小学生の非日常な生活
いや、確かに俺はガキじゃないけど、このダサいJK担任の丸投げっぷりはいくらなんでもやりすぎだろ!
挙句の果てには掃除当番の割り振りまで俺に押し付けてきやがる。そんで俺のクソバカ妹はというと、その権限を使って一派を作るってことしか頭になくて、「何をすればいいか分かるか?」って聞いたら「知らない」「分からない」の一点張り。
そんなことなら、最初からこの役職を断らせろよな!
で、なんでこんな新入生の小僧に仕事を全部押し付けるんだって奈々子に問い詰めたらよ、答えがこれだ。
「瑠依くんなら絶対できるって、履歴書見て確信したんだ!」
そのあと入学前にやったテストを二枚取り出してさ。
「この幼稚園、あなたたちのこと天才児だって評価してたから、入学時に6年生の編入テストをやってもらったんだよね。平均でBマイナスくらいだったけど、私としてはまだこんなもんじゃないだろうなって思っててね。だから安心して瑠依くんに仕事を任せられるんだよ」
ああ、だから最初にあのテストをやった時、問題用紙がきれいに切り取られた跡があったのか!まさかこんな裏があったとはな。
この担任、見た目はダサくてちょっとぼーっとしたJKで、大学出たてのピュア感を漂わせてるくせに、ここ数週間一緒にいて思うのは、実はそんなに単純な女じゃないってことだ。
俺が資料を見ながら黙ってると、彼女は続けて言った。
「先生ね、もう名簿の名前は全員、本名に修正しておいたよ。それに、瑠依くんがこうやって相談に来てくれるってことは、話し合いができるってことだからさ。もし先生の仕事を手伝ってくれたら、クラスで大きな問題が起きない限り、君に任せてもいいかな?リーダーシップも鍛えられるし、中学生になったら生徒会選挙に立候補してみるのもいいかもね」
彼女はそう言った。
対価と交換条件、それにメリットを一気に並べられてさ。よくよく考えれば、俺は損してないんだよな。ただ単純に、めんどくさいからこの仕事を引き受けたくなかっただけだ。
こう言いたくはないけど、前世、俺は教師ってやつとどうもウマが合わなかった。あの連中の大半は、社会に出たこともないくせに、高みから見下すような態度でこっちに命令してきて、それが正しいか間違ってるかなんてお構いなし。親の前と生徒の前では完全に態度が違ってて、いつも吐き気がしてならなかった。
でも奈々子は、仕事の大部分を押し付けたいとはいえ、今まだ小学生の俺と同じ目線で会話して、交渉しようとしてくれている。それに、本来は教師にある権限を分け与えようとさえしてくれている。
たとえ今の彼女の態度が仮に全部演技だったとしても、俺はあんまり嫌いにはなれそうになかった。
「……はあ、じゃあ引き受けるよ。でもな!」
承諾したものの、やっぱり条件がまだ足りない。
「おっと、他に何か欲しいものある?」
俺が了承したのを見て、彼女は嬉しそうにそう尋ねた。
「俺の宿題、全部免除しろよ。そうやって無駄になった時間を取り戻すんだ!」
俺は最初からいきなりMAXの要求を出した。
「それはダメだよ。せいぜい、私のこの教科だけ週3日免除ね」
彼女は首を振って答えた。
「じゃあ、3日と週末の宿題も!」
俺は更に値上げ要求。
「2日と週末ね」
彼女はさらに値切ってきた。
「よし、成立!」
親指を立てて即答した。
「じゃあ、そういうことで。はい、これ」
彼女はそう言って引き出しから飴玉を一つ取り出して、俺に差し出した。
これで互いにウィンウィンだ。俺はクラスのルール決め権限を得て、彼女は仕事量を減らせて、宿題の丸付けすらも減らせて、もっと休める時間が増える。
とはいえ、すぐに仕切ろうとは思ってないけどな。今のままで問題なければそれでいいし、小さな問題は起きたら解決する。大きな問題は俺の出番じゃないし。
まあ、組織ってのは自動的に適応して勝手に解決策を見つけるもんだろ、多分……
「兄ちゃん、どこ行ってたの?」
教室に戻ると、机に突っ伏していた優一がこっちを見て尋ねてきた。
「辞めてきた」
俺は自分の机のところまで歩いて行き、カバンから次の授業の教科書を取り出した。
「ふーん、それで、うまく辞められたの?」
彼女はわざと興味なさそうに装って、顔だけこっちに向けた。
「これからの仕事は全部お前に任せたからな!俺には俺のやることがあるんだよ」
俺も迷わず、適当なことを言う。
「マジ?」
俺の答えを聞いて、彼女はようやく焦り始めた。
「俺はそんなにたくさん仕事を増やすのはごめんだ」
そう言って俺も机に突っ伏して、少し仮眠を取ろうとした。
「ダメだよ、兄ちゃん!そんなに冷たくして、私一人に責任を負わせるなんて!」
彼女は我儘放題な口調でそう言うなり、飛びついて抱きついてきた。そしてそのままゴネ散らし始める。
「離せよ!自分でやりたいって言ったんだろ、巻き込むな!」
俺はそう言いながら、近づいてくる彼女の顔を押しのけた。
「一緒に責任取るって約束したじゃん!なんで自分だけ逃げるのさ!」
彼女はまだ変な理屈で説得しようとしてくる。
まったく、めんどくさい妹だな!
