軍服男
純ホラーじゃないからジャンル違うかも…?と思ってホラーからローファンに変更しました。
「…………あ、え?」
そう思っていた倖の両目は、不思議なものを映し出す。
がしゃんっと乾いた破壊音の後に、両手を振り上げたままの骨武者の胸部から何かが突き出される。
一瞬、少女たちの身体を貫いた銀色の刃を思い出すが、それは肌色をした丸いもの――拳だと気付くのに、たっぷり十数秒掛かった。
骨武者も自分の身に何が起こったのか理解できていないようで、首を傾げ、胸部を見下ろし、倖を見返し、そして支えを失ったように崩れ落ちた。
ばらばらと骨武者がいなくなると、そこには真っ黒な人影が在った。
(影……?)
倖がそう思うのも無理はない。
それは被っている帽子から履いているブーツまで全身真っ黒の軍服のような服に身を包んでいた。
腰に刺している鞘すら黒一色。
きちんと人の形をした男だった。
倖よりも幾つか上に見える、若い男。
形良い唇を真一文字に結ばれ、形良く尖った鼻、鋭く光っているような切れ長の瞳を持った男は、見上げる形でも端正な顔立ちであることがわかった。男は倖を一瞥することなく、前方を睨んでいる。
「あ……あの……」
声をかけようとしたが、背後にいた武者が奇声を発して迫ってきた。
「ひゃっ!」
倖は頭を抱えて足を縮めて蹲る。
が、武者の視線は倖ではなく、男に向けられている。
男は倖を跨ぐ様に跳躍した。
トン、という軽い音にも関わらず、その飛距離は武者との距離を一気に縮める。
蹴りが武者の刀を折り、飛んだ刃が倖の近くに突き刺さった。
「ひゃっ!」
驚いて四つん這いで逃げ、扉近くの倒れた本棚の陰に隠れる。
武者は折れた刀で尚も襲い掛かろうとするが、その手首は男が音も無く抜いた刀によって宙を舞う。
聞く者に怖気を走らせるような叫び声が上がり、武者が膝を突く。武者はまるで命乞いをするように両手を差し出すが、男は無表情のまま刀を横に凪いだ。
武者の首がごつっ……と音と共に部屋の端に転がる。
(……な、何者……?)
ほんの一瞬の出来事だった。
瞬く間に、化け物二体が突然現われた男に退治される。
「あ、のぉー……」
終わったところで、恐る恐る声を掛ける。
しかし、倖に後ろ姿を見せたまま動かない。聞こえなかったのだろうか? と、少し声を張り上げる。
「あ……あの、すみません!」
ぎん! という効果音が付けられそうな勢いで男が振り返られ、びくっと身体を揺らす。
刃のような鋭い視線が今度は倖に注がれた。
美女が怒ると恐ろしいというが、それは美形でも同じだ。睨むような視線なのに、無表情なのが更に怖い。何も言わないので余計に。
怯えて固まる倖を尻目に、男は暫くしてから視線を逸らす。
そのまま軍靴を響かせ、倖の横を通り過ぎて図書室から出て行こうとした。
「っ……! ちょ、待って! 行かないでくださああっ!!?」
「っ!?」
慌てて立ち上がり、小さな黒いマントを掴んで引きとめようとするが、怒涛の展開で限界が来ていた足は倖の思い通りに動いてくれない。ガクガクと目に見えて大きく震える足は二歩踏み出しただけで音を上げた。
だが、前のめりに倒れた身体は、倖の奇声に驚いて振り返った男の胸に飛び込む形になる。
意図せず男の胸に飛び込んだ。
しかも相手は長身のイケメン。
一気に顔が熱くなった。
(ひ、ひやぁ……!!)
生まれて十七年、初めての体験である。頭が真っ白になって、その空白を埋めるように胸の高鳴りが頭の中に響きわたった。白檀の良い香りが、倖の鼻腔を擽る。
はぁ、と大きな溜息。それすら悩ましげな色のあるため息に聞こえる。
男の手がゆっくりと倖の頭部に翳されて――――――――ごいんっ!!
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」
倖の脳天から爪先まで衝撃が駆け抜けた。
目から星が出たような気すらする。
余りの痛みに声を出せないまま蹲る。
殴られた。しかもグーで。骨武者の鎧ごと砕いたあの拳で。
頭の天辺を殴られるなんて、小学生以来だ。あの時の痛みが思い出される……いや、それ以上に痛い。
どきどきの甘い展開はどこか遥か彼方へ吹っ飛んでしまった。
「~~~~っな、何すんの、いきなり!! 普通初対面の相手の頭を殴るっ!?」
「誰の所為だと思っている、天野倖」
「え?」
掴み掛かって怒鳴る倖に対して、男は至極冷静に返す。だがその低い声に倖とは比べも物にならない怒りの感情が含まれていた。
「は、はあ? 何、どういう……っていうか、何で名前……?」
「お前には関係ない」
「……は? 私の名前のことなんだから関係なくないっしょ」
「……余計な詮索をするな。いいな」
「よ、余計な詮索って……。いや、でも、だって。っていうか、誰の所為って、どういうこと? 私の所為だって言いたいの? なんで? 私が何をしたっていうのさ? っていうか何が起きてるの? チャイムがお寺の鐘の音になるし急に地震が来るし人が減るし、かと思ったら落ち武者みたいな化け物が学校中に現われて人殺しまくってるし。そういえばあんたはなんなの? お払いする人? 霊能力者? なんで学校にいるの? 今何が起きてるかわかってるの? なんで軍服なの? なんで刀持ってるの? これからどうするの? 私どうしたらいいの?」
徐々にパニックになっての質問ラッシュに男の眉間に皺が寄る。
再び真一文字に結ばれた唇は動かないまま、男の人差し指が倖の眉間を指した。
「なっ……! え……」
途端に異常な眠気に襲われ——視界が暗転し、倖は瞬時に意識を飛ばした。
膝から崩れ落ちた倖の身体を、男は片手で抱き止める。
「……お前は何もしなくていい」
すーすーと穏やかな寝息を立てる倖に向けて呟く。
相変わらず表情は変わらないが、細められた眼差しは何処か優しい。
「俺が、全てを終わらせる」
その言葉には、強い決意が込められていた。
お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)




