出演した初めての映画
「待って!あとちょっと!あ、逆さま…」
伊咲は必死に手を伸ばして、テレビの裏側のUSBポートにUメモリを差し込んだ。
私たちが学校に行っている間に、去年の夏に出演したあのホラー映画が、ようやくどこかの映画祭で完成披露上映されたらしく、伊咲は招待されてその初日に行ってきた。
そして、彼女曰く、完成した作品はなかなかの出来で、しかもその後、奨励賞みたいなのも取ったらしい。とはいえ、予算が少なくて、ほぼ素人の俳優ばかりの映画にしては上出来だった。
初日上映後、あの金髪の監督はすでに完成したフィルムのコピーを伊咲に渡していたけど、彼女は「家族が揃ったら観る」と言っていた。
そして、金曜の夕食後まで持ち越された。美穂と京介がたまたま土曜は休みで、ようやく家族全員が揃って観られることになった。
「出番のところまで飛ばせない? ホラー映画はそんなに観たくないんだけど」
毛布にくるまって、私にぎゅっとしがみついている美穂が言う。実の母親です、ちょっと息ができないんですが…。私は彼女の手をぽんぽんと叩きながら、力を抜くように促す。
ついさっきまで、彼女はリビングとキッチンのありったけの灯りを全部つけていたのだ。
「ダメ! ゆっくり観るの、そんなに長くないんだから」
伊咲がリモコンを持って、コピーファイルを開きながら言う。
「俺、まだゲームしたいんだけどな」
同じく毛布をかぶって優一を抱きしめている京介が、仕方なさそうに不平を漏らす。
「もう、あなたたちほんとに面倒くさい!」
伊咲が少し怒って返す。
ようやく再生の準備ができて、彼女も走ってきて、一緒に毛布を頭からかぶった。
冒頭は、あの金髪監督が言っていた、伊咲に出演を頼んだ役。このシーンは彼女の家の最寄り駅の近くにある、よく行くカフェで撮影されたらしい。
セットはモキュメンタリー形式のインタビュー風に作られていて、伊咲が演じるのは陰鬱な作家役。カメラの前で、映画のストーリーに関連する架空の伝承を語るというもの。
これ、ほとんど地で演じてる。いや、演じているのかどうかさえわからないくらいで、彼女の一挙手一投足は、まるで締切前日に三日間徹夜した後のようだった。違う、彼女が行った時、実際に確か三日徹夜してたんだ…休載期間ももうすぐ終わるし、連載再開まであと数日だったから。
「なんでいきなりあなたなのよ! つまらない、昔テレビに出てた役と何が違うのよ。飛ばし!」
美穂がそう言うなり、奪い取っておいたリモコンを掲げてこのシーンを飛ばそうとする。
「このバカ、私は冒頭と最後の二場面しか出てないの。飛ばさないで!」
伊咲が怒って、美穂の手からリモコンを奪い返す。
「ちゃんと観なさいよ!」
彼女が続けて言う。
「え~」
美穂と京介がほぼ同時にブーイングの声をあげる。
「はあ、一家揃ってバカばっかり」
伊咲が諦めたようにため息をつく。
でも、私はどちらかというと、美穂が言っていた「昔テレビに出てた役」って何なのかが気になった。
ただ、私が言うのもなんだけど、このホラー映画は結構オーソドックスだった。基本的な枠組みは昔ながらのやり方で、ところどころ斬新な部分はあるけど、あまり多くを求めてはいけない。なんせ、制作陣は貧乏で、私は今だにギャラをもらっていないのだから。
「ところで、私が提供した脚本の修正案なんだけど、これから新作に使っても問題ないよね?」
映画がそれほど重要じゃない場面に切り替わった時、伊咲が尋ねた。
「え? そんなこと、どうして早く言わないのよ!」
美穂はそれを聞くなり、急に背筋を伸ばして言った。
私の頭の上にかかっていた重みが、一気に軽くなった。
「でも、個人制作の映画なら、多分大丈夫でしょうね」
彼女は少し考えた後、また重みを私の頭の上に戻した。
「それならいいわ」
伊咲はあくびをしながら言った。
映画が半分ほど過ぎた頃、ようやくおなじみの学校の場面に入った。メインのホラーシーンは、ほとんど私と優一が出ているあのいくつかの場面だ。
それに、この金髪リア充監督、どうやらなかなかやるようで、撮影技法と後処理の効果で、ほとんど特殊効果を使わずに非常に不気味な雰囲気を作り出していた。
でも、それは私の演技が良かったことも大いに関係ある!
ただ、スクリーンの中のあの女の子を観ていると、自分自身と結びつけるのがとても難しかった。昔なら、私は「この子、すごく上手に演じてる!」と言っていただろう。
よく考えてみれば、私は毎日鏡を見ているのに、自分の顔がどんなだったか全く思い出せない。ぼんやりとしている。
スクリーンの中の自分を見ていても、それは知っているような、知らないような不思議な感覚だった。
昔の私の姿…思い出せない。私は写真を撮られるのが嫌いだった。鏡やスクリーンに映る、平凡でほとんど無能にさえ見える自分を見るのが嫌だった。だから、私は忘れてしまったのだろうか?
