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【フリゲ風】郷守奇譚  作者: 夢編 此方
第弐幕

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カタツムリ女戦

ゲームでは探索→バトルという流れですが、リアルな一般高校生が戦えるか!ということで頭脳戦と相成りましたエピです。


「やばいやばいやばい!」

 

 化け物の笑顔を見上げながら、倖は無意識に刀を抜いた。攻撃本能というより、防御本能からだ。 

 こんな巨大なカタツムリの相手なんて、出来る訳がしない。


「雄翔! 戦うの、これ!? 逃げるの!?」 

「逃げる一択だろ! 戦えるかこんなもの!」

「ですよね!」


 カタツムリ女は細い両腕でぐるりと方向転換すると、ドカドカと物々しい音を立てて接近してくる。だが身体の大きさや背負ってるものの重量が相まってか思ったほど速くはない。

 二人は踵を返して長い回廊を逃げ出した。


「どこかの出入り口で開いてるところはあったか!?」

「見てない! わかんない! あそこは!?」

「! 待て! 駄目だ!!」

 

 答えながら、倖は近くの出入り口に足を向ける。

 しかし雄翔の言葉に反射的に方向転換。

 途端、倖が向かおうとした先に、ベチャッ! と黒い粘液が飛来した。床に落ちたそれは音を立てながら床に穴を開ける。


「ちょ、長距離攻撃もできんの!?」

「後ろも気を付けろ!」

「そんなホイホイできるか!」

 

 思わず背後を一瞥すると、カタツムリ女はボールを投げた体勢で停止していた。倖と目が合うとニヤリと笑い、再び両腕を使って移動を始める。

 幸い、粘液玉を使うには足となる腕を止める必要があるようだ。


 駆け抜けながら、モール内の出入り口を確認する。瓦礫や倒れたカートが邪魔をして通れない所が殆どだ。そもそも飛来する粘液に邪魔をされて辿り着けない。

 

「あいつ、絶対性格悪い!」

「違いない!」


 脱出の邪魔ばかりに粘液攻撃を仕掛け、倖たちに攻撃してこないのがその証拠だろう。まるで狩りのごとく、倖たちを追いかけ回して楽しんでいるかのようだ。


「このままだったら袋のネズミの可能性がある!」

「なんで!?」

「直接攻撃をしない、外に出すつもりがない、追い掛けるだけ! この先に出口が無いとわかってるから出来る行動だ!」

「つまり舐めプか!」

「そうだ!」 

「どうする!? イチバチであの粘液避けて出口行く!?」

「スーパー側になら塩とか化学薬品あるだろ!? 効くかはわからんが、それで対処する!」

「効かなかったら!?」

「……お前の刀が頼りだ!!」

「えええええ!!?」


 攻撃が出来るものを所持しているのは倖だけ。そういうことになっても仕方がないだろう。


「やるしかない! あいつがいくら巨大でも、ベースが軟体生物なら絶対に勝機はある!」

 

 床のタイルの種類が変わった。太い二本の柱の真ん中にサービスカウンターが設けられており、そこから専門店エリアから総合スーパーエリアに移る。


「倖、俺は薬品コーナーに向かう! その間、化け物を引きつけてくれ!」

「こうなりゃヤケだ!! わかった!」


 雄翔を先に行かせ、サービスカウンター手前で急旋回。カタツムリ女と対峙する。

 カタツムリ女は倖らが二手に別れたことに一瞬戸惑ったように倖と雄翔を交互に見た。即座に立ち止まると、自身の身体から粘液を抉り取り、雄翔に向かって投げつけた。


「させるか!!」


 咄嗟に身体が動く。投げ付けられた粘液玉を、野球よろしく刀で打ち取る。

 おおよそ刀その扱いとは思えない扱い——だが、中心から二つに裂けた粘液玉は、天井と床を溶かした。

 

 カタツムリ女も驚いたようで、白目が大きく見開かれる。

 

「おっしゃ、有効打!」

 

 跳ねた少量の液体が制服を少し溶かしたが、皮膚に異常はない。

 掲げた刀には汚れも破損も一切なく、綺麗な刀身のままだ。

 それでつい、調子に乗った。

  

「来いよ性悪! お前の身体なくなるまで打ち返してやるよ!」


 刀の切っ先を向け、ドヤ顔を決める。

 ポカンとしたカタツムリ女だったが、倖の言葉がジワジワと理解できたのだろう。怒りに顔を歪ませ、掌で床を破壊しながら先程よりも早いスピードで倖に迫る。

 

「いや突っ込んできてほしくはない!!」


 慌てて避けると、カタツムリ女はサービスカウンターに突っ込み、破壊。床と接着されたデスクを破壊する威力に血の気が引く。


「無理だ!」


 真っ向から戦うのは避けるべきだと走り出す。左に行けば商品売り場だが、そっちには雄翔がいるので行けない。家具や食器などが並ぶエリアに足を向ける。


(カタツムリ女はデカいからどこにいるか丸わかり! 逆に私の方は隠れて移動し易い! いける!)


