7.点と線
足早に車に戻ったアキラは、後部座席に置いたバックパックからタブレットPCを取り出した。
スマートフォンと同じく有名メーカーの市販品だ。
AIエージェントを起動したアキラは画面に向かって話しかけた。
「スマホアプリについて調べて。名称はコードネスト。使用用途は高校生のプログラミング学習」
画面にテキストが流れていく。
ネット上の情報を集約している。
画面が止まり、音声が流れはじめた。
『対象のアプリは2025年に発表された、初歩的なプログラミングを学ぶためのソフトウェアです。十五段階に分けて基礎を学ぶことができる一方、現在の評価は高くありません。口コミでは、小学生が簡単なゲームを作るなど、低レベルな遊びに向いているとのことです。最終更新は2028年で、その後デベロッパー企業が倒産したため、バグ修正などが対応できていないと注意喚起を行っているユーザーがいます』
エンジンをかけながら、引き続き考え込むアキラ。
「どうしたの? そのアプリが気になってる?」
助手席のナギが画面を覗き込む。
「なんか引っかかってさぁ。小学生向けって言われる古いアプリを高校生がダウンロードするかな?」
「学校指定とかじゃなきゃ使わないよね」
「だよね〜」
アキラはスマートフォンを取り出し、電話帳から「上海亭」を呼び出した。
『お電話ありがとうございます、あなたの町の本格中華、上海亭でございます』
電話の向こうは班長の声だ。
「予約してた駿河ですけど、コースの変更をお願いします」
『俺だ。随分早いな。何か掴んじまったか?』
「ちょっと自信はないんですけど、帆足麻美のスマホに入ってるアプリが気になるんです。今メール送ります」
タブレットを操作しながらの会話だ。
帆足麻美のダウンロード履歴を複写し、特生室のメールアドレスに送信する。
『受信したぞ。コードネスト……プログラミング学習……その下にあるVPNってのは何だ?』
「セキュリティを高めるために通信データを暗号化するソフトです。同じインターネット回線を使っていても、別の人から盗み見られるリスクを減らせます」
『俺はそっちの方が気になるな。今時の高校生は回線を暗号化する必要があるのか?』
「普通の高校生ならないと思います。スマホの使い道なんて、動画を見るかSNSでしょうから」
『なるほどな。ちょっと待て……』
班長の返答が途絶えた。
数秒経って再び声が聞こえる。
『今、同じアプリの履歴がある行方不明者をAIに抽出させてる。まだわからんが、もし類似案件が出てくるようなら、事件の見方を変える必要があるからな。しかし資料が多いから少し時間がかかりそうだ』
「同じアプリを?」
『そうだ。条件が一致するってのは大きなヒントでな、それ自体が空振りでも別の共通項に繋がることもある』
警察官僚だった彼の持つ経験則なのだ、とアキラは思った。
『俺がガキの頃なんだが、ヨガの教室だと思って通っていた人々が気がついたらカルト教団に入信してたってことがあってな。後に教団幹部となって重大犯罪に関わった者もいた。入口と末路は得てして一致しないもんだ』
班長の言葉に、アキラは嫌な光景を思い浮かべた。
例えば帆足麻美が悪い大人に誘われていたとして、必ずしも金ヅルやカモにされるだけとは限らない。
カルト教団や過激派政治結社に洗脳されテロの尖兵となってしまう未来もありえる。
『……これは……当たりかもな……』
「何が出たんですか?」
『まだ途中なんだが、検索結果がどんどん増えてる。今、七件、いや八件の行方不明案件で同一アプリの履歴が出てる』
「いちばん近い現場に行ってみていいですか?」
『ちょうどそう言おうと思ってたとこだ。近いのは……仙台市青葉区、失踪者はソープ嬢で、届出は十日前。届出人は雇い主だから、店に行けば会えるかもしれん』




