16.守る者たち
「遊撃が現着。突入予定地点を選定中です」
南へ走るトラックの「荷室」に、通信員の声が響いた。
もちろん本物の荷室などではない。
ショートボディの四トントラックとそっくり同サイズに仕立てあげられた、愛知県警の移動指揮車。
その後部に備えられた指揮通信スペースだ。
複数のモニターが並び、スピーカーや用途のわからない操作パネルで壁が埋まっている。
刑事部長自ら陣頭指揮を執るその車両内に、アキラも同乗が許された。
空いたモニター監視用の椅子を拝借して、警察官たちの会話に聞き耳を立てている。
「何か気づいたことがあったら遠慮なく言ってね」
アキラの緊張を慮ってか、刑事部長が優しい声をかけた。
「はい、ところで凄いですね。この車も、後ろのやつも」
外見は一般的な運送トラックと違い全体を青一色で塗装されているため、後部キャビンの「愛知県警察」という表示板と相まって警察車両だとわかる。
しかし、大型車両の行き交う地域では途端に目立たなくなる。
今回は目立たず敵陣に近づく目的があるため、この車両が持ち出された。
追走しているのは特殊急襲部隊の銃器対策警備車。
中型路線バスほどの車格を誇る装甲車であり、銃器対策部隊やSATが現場に出動する際に用いられる。
こちらはライトブルーの車体に白線が入っており、詳しい者でなくとも警察車両であることがわかってしまうため、かなり遅れて走っている。
目的の倉庫に近づく際も迂回して発見を避ける手筈になっている。
「せっかく内閣のお偉いさんたちがお膳立てを整えてくれたんだから、我々が失敗するわけにはいかないのよ」
刑事部長が言うように、この事件に対して政府は積極的に介入している。
警察の力が及ばない領域の情報収集や、暴力団に対する実力行使の形跡もある。
後者に至っては警察の任務に踏み入っていることから、日本の行政機構の外にある組織ではないか、とアキラは想像した。
「どうせなら倉庫への突入と総長逮捕までやってくれたらいいのに」
不思議と最後の一手を警察に譲ったその組織に、アキラは漠然とした不満を抱いている。
だが刑事部長の考えは違ったようだ。
「逮捕と取り調べを警察がやらないと、事件そのものを闇に葬ることになってしまうからでしょうね。国際スパイのように表沙汰にできない事件なら強引な手も使うと思うけど、これはあくまでも犯罪捜査で、この国に迫る犯罪者の魔の手を詳らかにする必要があるからよ」
その言葉を聞いて、アキラは自分たちの戦っているフィールドの違いを知った。
特生室は変異者の生活を守るための組織であり、警察は治安を守り犯罪に対処する組織。
また、仙台で行ったアキラの「カチコミ」は非公開組織の人間が独断で行ったからこそ、今のところ表沙汰になっていない。
同じことを警察官が行えば違法捜査として全てが台無しになる。
『遊撃より報告、倉庫に入ったマイクロバスから、両手を拘束された女性が三名降りました。目隠しもされてます』
「まだ被害者がいたのね。突入時盾にされる可能性があるから、SATに伝えて。それにしても催眠を使わせないように目隠しとは……サキュバスの扱いを心得てるわね」
「へっ?」
刑事部長の言葉に不意をつかれたアキラは気の抜けた声を漏らした。
警察官がサキュバスとその特性を知っていることへの驚きが大きい。
「あら気づかなかった? 私もそうなのよ」
そう、とは刑事部長もサキュバスだという意味だ。
思い込みを排して考えてみれば、警察にサキュバスがいたとしてもなんら不思議ではない。
余裕のある体力を活かして一流大学に進み官僚になるという道は、アキラも考えたことがある。
「事件の話が警察庁から降りてきた時、こんなことが起きるなんてと驚いた。サキュバスを狙う犯罪組織なんて聞いたことがないから。そしてちょうどあなたがやってきた。以前噂を聞いた時から仲間だと思っていたあなたが。私たちは運命に試されてる。ここで止められなければ、同じことがまた起きる。日本だけじゃない。世界に生きる数十万のサキュバスが、同じように狙われるかもしれないのよ」
「はい、必ず守り抜きましょう」
その時車両が停止した。
予定されていた待機場所に着いたようだ。
目標である倉庫の隣にある鉄工所の敷地を借りているはずだ。
『突入最適位置は倉庫北側。フェンス破壊のためSATが前進します』




