4、美味しい朝ご飯って大事だよね
牛の乳とバターで煮込まれた甘い香りの漂う麦の粥に、瑞々しい品種の異なる葡萄の盛り合わせ、それから塩気の強そうなチーズと、香ばしい香りのする平パン(クルミやナッツがたっぷり入ったパンと、レーズンの入ったパン、それからオーソドックスな小麦だけのパンの三種類を用意)。
それから、お茶は見た目を楽しんでもらう花茶(耐熱のガラスの急須に入れ、蒸している間に花が開いていく様を見て楽しむお茶。無論、味も良い)。
それに、デザートには中に餡子のたっぷり入った甘〜い揚げ餃子もある。
うん。
これなら、テルミハルア達も喜んでくれるだろう。いずれも、ハビョウカではあまり食べられない食材などを選んであるし。せっかく遠くからこの街まで来てくれたのだ。それを労うためにも、やっぱり美味しいご飯は必須だよね。
「全く。普通男が台所の内容に口出しするもんじゃないんだよ? アージ坊や」
俺が今日出される朝食を確認しに来たことに、料理長のビーンさんが呆れたような苦笑を向けてきた。チュークさんと同じくらいの歳のおっかさんで、俺が生まれる前からこの家の台所で働いていた女性だ。
今日の朝食もビーンさん達が作ってくれており、当初はお粥と葡萄とチーズだけとだったので、急遽増やして貰ったのだ。いや、別にこの朝食のメニューが悪いわけじゃないよ? 至って普通の朝食の献立だし。でも、折角この街まで来てくれたんだし、ちょっと色はつけたいじゃん?
言っておくけど、ちゃんと父さんにも許可は貰っているからね? さっきから隣で面白そうに俺達のやりとりを見てるし。
「まぁまぁ。そう固いこと言わないであげてくれよ、ビーン」
ほら。父さんもこう言ってくれている。ふふん。既に味方はこちらに率いているのだよ、ビーンさん。そんな神妙な顔をしたって無駄なのさ。誰にも、俺のこの迸る想いを止められはしないのだ。
「そうだよビーンさん。子供の柔軟な発想は伸ばしていかなきゃ。それに、折角この街まで来てくれたんだし、美味しいものを食べさせてあげたいじゃない?
そりゃあ、ビーンさんの料理なら何でも美味いけどさ。でも、地元の美味しいものも少しは入れないと寂しいんじゃん?
あと、俺の良い男振りを少しでも見せないとね!」
何事も、小さな努力が大切なのだ。
そうガッツポーズを取れば、ビーンさんには脱力され、父さんには頷かれた。
「いや、それはそうなんだろうけどね? なんか努力の方向間違っちゃいないかい?」
そう告げてくるのはビーンさん。それはちょっとは思わなくもないから言わないで欲しい。
「あはは。まぁ、何が彼女にとって好ましいかは全く分からないからな。やるだけやってみると良い。良い男って言うのは、万人に受けるものではないからな。
愛する女性にとって好ましい男こそが、良い男だ」
おぉ、良い言葉でまとめてくれるじゃないか、父さん!
