美穂に頼んで催促してもらうぞ。」
脅すように言う。
「自分の周り、ちゃんと見てみなさいよ。あんたたち、私の家の近くまで来てるんだからね、ガキンチョ!」
向こうの伊咲は呆れたように言う。
地図アプリを開き、表示範囲を縮小する。すると、すぐ近くに見覚えのある商店街や、前に絵馬を掛けた神社があるのに気づいた。
「俺、お前んちの鍵も持ってたよな!」
突然、二つの拠点の鍵が全部同じキーホルダーに付いているのを思い出した。
「来ないで!その場で待ってなさい!」
彼女はそう言って電話を切った。
まったく、礼儀知らずだな…
しかし、ちょっと出かけただけで、お互いの家を訪問し合うことになるとは。
長いこと待った。太陽もすっかり沈んでから、伊咲が車でやってきた。
「なんでこんなにチビちゃんたちがいるの?」
車を停め、ドアを開けてくれながら、早速文句を言う。
「遊びに出れば、こうなるさ。」
答えながら。
「で、あんたは何してたの?塾にでも行ってた?」
残りの三人を後部座席に乗せながら、まだからかう。
「ピクニックですよ。」
そう言うと、彼女はリュックを受け取り、助手席に放り投げ、そして俺も後部座席に押し込んだ。
「今日は機嫌がいいから、美味しいものご馳走してあげる!」
運転席に戻りながら言う。
どうやら、先週の仕事(原稿?)を終えて、機嫌が良いらしい。
「ちゃんとあの子たちの親に連絡しなきゃだめだぞ!」
注意する。
「誰がそんなの世話するかよ!自分で説明しな!」
彼女はアクセルを踏み込み、行きたい店に向かって飛ばしていった。
後で由香里と風間の親に時間をかけて説明したが、今回伊咲が連れて行ってくれた居酒屋のオムライスは美味かった!それに、こんなに歩いた後だったから、二つ頼んだスナック盛り合わせも取り合いになるほどだった。
伊咲のやつ、酒を頼もうとしたが、俺が断った。何せ、後で俺たちを家まで送らなきゃいけないんだから。
食事を済ませ、二人のちびっ子を家に送り届けた後、また昼間行ったセブンイレブンへ行き、必需品を買い足した。酒とスナックだ!
俺が金を出さないならそれでいいし、こいつがきっと家にあった残りのスナックを食い尽くしているだろうと予想していたからだ。
家に着くなり、なぜか伊咲のやつが急いで風呂にお湯を張り、俺たち二人に一緒に入れと急かす。
彼女のその不穏な笑みを見て、何か罠がありそうだと感じた!
そして、昼間に美里先生が言った「お湯を熱くしすぎちゃダメよ」の意味が理解できた。
日焼けだ!伊咲のやつ、とっくに俺の肌が真っ赤に焼けているのに気づいていて、最初から熱いお湯で俺を責めようと企んでいたのだ。痛い!
「なんでお前は平気なんだ?」
同じように外出していたのに、ちょっと黒くなっただけの優一に尋ねる。
「だって、出かける前に日焼け止め塗ったからね!」
隠さずに言う。
「って、お前、どこに日焼け止めなんてあったんだ?」
信じられない思いで尋ねる。
彼女は直接答えず、風呂場の外の洗面台に走っていき、日焼け止めクリームのボトルを持って戻ってきた。なるほど、出かける時に何か匂いがしたと思ったら、日焼け止めの匂いだったのか!
伊咲は隣で笑い転げている。俺は彼女の座っていた小さなスツールを蹴飛ばし、彼女を尻餅をつかせた。
「この野郎!」
転んだ痛みを堪えながら、彼女はそのまま背負い投げを決め、俺を熱湯の張られた浴槽に放り込んだ。
「痛い!死ぬ!死んじまう!」
もがいて這い出そうとするが、このクソ女も入ってきて、俺を抱きしめて逃げられなくする。
浴槽で死にかけた。
でも、これよりも次の日からが本当に辛かった。体中が痛くてだるく、力が入らず、ベッドからも起き上がれない。運動量がオーバーした!ちょっと微熱まである気がする。
幸い、伊咲のやつはこの二日間、まだ忙しくなくて、ちょっと面倒を見てくれた。とはいえ、面倒を見るって言っても、ほとんど動けない俺を、大きな人形みたいにソファの隣に置いておくだけだけど。
逃げ出そうにも無理だ。蛆虫のようにのたうち回って這い出していくのも難しいだろう。
もういいや、どうにでもなれ…