でも、今は? 彼女は? テレビの向こうで、不気味さを漂わせる少女を演じている彼女。私には同じ場面での記憶があるのに、なぜかこの二つの記憶を完全に融合させることができない。
一人は、大人になったらもっときれいになって、もっと豊かな未来を持つ女の子。もう一人は、二十年も生きてきたけど、たとえあの事故がなくても、死んでいるのと大差ないような存在。
わからない…私にはどちらが本当なのかわからない。ただ虚無と、現実感のなさだけがある。まるで魂が体から徐々に剥がれ落ちていくような感覚。
恐怖が徐々に広がっていった。
無意識のうちに、私は美穂の手をぎゅっと強く握りしめていた。
「どうしたの? 瑠依、怖いの? あれは瑠依自身よ。怖いものなんてないわ」
美穂はそう言いながら、手の甲でそっと私の頬を撫でた。
その一瞬で、私は現実に引き戻された。まるで一瞬だけ体と融合したかのように、記憶の中の自分の二つの姿がはっきりと見えた。長くは続かなかったけれど。
でも、これ以上自己同一性の証明というループに陥ってはいけない。あまりにも怖すぎる…まるで、もう一度死にかけたみたいに。
映画は、冒頭と同じモキュメンタリー形式のインタビューで終わった。全体的には、未知への恐怖と日本的伝統的ホラーを融合させたスタイル。そして、私と優一が演じたのは、実は伝統的な地縛霊だった…
そして、メインコンテンツに登場する伝説の存在は、どちらかというとクトゥルフ系のものだった。
だから、特撮に経費があまりかかっていないのだ! もし私たちが偶然撮影クルーに出会っていなければ、あの金髪監督は完全にクトゥルフ系ホラーで通していただろう。
「どうだった?」
伊咲がプレーヤーを消しながら言った。
「あなたの演技は最悪!」
美穂が即座に言い放った。
「うん!」
京介がすぐに同調する。
「このバカ! じゃあ、この二人の小僧は?」
伊咲が罵ってから続けて尋ねた。
「瑠依のスカートはなかなか良かったわね! 買ってあげようかしら!」
美穂は自分の感想を述べた。
でも、私はいらない…
「あなたの演技を訊いてるの。そういうこと訊いてない!」
伊咲が呆れたように言う。
「私の子供は可愛いわ! 全然怖くなかった!」
美穂は当然のように言う。
「それって、演技がすごく下手って意味だよね…」
伊咲は顔を覆って、彼女に何と言っていいかわからなくなった。
「でも、あなたよりはマシよ。あなたは演じてるんじゃなくて、地だからね」
美穂はまたもとに戻って、彼女をからかった。
「このやろう…まあいいや。あの監督がね、新しい企画があって、この二人の小僧にまた出てほしいんだって。それに別の監督も、この二人に個性派俳優として出演してほしいって言ってるんだけど、母親としてどう思う?」
伊咲は罵り返そうとしたが、一呼吸置いて先に本題を話した。
「私は別に構わないわよ。瑠依たちが楽しいならそれでいいし」
美穂はうつむいて、私の顔を揉みながら言った。
私も正直、あまりカメラの前に出たいとは思わない。でも、美穂と京介がくれたこんなに良いポテンシャルを無駄にするのはもったいない。本当は伊咲みたいに家でライトノベル作家をやっている方が、楽で気楽だ。
もちろん、サボらないことが前提だけど…
「でも、この二人の小僧が来なくても、私、協力脚本家としてクレジットしてもらおうと思ってるの」
伊咲が得意げな様子で言う。
「あなた、頭おかしいんじゃないの? 自分の仕事さえも終わらせられないのに、さらに用事を増やすの?」
美穂が彼女にツッコミを入れる。
「それがどうした、別にいいじゃん。名ばかりのクレジットみたいなもんだし」
伊咲は背中をソファに預けて、どうってことなさそうに言う。
「ちょっと待って、あなたはどの名前でクレジットされるの?」
美穂が突然私を離して、這って彼女に近づき、緊張した様子で尋ねた。
「ペンネームよ」
伊咲は軽く言い流す。
「じゃあ、俳優表ではどの名前でクレジットされてるの?」
美穂が続けて問う。
「良い質問ね」
伊咲はその時になって初めて問題の本質に気づいた。
「もう時間も遅いし、あまり騒がないで!」
次に何が起こるかわかっている京介が言う。でも、彼は止めるつもりはなさそうだった。
伊咲は慌ててリモコンでプレーヤーを再起動し、プログレスバーを最後のキャスト表まで送った。
あの金髪監督、賢かったので適当に名前を入れてくれていた。問題は、後ろの方の協力脚本家のところに、ちゃんと彼女のペンネームが入っていたことだ。
「いったい、あなた、何考えてるのよ!」
美穂が彼女の肩を掴み、叫びながら激しく揺さぶった。
「これが商業行為だって、わかってるの!」
美穂が続けて言う。
「わ、私、忘れてたの!」
伊咲は逃げ出そうとする。
しかし美穂は彼女にその機会を与えず、いきなり飛びかかって馬乗りになった。
「あ! 腰! 腰が折れる!」
伊咲が大声を上げる。
「一日中、余計なことばかり私にさせないで!」
美穂が言うなり、彼女の喉をロックして、わあわあ騒ぐのを止めさせた。
京介は見るに見かねて、観るのをやめて台所に飲み物を入れに行った。
私も彼女の相手をするのが面倒だった。誰がキャスト表の双子を「小鬼A」と「小鬼B」に変えたんだ、どう見ても彼女の仕業だ…
結局どうにもならず、翌日の美穂の休暇はもちろんパーになった。このバカを引きずって出版社に行き、とりあえず事情をはっきり訊ねるしかなかった。