「そんな約束した覚えはない!」
俺は怒って彼女に向かって叫んだ。
騒ぎが大きくなりすぎて、野次馬のガキどもが増えてくる。
「いやなの!もう舎弟たちには兄ちゃんが守ってくれるって約束しちゃったんだから!」
そう言って彼女は泣き真似を始める。
いい歳して、まったく恥ずかしげもなく。こんなの舎弟たちに見られたら、今後舐められるぞ!
「おい!服で鼻水拭くな!嘘だよ!辞めてない!」
俺はこれ以上みっともない思いをするのは御免だから、すぐに説明した。
「嘘なの?」
彼女は顔を上げて、鼻をすすりながら尋ねた。
「ああ、悪いか?」
俺はまだ優しい顔はしなかった。
「死ねよ!バカ兄ちゃん!」
彼女はすぐに泣き声を引っ込めてそう言うと、俺を椅子から引きずり下ろし、顔面めがけて頭突きをお見舞いした。
一瞬で頭の中が真っ白になった。残ったのは鼻に耐え難い痛みだけ。鼻を押さえながら、よろよろと後ずさるしかなかった。
少し気がつくと、手に何か温かい液体が付いているのが分かった。嗅覚も徐々に戻ってきて、生臭い匂いが鼻腔と口の中に充満していく。
この野郎、マジで容赦なく殴りやがる!
「あっ!兄ちゃん……ご、ごめん!」
俺がしゃがみこんでいつまでも反応しないから、彼女もようやく自分のやったことが行き過ぎたと気づいたみたいだ。
喋りたくないんじゃない、痛すぎてまだ頭が回らないんだ。
「ファック!お前、頭おかしいんじゃねぇの!」
少し痛みが和らいでから、俺は怒鳴り返した。
「だって兄ちゃんが騙すからいけないんじゃん。男に騙されるのが一番嫌いって、知ってるくせに」
彼女はまだ言い訳をして誤魔化そうとする。
「俺はお前の彼氏じゃないんだぞ!そんなの知るか!」
ダメだ、ダメだ。このクソ野郎は妹だ。やり返すわけにはいかない。湧き上がる怒りを必死に抑えながら言い放った。
「授業始まってるぞ、後ろでまだ何やってる!」
教室の前の方から、教師の厳しい叱責が聞こえた。
まだ野次馬していたガキどもは、すぐに散った。
「どうした?」
異変に気づいた教師がこっちへ歩いてくる。
何とか顔を上げて見ると、由香里たちのクラスの担任で、この学年の数学教師だった。一つに束ねた三つ編みの、いわゆるキャリアウーマンタイプの女性で、いつもプレッシャーを感じさせる厳しい表情をしている。
なるほど、由香里が彼女を怖がるわけだ。
「ちょっと転んじゃって……」
俺は面倒を大きくしないための言い訳を急いで考え、泣き声混じりの声で答えた。
「次から気をつけなさい。先生が保健室に連れて行くから。班長は?残りの人で自習してなさい!」
彼女はそう言うと、ハンカチを取り出して俺の鼻を押さえさせ、それから顔を上げて尋ねた。
「わ、私が班長です……」
俺は小さな声で言った。
彼女は仕方なさそうにチラリと俺を見た。
「じゃあ、副班長はいるか?」
彼女は続けて尋ねた。
「は、はい、私です……」
隣にいる元凶が、少し申し訳なさそうな声で答えた。
「クラスの子を自習させておいて。すぐ戻るから」
彼女は俺に自分で鼻を押さえていなさいと言い、そのままひょいと俺を抱き上げると、さっさと保健室へ向かった。
でも、保健室の先生はいない確率が高いんだよな。いるほうがむしろ正常じゃないから。
「どうした?」
ドアを開けると、保健室の机に座っていた保健室の先生が尋ねた。
わあ!生きてる保健の先生だ!それにショートカットのクール系お姉さん!
