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【フリゲ風】郷守奇譚  作者: 夢編 此方
第壱幕

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大将鬼

6/28 評価してくださった方!有難うございますヽ(=´▽`=)ノ!!!!

Xでいいねとリポストしてくださった方も有難うございます!励みになります!


「入るな!!!!」

「!?」


 再び響いた声と共に、腕を思い切り掴まれて大きく仰け反る。

 が、足は既に道場の床を踏んでいた。

 途端に闇がざああっと逃げるように消えていく。それを見た倖は某有名アニメ映画でも屋根裏にいた黒い生物が引いていく様子を思い出した。


 見慣れた道場の様子。四方の壁にはそれ三か所ずつ出入り口があるが、全て閉ざされている。いつもは人の気配があるのに、今は誰もいないがらんとした空間が広がっていた。


 一番奥の上座には床の間のようなものがあり、武道の何たるかが古い書体で書かれた教訓が額縁に飾られ、その下には頬当て付きの大将鎧が置物として飾られている。一瞬びくっとしたが、よく考えたらその鎧は異常事態が起こる前から鎮座していたし、動く気配はない。


「……遅かった……」


 背後からの嘆息に顔を上げる。

 いつの間にか、軍服の男が背後に立っていた。

 

「ぐ、軍服男!」

「……なんだ、その呼び方は。人を指差すな」


 ビシッ! と差した指を男に払いのけられた。

 

「え、だって名前知らないし。この呼び方が嫌なら名前を教えてよ」

「……フジだ」


 軍服男ことフジが、苦虫を嚙み潰したように顔が顰む。ここに来るまで化け物供と戦って消耗したのだろうか草臥れた様子だが、眩いばかりの見目の良さは健在だ。

 

「フジさんね。私は……って、フルネームで知ってたか」

「そんなことより、何故ここに来た? ここがなかわかってきたのか?」

「え? いや、知らないけど……。雄翔が……あ!」


 名前を出したことで、背負う幼馴染の重さを思い出し、縋り付く。

 

「ねえ、雄翔が急に倒れちゃったんだけど! なんで!? お願い、助けて!!」

「落ち着け。雄翔を渡せ」


 フジは倖の背中から雄翔を預かり、壁の側に横たえさせる。そして腕に着けていた小さな数珠を外し、雄翔の腕に装着させる。

 すると、苦悶の表情を浮かべていた雄翔の顔がすっ、と和らいだ。まるで寝ているような安らかさに変化する。


「え、凄……。なんで?」

「こいつはここにいる大将鬼の霊気に当てられただけだ。全く、寺の息子の癖に修行が足りん」

「雄翔のこと、知ってるの?」

「……三代寺の子供なら有名だろう」

「あ〜……」


 僅かな間が合ったが、その言葉に納得して一人納得。

 だがすくに、フジの言葉に引っかかった。

  

「ってか、『大将鬼の霊気』ってなに? 大将って、あの、一番強いとか偉い大将?」

「そうだ。……わかっててきた訳じゃないのか?」


 驚いた顔で見上げられ、倖はブンブンと手と首を降る。

 

「わかんないって! ただ、外に通じる隠し通路が武道館の裏にあるって噂があったから来て、化け物たちに追い掛けられて逃げ込んだだけだから!」

「……お前のことだから、怪異見たさに来たのかと……なんと不運な……」


 その口ぶりは、倖がホラークラッシャーとして心霊スポット突撃を繰り返していることを知っているようだった。

 とはいえ、名前を知られているのだから趣味を知られていてもおかしくはない。

 

「ね、ねえ! 今度はちゃんと教えてよ! フジさんが何者とか、この状況とか、ちゃんとさぁ!」


 何故学校がおかしくなったのか。

 何故化け物たちが現れたのか。

 フジは何者なのか。

 

 図書室で問い詰めた時に眠らされたことを思い返し、警戒しながら今一度尋ねる。


 フジは何も言わない。

 一度、倖を真っ直ぐ見つめる。

 幾許かの逡巡の後、ゆっくりと口を開いたが、すぐにまた真一文字に閉ざされた。

 

「時間切れだ」

「へ?」

「いつまでそうしているつもりだ?」


 フジの視線は倖を通り越して奥を見る。

 振り返る倖だが、そこには先程と変わらない景色が広がっているだけ。

 呼吸を忘れるような静けさが広がっている——かに思えた。


 ――かしゃん。


 固い金属音が、僅かに聞こえた。動いたものは確認できない。周囲を見渡していくと、一点だけ、揺れ動くものに気付いた。


 上座に鎮座する、大将鎧だ。


 かしゃん

 かしゃん

 かしゃん、かしゃ

 かしゃかしゃ

 かしゃんかしゃかかしゃかしゃかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかか


 がしゃん! 一際大きな音を立て、大将鎧の右腕が上がり、左腕が上がり、まるで持ち上げられたマリオネットのように鎧が台から宙に浮く。

 

