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【フリゲ風】郷守奇譚  作者: 夢編 此方
第壱幕

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七不思議


「これからどうする?」


 尋ねると、雄翔が腕を組んで考えるような仕草を取る。

 

「……妹たちの安否も確認したいところだが、外に出るのは当然危険。だが、保健室(ここ)もいつまで安全かわからない」

「そうだよね……」


 倖も双子たちが心配な気持ちはある。が、消えた可能性も消えた原因も分からない以上、探すというのは非効率に思える。

 それならば、化け物たちに対処できそうな神社仏閣関係者を呼びに行った方が良い、と倖は考えた。


「ってか、雄翔、寺の息子でしょ。念仏唱えて成仏とかさせられないの?」

「できたらとっくにしている。だが、数秒間の足止めは可能だった」

「数秒かぁ……。それなら裏門はどうかな? あればチャリを使って爆走すれば……」


 裏門というのは車の出入りがある職員と来客用の門のことだ。正門よりは断然校舎に近い。倖の頭の中では、運動部の二人が全速力で行けば骸骨たちを振り切れるのではないか、という算段を付けていた。

 だが、雄翔が首を横に振る。


「武道館から校舎に来る時に見たが、正門同様、校舎裏にも化け物共が蔓延っていた。しかも長槍を持った化け物が二体、門の前に張り付いていたのも確認している」

「はい? つまりは門番? あいつらそんな知能あんの?」

「知らん。あと、自転車だって防犯の為に鍵が掛かっているだろう。掛かっていないのがあったとしても、探している間に奴らに狙われる可能性もある。どちらにしろ、抜けるのは至難の技だ」

「それじゃあどうにもできないじゃん。……で、雄翔は何を隠してるの?」


 雄翔の眉が僅かに跳ねたのを、倖は見逃さなかった。組まれた腕を強張らせ、ゆっくりと、鋭い視線が向けてくる。


「……何の話だ」

「雄翔ってさ、何かこう、隠し事とか言い難いことがあると腕を組むクセあるの気づいてる?」

「………………」


 指摘すると、ゆっくと腕を解いていく雄翔。やってしまったと言わんばかりの表情で天井を仰ぐ。

 

「……隠している訳じゃない。確証が持てないだけだ」

「細かい言い回しは今はいいから。この窮地を脱するような解決策があるでしょ?」

「あるにはあるが……話半分で聞けよ?」

「わかったって! 面倒くさいなぁ、もう」

「……お前も知ってるだろう。花郷高校の七不思議の一つ、隠された防空壕」

「……あ!」


 言われて思い出す。

 何処の学校にも存在している七不思議。勿論、ここ花郷高校にも、まことしやかに噂されている。

 その一つが、『隠された防空壕』——戦争の最中、防空壕に逃げ込んだはいいものの出入り口を完璧に塞ぎ過ぎた為に酸素が足らなくなり、亡くなった人々がいる。その人々が助けを求める声や呻き声が、その防空壕がある辺りから聞こえてくる——という話だ。

 花郷町も戦火の火種は飛んできた歴史がある。この高校も、かつて尋常小学校があった場所だ。防空壕の一つや二つ、あってもおかしくはない。

 

「で、でも、私も探したけど、全然それっぽいもの無かったよ?」

「お前、もう探しに行ってたのかよ……」


 勿論、ホラークラッシャー倖も既に捜索済みである。だが、深夜に学校に忍び込んでいる所を見回りの職員に見つかって大目玉を食らって以降は探索出来ず仕舞いとなっていた。

 

「……これは先輩の友人たちの体験談らしいんだが。忘れ物を取りに引き返した友人が、先にモールに着いていたことがあったんだと。

 曰く、武道館裏に防空壕らしき作りの隠し通路があって、そこを通ってきたと言い張っていたらしい」


 高校の敷地には、校舎の他に体育館、部活棟、そして武道館が設置されている。主に柔道、剣道、弓道などの武術を学ぶ場所となっているが、近隣のスポーツクラブの活動にも使われていた。