「この子、転んで鼻をぶつけましてね。まずはお願いします。私は授業に戻らないといけないので」
数学の先生はそう言って、俺を下ろした。
この二人、知り合いなんだろうな。
「オッケー、任せて」
保健の先生はOKサインを出して答えた。
数学の先生は手をひらひらと振って、授業に戻って行った。
「さあ、先生に見せてごらん」
保健の先生がそう言いながら、俺の前にしゃがみ込んだ。
近づいてみてようやく分かった。彼女のショートヘアにも、小さな小さな三つ編みが結んである。よく分からない直感だけど、この保健の先生と数学の先生、それに俺の担任のダサいJKは、ただの同僚ってだけじゃない気がする。
彼女はそっと、俺が鼻に当てていたハンカチを受け取った。手を離すとすぐにまた血が流れ出した。
「大したことないわよ。ちょっと止血すればすぐ治るからね」
そう言って彼女は、俺にまた自分で押さえているように言った。
でもさ、俺が言いたいのは、学校でそんなローカットの服着てるそっちのほうが問題だと思うんだけど、先生! ダメだ、落ち着け、落ち着け。
俺は鼻を押さえたまま彼女について行った。
そして、古式ゆかしいティッシュ止血法でどうにかなった。両方の鼻の穴に詰め物をしたので、息をするのは口だけになった。
「よし!」
彼女は微笑んで言うと、俺の頭を撫でた。
「君、男の子じゃないでしょ?」
彼女が突然尋ねた。
「男の子だもん!」
俺は迷わず答えた。
「へえ、そうなの?じゃあ、君の名前は?」
彼女は続けて尋ねた。微笑んでいるけど、なんか危険な生物にじっと見られてる感じがする。明らかに、彼女は俺の「正直な答え」を見抜いている。
「…小鳥遊瑠依」
俺は気まずそうに答えた。
「いい子は嘘をつかないのよ」
彼女はそう言いながら、手を滑らせてそっと俺の頬を撫でた。
「先生はね、見間違えたことなんて一度もないんだから。こんなに可愛い顔してるのに、髪を短く切っちゃうなんてもったいない」
彼女は少し残念そうに続けた。
でも先生こそ、あんまり俺のこと言えないと思うんだけど。それにこの先生も、かなり手強いタイプだな。
「少ししたら治ると思うわ。もし休みたかったら、奥のベッドで横になってていいよ」
彼女は立ち上がり、顔の横の髪をかき上げると、両手を白衣のポケットに突っ込んで、自分の机に戻って行った。
数値化できるほどの圧倒的な何かってわけじゃないけど、その一挙一動から大人の女性の色気が漂っている。ダメだ!もうソレは無いはずなのに、つい意識して股間を押さえてしまう。
もういいや。奥のベッドで横になって少しクールダウンしよう。
そうして、つい二度寝してしまった……。徐々に意識がはっきりしてくるにつれ、ほのかな香水の香りが、鼻腔に残る生臭さの中に混ざって、やけにはっきりと感じられた。
それに、ちょっと……
「はっ、ハックション!」
ちょっとくしゃみが出そうになった。これで完全に目が覚めた。
むくりと起き上がり、目をこする。香水の香りは、ベッドの脇に座っているセクシーな保健の先生から漂っていた。
「夜、ちゃんと眠れなかったの?」
俺が起きたのを見て、彼女は優しく尋ねた。
「朝、起きるのが早すぎて……」
あくびを混じりに答えながら。
「学校がある間はそうなるよね。でも、夜はちゃんと早く寝なよ。お肌にも良くないしね。こんな可愛いお顔、ちゃんと守らないとね」
彼女は立ち上がり、一人で喋っていた。
別に俺だって、もっと寝たいと思わないわけじゃない。でも寝坊したら、毎日遅刻することになるんだよな……
「次の授業、もう始まってるよ」
彼女が続けた。