 ぼ、ぼ、ぼと鎧の周辺に赤い火の玉が幾つも現れ、曼陀羅のように背後で回転していたかと思うと、火の玉は槍や刀、先のとがった竹竿、鎌などに変化。それが、まるで磔の刑が執行されたかのように大将鎧を背中から貫いた。

 

 その衝撃で、垂れ下がっていた顔が勢いよく上がる。

 

 頬当てを付けていただけの筈だった大将鎧の両目は赤く爛々と輝き、口には巨大な牙が生えていた。

 

 浮いていた体が糸が切られたように落ちるが、大将鎧が崩れ落ちることは無く、重量のある音と地響きを立てて畳の上に仁王立つ。

 長柄の武器で体を貫かれた姿はハリネズミのようだが、そんな可愛らしいものではない。


 鬼。その姿はまさに、鎧を着た巨躯の鬼。牙の合間から熱気のような白い呼吸の流れが排出される。

 

 かひ、と倖の呼吸が詰まる。

 

 見た目の恐ろしさや滲み出る殺気に気圧される。外にいた骸骨武者など比較にならない。向けられる殺気に頭から爪先まで齧り付かれたような錯覚に陥り、死への恐怖から無意識にがたがたと大きく震え出した。


 そんな倖を一瞥し、庇うようにフジが前に出る。


「貴様が落ち武者集団の親玉か。俺が相手になろう」


 大将鬼と向かい合い、拳を構える。

 しかし、相手は構えない。というより、大将鬼はフジを見ていない。


 ——鬼の視線は、倖に向けられていた。

 

 フジの後ろにいるというのに、全身がひりひりと焼けつくような視線を感じていた。それは一つだけではなく、何人もの人から囲まれ視線を浴びせられているような、居心地の悪いものだ。恐る恐る顔を出せば、赤い瞳から発せられる強烈な視線を浴びせられる。

 

 ひっ! と悲鳴を上げて再度フジの後ろに隠れた。


(いやいやいやいや、無理無理無理無理!)

 

 倖は、大将鬼の視線の意味を察してしまった。

 

 だが、理解したくない。

 

 大将鬼がフジとではなく、自分と戦いたがっているなんて、絶対に。


「……こいつは戦えん。俺が相手になってやると言っているんだ。それで納得しろ」


 その言葉にうんうんうんと何度も首を縦に振る。

 大将鬼の気迫に倖の戦闘意思は削がれているし、フジのいる現状、どう見ても戦い慣れしている彼に任せた方がいいに決まっている。


 フジが更に前に出たが、それでも大将鬼は構えない。苛立ち、フジの顔に怒りが浮かんだ。


「貴様に拒否権はない。貴様の望み通り、戦ってやると言っている。おとなしく、俺と――」


 その時だった。

 

 床から数体の鎧武者が現れ、フジの四肢、顔、胴体に絡みつき、体を拘束。そのままの態勢で滑るようなに素早い動きで手近な扉に近付いていくと、閉ざされていた扉が開く。そこには入る前同様の闇が広がっており、フジは武者たちと共に闇へと放り出された。


「フジさああん!? いっだ!」 


 慌てて追いかけたが、扉を出ようとしたところで額に衝撃が走る。

 見えない壁が張られたように阻まれ、手を伸ばすことすらできない。扉が閉まり始めた。

 

「ふ、フジさん! と、扉が!!」

「ぐっ……! すぐに戻る!! なんとか生き延びろ!!」


 拘束から逃れようともがきながら叫ぶ声が閉まり行く扉の隙間から響き、消えていく。


 扉が閉まった。取っ手を掴んで開けようとするが、音も立たず一ミリも動かない。蹴っても叩いても同じだ。

 

 これは人知を超えたものの力が発動しているのだと、開けようとするのは無駄な足掻きだとすぐに悟る。


「死ぬな、って、言われても……」


 青い顔を引くつかせながらゆっくりと振り返る。

 

 道場の真ん中に仁王立ちするのは、縦も横も倖の倍近くある、正真正銘の侍。


 生き残れるビジョンなど、全く見えなかった。

お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

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