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郷守奇譚  作者: 夢編 此方
第二幕

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7/7

化け物

この図書館イベントはメインイベントなので、断ったら即死になる想定ですた。


 一階に降りた時だった。


「誰か! 誰か助けて!!」

「おわっと!!」


 何が飛び出してきて驚いて急ブレーキをかけた倖に対し、眼鏡の女生徒が必死の形相を浮かべてしがみ付いて来た。


「お願い、助けて! 友達が図書室の本棚の下敷きになってるの!!」

「ちょ、ちょっと待っ……」


 倖は殆ど利用したことが無く覗く程度だったが、ぎっしりと本が並べられた重厚な本棚が壁という壁に並べられ、中央に読書スペースのテーブルが並べられた広い室内だったと記憶している。その本棚の下敷きになっているというのであれば、この細身の少女一人では持ち上げられないだろう。


 正直、迷う。求められたのならば助けてあげたいが、今は明日花と沙夜花の身の方が心配だ。一刻も早く、二人の元に駆けつけたい。二人の安全を確かめたい。そして三人で安全な場所に逃げ出したい。


 逃げたい。


 ——だが、見捨てては置けない。


「わかった、さっさと本棚持ち上げるよ!」

「は、はい!」


 階段から一番近くにある図書室に入る。

 先程の地震で、本棚は全てではないが殆ど倒れている。本を足で避けたり棚を越えたりして奥に進むと、本棚とテーブルの下に女生徒が倒れていた。

 直接下敷きになっているというより、奥で足が引っ掛かっているのか、もがいている。地震の時にテーブルの下に隠れたのはいいが、本棚が重石になって抜け出せなくなっているようだ。


「知美! 助けが来たよ!」

「メグ!」

「とりあえず本棚持ち上げるよ! 二人なら少しは持ち上がるだろうから、その間に何とか這い出て!」

「は、はい!」


 倖と眼鏡の女生徒で本棚の両脇から抱える。見た目通り重い本棚で、「ふぬぉおおおお!」と全身の血管が浮き出るほど力を入れてようやく持ち上がる。少し本棚が浮き、下敷きの女生徒が這い出てくる。それを確認した眼鏡の女生徒の限界が来たようで、一気に重さが増し、耐え切れなくなった倖は本棚を落とした。


 鉄製のテーブルとぶつかり合って激しい音を立てて崩れ落ちる。

 先程の武者が音に気付いてやってきたらどうしようかと思い扉を見るが、足音も甲冑の音も聞こえない。倖の不安を他所に、二人は抱き合って喜んでいる。


「知美~! よかったぁ……!」

「メグ……! ありがとう……!!」

(私も助けたんだけど!?)


 そう思うものの、お礼が欲しかったわけじゃないので野暮な突っ込みはいれない。

 熱を持った両手を冷ますようにぶらぶらさせて踵を返す。

 救出は済んだのだからもう用済みだろう。

 一刻も早く双子の元に行かねばならない。


「じゃあ、私はもう行くから。今学校中怪しい奴がうろついてるみたいだから、警察が来るまで隠、れて、な……」


 かしゃん。


 背後から、不吉な金属音と、ぞっとするような冷たい気配。

 

 素早く振り返る。

 しかしそこには何も居ない。

 まだ抱き合っている少女たちがいるだけだ。


(幾ら助かったのが嬉しいからっていつまでもそうしているのはどうかと思……)


 だが、よく見ると、眼鏡の女生徒の肩越しに見える女生徒の顔から表情が消えていた。

 そして眼鏡の少女の背中から、何やら細長い棒状のものが飛び出ている。

 

 ——その先から雫が垂れ、床に赤い水溜りを作っていた。


「あ……あ……ああ……」


 それがどういうことであるか認識した途端、がたがたと身体が震え出す。

 目の前で起きている出来事が頭に入ってこない。


 そんな倖に、更なる追い打ちがかかる。 

 

 少女の背後の床から、それはゆっくりと浮かび上がってきた。

 頭、肩、腕、胸……上半身が現われたところで、少女たちの身体が倒れる。


 薄汚れた白い骨、虚ろな瞳、生気の無い表情、武者。


 ——それはどう見ても、床から現われた。


 信じられない。

 幾ら殺人犯だからといって普通の人間が床から出てくるか?

 そんなわけ無い。

 床に穴が開いていた?

 いや、武者の足元には本棚やテーブルが重なっている。床に穴があったとしても本棚が邪魔して出てこれない。


 自分の目で見た筈だ。武者が、何も無いかのようにぬるりと床から浮き出てきたのを。そんなことができるのは……。


「ひぃいいいいいいいいいぃぃぃぃっっっ!!!!」

 

 ここにきて、倖は初めて絶叫した。

 すぐさま反転し、図書室から出ようとするが出口の近くで足元に合った本に蹴躓き転倒する。それでもなんとか逃げようと起き上がろうとした倖の目の前に、白い棒が二本。

 

 徐々に視線を上げていき……それが、皮膚も肉も無い、足軽鎧を身に纏った綺麗な骨であり、空洞の眼で倖を見下ろしていた。

 骨だけの手は長い槍を握っている。

 その穂先には、誰かの、生首。


「あ……ああ……ああ……あ……」


 言葉が喉に詰まり、声が出ない。心臓の鼓動音が煩わしいほど早く打ち、汗がどっと吹き出る。


(化け物だ……!!)


 人間が床から出てくるのも、骨だけで動き回るのも、人間が出来ることじゃあない。

 化け物たちが、学校にいる人間を殺害している。


(殺される。このままでは自分も殺される、逃げなくては)


 思うと同時に、前後に挟まれている上、倒れた状態では不可能だと悟る。起き上がれない。動いた瞬間、殺される。


 かしゃん、と背後で音。首だけで振り返ると、少女たちを屠った武者が近づいてきて、刀を振り上げているのが見えた。


 動いても動かなくても、どちらにしろ、殺されるようだ。


「あ……や……待っ……」


 呼吸がままならず、酸欠とパニックで目の前がちかちかと点滅する。

 どん、と近くに何かが落ちた音。

 咄嗟に振り返ると、生気の無い顔と目が合う。それは先程、骨足軽の槍に刺さっていた生首。その汚れた穂先は倖へ。


 死ぬ。死ぬ。確実に、死ぬ。この誰ともわからぬ生首の横で。 

 

 そこに皮膚や肉があれば笑ったということがわかっただろう、骨足軽の顎が大きく開かれる。腕が大きく振りかぶられ、勢いよく下ろされた穂先が倖の身体を貫いた——


お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

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