 確かにモールは武道館側に建てられてはいるが、扉一つない塀に阻まれている。どうしても正門か裏門に回る必要があった。

 もしもそんな道が本当にあるのなら、モールまでの道程がかなり短縮されるのだが……。

 

「——だが、後日その友人たちが一緒に探したが、そんなものは何処にも無かったんだと」

「え〜! 待って、実体験系怖い話じゃん! 初めて聞いたんだけど! なんで教えてくれなかったの?!」

「本当に防空壕があったら不味いだろ。何があるかわからないし、年数的にも入っても危険なだけだ」


 行動派の倖とは対照的に、雄翔はあくまで話を見聞きするのが好きというタイプだ。寺の息子のくせに、妙に現実的な男なのである。

 

「いや、まあ、それはそうだけど〜先輩の先輩は生きてたでしょ〜」

「先輩の先輩だぞ? 友達の友達と同じレベルだぞ? 信憑性がない」 

「でも、今はそれに賭けるしかないから言い出したんでしょ?」 

「それは、そうなんだが……」


 珍しく歯切れの悪い雄翔。情報源が曖昧な以上、不安が過るのは仕方がない。

 だが、倖の瞳に躊躇の色は一切なく、雄翔の不安を払うように大きな肩を叩いた。

 

「雄翔が武道館から校舎に来れたんだから、逆だって行ける。それに、雄翔のお経と、この刀があれば何とかなるって、多分!

 そんな訳で行くぞ、雄翔! 時間が勿体ない!」


 言い切ると同時に、倖は雄翔の腕をぐいと引っ張った。

 その真っ直ぐな勢いに圧された雄翔は、諦めたように溜め息を吐く。

  

「……確かに、このまま日が暮れでもしたら、状況が悪化しそうだしな……わかった。だが、先頭は俺が行く。化け物ともなるべく鉢合わせしないよう、隠れて進むのが前提だ。いいな?」

「勿論! 私だって無駄な争いは避けたいからね」

「よし。……俺が前にいるからといって、油断するなよ、倖」

「雄翔も、私が後ろにいるからって油断しないでよね」


 頼もしい相棒の言葉に、お互い小さく笑い合い、それからすぐに表情を引き締めた。

 これより先は、一瞬の油断が生死を分ける戦場だ。

 互いに小さく頷き合うと雄翔が先頭に立ち、倖がその背中を追うようにして、保健室を出た。

 

 校舎から武道館に向かうには、一度外に出る必要がある。

 二人は警戒しながら昇降口に向かいシューズに履き替え、覚悟を決めて一歩外へと踏み出した。


 ——世界は、窓から見下ろした以上に酷い光景だった。

 

 あちこちに見るも無残な死体が転がり、足元や壁だけでなく、木の上にまで赤い飛沫や何塊が付着していた。

 

 鉄さび臭いそれらを努めて意識しないように前に進む。

 そうでもしなければ、恐怖と混乱で頭がおかしくなって逃げ出してしまいそうだからだ。


(……あれ?)

 

 武道館が見えてきた頃、ふと倖は気付いた。


(なんか、思ったよりも化け物たちと遭わないで来たな……? それに……)

 

 何度か骸骨武者の姿を捉え、隠れたりはしたが、遭遇頻度は倖が思っていたよりも少ない。

 しかも、道々には武者たちの骸——と、呼んでいいのかは不明だが、バラバラに破壊され、無造作に捨て置かれていた。

 まるでハンマーで壊された瀬戸物のようなそれらを見て、倖が軍服の拳を思い出さない訳がない。

 

(……何者なんだろうか、あの人……霊能者とか祓い屋みたいなものなのかな?)


 子供の頃に、拳で霊と戦う漫画を読んだことを思い出す。

 

(わかんないけど……兎に角、ありがとう、軍服の人!)


 倖が心の中で感謝を捧げる。

 そうして倖たちは、軍服男のお陰もあって、無事武道館の前にまで到着するのであった。

 

お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

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