11.姐さん
ナンパ男二人組が戻ってきた。
「姐さん、聞き込み終わりました!」
いちいち姿勢を正して報告するその姿は、まるで自衛隊時代の後輩たちを思い出す。
つられて教練動作で受ける、ということはない。
さすがにコンビニ前で缶コーヒーを飲みながらでは空気感が違いすぎる。
「よし、何がわかった?」
「春頃から先月まで、赤目だけを狙うナンパ師集団みたいな連中がうろついてたそうです」
「赤目だけだぁ? 見分けつくのか?」
アキラの疑問も当然だった。
サキュバスが赤目と呼ばれるのは新生児期の数日間虹彩が赤いからであって、常日頃の外見は普通の人間と全く同じだ。
「うす、見分け方があるそうです。知り合いがナンパ師の一人と飲み仲間になっていろいろ教わったとか」
「マジか……お前も何か聞いたか?」
見分け方、ということは、サキュバスに特有の行動パターンを発見した者がいるということだ。
後で班長に報告する必要がある、とアキラは思った。
全てのサキュバスに一致しないまでも、何らかの行動パターンがあり、他人と違うということは共有するべきだ。
小中学生などに広まってしまうと、虐めや差別の原因になりかねない。
「男を見る時に、全身をくまなく見るらしいんです。それも、通りすがりの関係ない男でも。で、その時に首筋や腰周りを念入りに見てるらしくて……」
横にいるナギが息を飲んだ。
どうやら身に覚えがあるようだ。
もちろんアキラにも覚えがある。
首筋や腰周りには男性の筋肉量やバイタリティが反映される。
要するに自分向けのオスであるか判別しようとする、という意味だ。
自覚してみると急に耳朶が熱くなる。
たかが視線の流れから、男性観や欲求、その他他人に知られたくないことを見透かされるのだ。
「ほかには?」
「あとは……やたらと見てくれがいいのに、流行りの化粧してなかったり、同じような服装の女とつるまない……とか言ってたっすね」
「その辺はわかんねーな。男目線だと見るとこが違うんだな」
「聞いた話と比べてみると、姐さんたちもサキュバスですよね?」
野球帽男が純真無垢な表情で聞いてきた。
まるで「一杯目はビールでいい?」とでも聞くような迷いのなさ。
「……うん、そうだよ」
「アキラ!」
ナギが咎めるような声を上げるが、サキュバスの特徴が知られ、それをもとにこの二人が確信している以上、隠しても仕方ない。
「あの、手……貸してもらっていいですか?」
野球帽男がアキラに向かって手のひらを差し出した。
「いいけど、変なことすんなよ?」
アキラも特に警戒せず、手を差し出す。
甲を上に向けたまま、男の手と同じ高さに。
その手を男が下からそっと掴む。
あまりにあっさりと握ってくるその動作に、アキラは一切の不快感を覚えなかった。
だが、次の瞬間起きたことに驚かされた。
触れた手がジワリと熱くなったのだ。
そして肌が溶け合うように何かが流れ込んでくる。
「お前、これ……」
肌越しに精気が流れてくる。
それはアキラの全身に広がり、細胞を活性化させていく。
知らない感覚ではない。
つい先日、友人にこの方法で精気を補給してもらったばかりだ。
「あ、やり方合ってました? 結構練習したんすよ」
「どうやって? 誰に教わったんだよ?」
男が答える前に、一人だけ該当する人物が思い浮かんだ。
「風俗嬢なんすけど……紫音ちゃんて言って……」
「まさか、『タービュランス』の紫音か?」
「あ、はい、そうです……近頃休んでるのか、全然店に入ってないんですよね……姐さん、何か知ってます?」
「いや、詳しくは知らないんだ。そうか、休んでるのか」
慌てて誤魔化した。
紫音の失踪のことまでは知らせない方がいいだろう、と咄嗟に思ったからだ。
「君はその紫音て子のお客なの?」
ナギが横から割って入った。
野球帽男は店でのサービスを思い出したのか、緩みきった表情で語りはじめる。
「そうっす。あの店結構お得なんで、安月給の俺らでも月二回は行けるんで、毎回紫音ちゃん指名で。人気だから早めの予約が必要なんですよ。街中で見かけてもボディーガードが付いてるくらいっすから」
「ボディーガード?」
「店のボーイで、丸っこいのがいるんすけど、そいつが付きっきりなんす。それこそ付き人かボディーガードって感じで」
「ふうん……付きっきり、ねぇ」
丸っこいボーイとは、アキラたちが店に入った時に出迎えた男だろう。
休日一緒に行動するほどとは、オーナーの養子であるにしても大事に扱われている。
それをかいくぐって紫音に接近した何者かがいるということだ。
「ナギ、宿取る前にちょっと寄り道しよう」
「ええ? んん……ま、仕方ないか」