 立ち並ぶ陳列棚に身を隠しながらカタツムリ女を撹乱する作戦を瞬時に講じる。

 だが、倖のそんな浅はかな作戦は、棚を薙ぎ倒して進むカタツムリ女には効果はなかった。


「やばい! 雄翔! 保たないかも!」

「わかった! 来い!」


 部活で鍛えた声量は、離れていても届く。声のした方に走り出した。勿論カタツムリ女も棚を薙ぎ倒しながら倖を追い掛ける。


「ひいいぃ!」

 

 必死に走って走って、陳列棚を抜けた先はレジコーナー。並ぶ人の数を考えて、広く面積が取られたその場所の床には、茶色い何かが一面に敷かれていた。足の裏には硬い感触と金属の匂いが届く。


「倖! こっちだ!」


 レジの向こうで雄翔が待っていた。

 倖が雄翔の元に辿り着くのと、カタツムリ女が茶色い床を踏みつけたのはほほ同時だった。


 ——ギイャアアアアアッッッッ!!!!


 耳をつんざくようなけたたましい悲鳴がカタツムリ女から迸る。足元からはバチバチと緑色の火花が飛び散り、悪臭を漂わせる。

 

「……何とかなるものだな」 

「え、え、え、何これ凄い、どういうこと?」

「あれはカタツムリ対策用の銅ネットだ。花郷は花畑が多い分、虫対策用品が豊富だから助かった。あいつの強力な溶解粘液が銅と激しく化学反応を起こして、効果的な足止めになったようだ」

「??? よくわかんないけど、虫対策でなんとかなったってことね! 次は!?」


 雄翔が手近にあった二つのカートの内、一つを倖に渡す。

 そこに入っていたのは、大量の塩と殺虫薬品、洗剤——。

 

「これを撒きながら逃げる!」

「了解!」


 二人は大量の武器が載ったカートを押しながら、再び専門店エリアへと走り出した。その道中に、カートの物を撒き散らすことを忘れない。

 カタツムリ女は痛みに悶え苦しみ叫びながらも、倖たちが逃げ出したことに気付いて、火花を散らしながら身体を旋回して追い掛ける。

 だが、その大きな身体が仇となり、撒かれた塩や薬品に嫌でも触れてしまう。


 銅ネットで傷ついた皮膚に、それがダイレクトに突き刺さる。更に己が分泌する溶解液とアルカリ洗剤が混ざり合い、激しい中和反応の熱と泡、そしてガスが発生した。巨体が徐々に小さく、そして歩みが遅くなる。


「倖、アレを吸うなよ! 有毒ガスだ!」

「気をつける!」


 二人が元サービスカウンター部分に差し掛かゆ。雄翔はカートの中から銅ネットのロールと銅テープを取り出し、銅テープを倖に投げ渡す。


「なにこれ!?」

「この二本の柱に張れ! ゴールテープみたいに!」

「はいっ!」


 言われた通りに銅テープを張る。雄翔は銅ネットを勢いよく無造作に並べてカタツムリ女の侵入を拒んだ。


「貼ったな!?」

「うん!」

「専門店エリアに入れ! 防犯シャッターを降ろす!」

「OK!」


 倖がカートを押しながら専門店エリアに移動するのを見て、雄翔は近くの壁に設置されている防犯シャッターの手動閉鎖装着へと近付いた。

 

 だが、その行動を読んでいたのか、それとも苦肉の策なのか、カタツムリ女は文字通り身を削って取った溶解液を雄翔向かって投げ付けた。


「!?」


 的確な長距離攻撃に、雄翔は自身の死を予感した——が、それに待ったをかけたのは勿論、倖だ。

 雄翔の腕を引いて、近くの服屋に転がり込む。

 狙いを外した溶解玉は、手動閉鎖装置に当たった。


「あ……!」


 絶望の悲鳴を上げた倖——だったが、溶解玉によって手動レバーだけではなく、安全装置も破壊したようだ。

 

 結果、ストッパーを無くしたシャッターは轟音と共に落下。

 

 二人が倒れ込んだのを好機と、痛みを堪えて歩み続けたカタツムリ女がその真下にいて——


 まるで、ギロチンに乗せられた囚人のように——


 カタツムリ女の首は、重いシャッターによって地面に叩き付けられた。


 その直後、倖の視界に飛び込んできたのは床に転がるカタツムリ女の生首。


(やったか!?)


 その台詞は、お約束のフラグだった。

 

 驚愕の表情を浮かべていた生首は、倖に見られていたことに気付くとカッ! と目を見開き、怒りの表情に変貌。

 水音が絡む断末魔を響かせながら、己が撒き散らした粘膜を利用して跳ね上がる。牙を剥き出しに、弾丸のこどき速度で倖へと襲いかかる。


「っ!?」


 うつ伏せに倒れた雄翔が伸し掛かり、身動きが取れない。

 視界の全てが、迫り来る巨大な大口に染まる。


「っここでやられてたまるか!!」

 

 辛うじて自由な上半身を捻って、反射的に刀を突き出す。

 

 最後の悪足掻きとして跳躍した生首に、それを避ける術はなく——ただただ、口から刀を根元まで飲み込むことになる。

 

 刀身を生首が滑るように這っていったかと思うと、鍔へと激突し、止まった。

 

 まるで両手で泥を浚った時に似たずしりと腕に来る重み——それは、事切れた生首が、灰のように霧散するに、消えていく。

 防犯シャッターに挟まれていた残された身体も、同じように音を立てて崩れていった。

 

 それは、勝利を確信するには十分な光景だった。 



お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

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