ふむ。実に良い言葉だ。後で機会があれば使おう。
「そう言うことだよ、ビーンさん。じゃあ、後はよろしくね? ちゃんとあったかい内に届けてよ? あと、お代わりも一杯させてあげてね。それかr……」
「はいはい。分かりました、分かりましたとも。ちゃんと届けてきますから。ほら、早く食堂にお戻りなさいな。奥様達がお待ちですよ」
言い終わらない内に、手をぱんぱんと叩かれ、遮られてしまった。
それから手早く台所から追い出されてしまったではないか。むぅ。まだ言っておきたいことはあったのに。でも、確かにこれ以上母上達を待たせるのも悪いか。ここは大人しく引き下がってあげよう。
「いや。中々楽しそうだな、アージ」
「そうですか、父上?」
自分ではそんな自覚はないが、父さんから見ればかなり楽しそうらしい。まぁ、言われてみればそうなのかもしれない。テルミハルアのことを想って、こうして行動している自分もいるのだから。それが全く不快でも面倒にも思わない辺り、楽しんでいるのだろう。
だって、他にも色々してあげてたまらないから。
あぁ。早く話とかがしたい。馬での遠出は……。ちょっと勘弁して欲しいけど、それでデートが出来るのなら頑張れると思う。
ちなみに、今日は父さんも一緒に朝食を食べる日なので、こうして朝から行動を共にしている。何せ昨日来たテルミハルアのこともある。親として色々と話すべきこともあるのだろう。
あと、父さん達に対する言葉遣いがビーンさんに比べて丁寧なのは、躾ゆえっす。目上の人には敬語。これが基本だから。ビーンさんは「さん付け」はするけど、あくまで使用人に過ぎないので、「みだりに敬語の類は使わない様に」と言われているのだ。で、父さん達には「しっかり敬語で話しなさい」と言われているので守っている。
親しき仲だからこそ、礼儀あり、なのだ。
さぁ。早く朝ご飯を食べようか。
空腹が無視出来なくなってきたから。俺達の朝食には何が出るんだろうな〜?
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「お待たせ致しました。こちらが皆様の御朝食でございます」
そう言って身なりの良い使用人達が持って来た朝食の内容に、客間で泊まっていたパボルバーダ一行は驚きを隠せなかった。
上等な牛の乳とバターで煮込まれたであろう、やわらかな麦粥。砂糖とは異なる甘い香りが漂うことから、ふんだんにバターや牛の乳を使用されたことが分かる。
葡萄の盛り合わせも、種類があって目に鮮やかだった。赤みが強い物や、草原のような色合いをした物、それから少し細長い房をつけた物。いずれも立派な実をつけた物ばかりで、非常に瑞々しい。また取りやすいよう、それぞれ種類ごとに取り分けられた木皿に盛られている。
チーズも十分な量が皿に盛られていた。
これだけでも十分過ぎると言うのに、更にはクルミなどを惜しげもなく生地に練りこまれた香ばしい平パンに、高級茶である花茶。それだけでは飽き足らず、甘味までついているときた。こんな豪勢な食事、滅多に食べられたものではない。
今日はシュルッカ殿の身内で何か祝い事でもあったのだろうか?
そう尋ねれば「いいえ」と答えられた。何でも、遠くから来た我等を労うための食事であるとのこと。
しかも、だ。いずれも十分な量があり、持ってきた使用人に尋ねれば、好きなだけお代わりをしてくれて構わないとまで言われた。
「父上。この朝食は間違いなく私達が口にしてもよろしい物なのでしょうか?」
使用人が外に出たのを見届けるや否や、テルミハルアが真っ先に尋ねてきた。他の者も、視線で同じ内容を訴えかけていた。
「あぁ。そうだ」
シュルッカ殿の人柄を鑑みれば、それで間違いないだろう。それに我等は一応血族としての繋がりもある。隣を見ればジーンも同じような考えらしい。
それにしても、昨日あれだけ無礼なことをしてしまったと言うのに、この手厚い待遇。あの娘の無礼極まり無い発言を、面白いの一言で方をつけてくれただけのことはある。前の婚約を破棄した時の扱いと比べれば……。いや。あれは我等が明らかに悪いのだ。これ以上はやめておこう。とりあえず確かなことは、我等はもてなされていると言うことだ。これが大切なことだろう。
シュルッカやその奥方様、後は婿殿と呼んで良いのかは分からないが、アージ殿にも厚く礼を申しておかないとならない。
「テルミハルア。後でシュルッカ殿達にお礼をせねばな」
言外に、失礼な態度は取らないように、と言い含める。
「……。はい」
ふぅむ。この娘も、流石に食事の恩には報いる気はあるらしい。そこら辺はハビョウカの人間らしいな。それにしても、もう少し言葉を返してくれれば良いのだが。いや、予想だにしない言葉ならいくらでも紡いでくれるのだがなぁ。まぁ、返事を返してくれただけまだマシと思うことにしておくか。