「えっ?!じゃあ、もう一授業分くらい寝てもいい?」
ダメもとで聞いてみる。どうせもうこれだけ寝たんだ。一、二時間くらい変わらないだろ。
「ダメだよ。ほら、泣かなかった良い子へのご褒美。早く教室にお戻り」
彼女は白衣のポケットからキャンディを取り出して俺に手渡し、ついでにまた頭を撫でた。
今日二つ目の飴だ。奈々子がくれたのと同じやつかな。
飴を舐めながら彼女に別れを告げ、教室へ向かった。オレンジ味で、なかなか美味い。
廊下には誰もいない。ただ、隣の教室から先生の授業の声だけが聞こえてくる。
角を曲がると、廊下に立っているガキが一人。俺のクソ妹だ。こいつがわざわざ外で待ってるなんて、そんな殊勝な心がけがあるはずもない。
「よっ、兄ちゃん、お目覚め?」
俺を見て、何事もなかったかのように言う。
「今度は何やらかした?」
俺は彼女の隣に立ち、一緒に教室の外に立った。
「授業中寝てて、追い出された」
彼女は仕方なさそうな様子で言う。
「それはお前の自業自得だろ」
俺は不機嫌そうに言った。
「兄ちゃん、まだ怒ってるの?俺がベッドまでゲットしてあげたのに、俺は机で寝るしかなかったんだぜ」
彼女はまた理屈をこねて、自分が被害者みたいに言う。
「ああ、すごく怒ってる。それに、まだ言い訳してる奴を許す気はない」
この芝居がかった奴を睨みつけながら言った。
「兄ちゃんさあ、どんどん女の子みたいになってくね。ケチくさいなあ。じゃあ、殴り返してみる?」
彼女がツンツンと俺をつつきながら言う。
「遠慮なく!」
そこまで言うなら、後悔する間もなく、思いっきり力一杯ビンタをお見舞いしてやった。
しばらくしてようやく、叩かれた頬を押さえて我に返る。
「ちょっと、マジで叩く!?」
信じられないといった様子で言う。
「自分がそう言ったんだろ?それに俺、手を出してくる奴が一番嫌いだって言ったよな?やられたら必ずやり返すって!」
俺も当然の権利だという顔をして言う。
「言ってないよ、絶対言ってない!……あれ、この台詞どこかで……まあいいや、とにかくこれでチャラね」
少し赤くなった頬を揉みながら、首をかしげて言った。
これでスッキリした。ちょっと力入れすぎて手がジンジンするけど。
「授業、どのくらいやってる?」
俺は尋ねた。
「わかんない。授業始まってすぐ寝ちゃったから。それより何食べてるの?」
彼女は逆に質問した。
「キャンディ」
「まだある?一個頂戴」
こいつ、手を差し出してくる。
「もう無い。これだけだ」
「独り占めのクソ野郎!」
俺が飴をやらないと分かると、この野郎はすぐに顔を変えて罵ってきた。
「吐き出したの、お前にやろうか?」
わざとそう尋ねてみる。
「いいよ、吐きなよ」
即答する。
「やだよ、気持ち悪い……」
嫌そうな顔でこいつを見る。
「じゃあ、聞くなよ」
「俺、入るから。お前はゆっくり立ってな」
わざと教室に戻ろうとするふりをする。
「おい!ここに一人置いてくなよ!」
俺が帰ろうとすると、すぐに飛びついて掴んでくる。
「お前が自分でやらかしたんだろ。付き合ってられない」
そう言いながら、そのまま中に入ろうとする。
二人で騒いでいたら、あまりの騒がしさに教室の中から教師が出てきた。
何とこの時間は、ダサいJKの国語の授業だったらしい。俺たちを見て、奈々子はすぐに事情を察した。
「瑠依くんは授業に遅刻したから、ここで立ってなさい!それから、騒がないようにね」
奈々子はそう言い終えると、教室に戻って授業を続けた。
「やったー!」
掴まっている奴が歓声を上げる。
こうして、俺も本当に廊下に立たされる羽目になった……。




