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友達と魔法

ちょっと長いです

結局、ナタリは次の日、一日中姿を現さなかった。

外出禁止を律儀に守っている俺は、ベッドの上でゴロゴロしながら、部屋にあった小難しい本を片っ端から読み漁っていた。なぜかスラスラ読めるこの世界の文字のおかげで、ルミナスの英雄譚や魔法の詠唱の本は大体頭に入った。

本によると詠唱をすれば大規模な魔法が使えるらしい。だが、規模がデカくなる分、詠唱はとてつもなく長くなってくる。これが基礎らしい。

英語が好きだった俺は難なく覚えられそうだ。

そう思い本を閉じた。

これでこの部屋の本棚にあった本は読み漁り終えた。もちろん、全てが面白いわけではなかったが。

本命は次だ。

この本達『ルミナス歴史書の本』と『魔法発動の基礎』

こいつらは朝ゲットした。

俺は昨日早く寝たせいか朝早くに目が覚めた。

そしてやることが無く、暇になることを予想して一時的に脱獄をしてみた。

単なる探究心だ。

きっと許してくれるだろうという気持ちで。

部屋を出て廊下を進み階段を下りる。途中、何人かの生徒に出会ったがみんな急足だったので不思議に思う時間すら無かっただろう。

きっとそうだ。制服を着てなくなってバレることはない。

そうして階段を下りた後、目の前に玄関、折り返した階段の裏側には簡易的な食堂と図書室的な場所があった。

俺は食堂に無造作に置かれてあったフルーツらしき食べ物と本棚にある気になった本を数冊物色させていただいた。

なんせ人が少なかったから。ほぼ無人だったから....いたにはいたんだが制服姿で食堂で寝落ちしていた。

0カウントだ。

「後で返却するんで許してください」

そう呟き仕事を終え、部屋に戻った。

そして二度寝した。

とまぁこんな感じだ。

先に『魔法発動の基礎』から読むとする。

まず基礎の基礎、魔力の込め方。

魔力は着火剤でもあり、燃料でもある。

魔力を使えないと何も始まらない。

本のページをめくりながら、俺はふむふむと顎をさすった。

ざっくりまとめると、魔法ってのは3つのステップで発動するらしい。

まず、俺たちの体内にある生命エネルギーを**『魔素まそ」と呼ぶ。これは車で言えば「エンジンの点火スイッチ」だ。

対して、空気中に漂っている自然界のパワーを『元素げんそ」と呼ぶ。これが「ガソリン(主燃料)」にあたる。

そして、俺の体内にあるという『元素回路パイプライン』を通して、自分の魔素スイッチと空気中の元素ガソリンを混ぜ合わせ、爆発・精錬させることで、初めて実体化した**『魔力』**が生まれる......ということらしい。

「なるほどな。前世のガスコンロと同じだ」


カチッと火花(魔素)を散らして、ガス(元素)に引火させて、炎(魔力)を作る。

魔法使いが安全に魔法を連発できるのは、空気中の「元素」を燃料にしているからだ。もしこのパイプライン(回路)を持たない一般人が無理やり魔法を使おうとしたら、ガスがないから「自分の命(魔素)」そのものを直接燃やすしかなくなり、一瞬で干涸びて即死するらしい。

いや、こっわ。

「昨日の測定だと、俺の属性は水、だったな......。ちょっと試してみるか」

本には『まずは体内の魔素を回路へと優しく流す

イメージをすること』と書かれている。

昨日はナタリさんの風に触れてノリでやっちゃったから、今度は自分の意志で、慎重に。

目を閉じ、胸の奥にある温かい何か (魔素)を意識する。それを、背筋のあたりにある見えないパイプ(回路)へと、そっと押し流してみる。

ーーカチツ。


脳内でスイッチが切り替わるような音がした。

次の瞬間、部屋の中の空気が、まるで磁石に吸い寄せられるように俺の身体へと流れ込んでくる感覚があった。これが空気中の「元素」か......!

体内で二つのエネルギーが混ざり合い、熱を帯びる。

「.....はあっ!」

目を開け、手のひらを上に向ける。

そこには、親指の先ほどの小さな『水の球」が、プクプクと空気とまざりながら、ふわりと浮かんでいた。

「うおっ、出た......!」

湧き上がる感動。しかし次の瞬間、

ーーピキッ。

手のひらから、細い『白い光の糸』が1本、いや、2本、生き物のように這い出てきて、空気中で不規則に揺れた。昨日の黒い石の時と同じ、俺の異常な星素回路の証明だ。


「しまっーー」

慌てて意識を切り離すと、水球も光の糸も霧のように消え去った。

「あぁ....」

(心臓に悪いな......。やっぱり俺の身体、何かおかしい。早くナタリさんに説明してもらわないと......)

ドキドキと早く打つ鼓動をなだめるように、深くため息をつく。

読書と慣れない魔力操作で頭を使ったせいか、急に猛烈な空腹感が襲ってきた。

窓の外を見ると、いつの間にか綺麗なオレンジ色の夕焼けが部屋を照らしている。もう夕方の6時前だ。

.....師匠、マジで今日来ないじゃん。腹減ったなあ。温泉も行きたいし、

(ちょっとくらい部屋出てもバレないんじゃ.....)

そう思った、まさにその時だった。

トントン。

少し遠慮がちな、小気味いいリズムで、部屋のドアがノックされた。


師匠か、あるいはヴァルダーさんか。

俺は2本目の糸の秘密がバレて怒られるんじゃないかと身構えながら、ゆっくりとドアを開けた。

が、そこに立っていたのは、むさくるしい大人たちではなく制服を着た男だった。

「え?」

思わず声に出てしまった。制服ってことは学校の生徒だろう。黒髪高身長だ。

「あ、あの。俺、隣の部屋に住んでいる魔法科魔法専攻のルーク・グレイスって言います.....こっちのアホも同じ魔法専攻のソラ・エルウィンです」

・・・・・。

「お前今アホって言っただろ!」

(2人いたんだ。)

そう言いながらルークと名乗る生徒の後ろから出てきたのは恐らくソラ・エルウィンだろう。

「言ってない」

「絶対言っただろ!」

仲が良さそうだ。

「あの、何用...で?」

とりあえずナタリの関係者ではなさそうだ。

「あぁ、ごめんなさい。えっと俺ら最近....」

ルークの話を遮るようにソラ・エルウィンが握手を求めてきた。

「俺の名前はソラだ。よろしくな!」

ソラ。金髪でいかにも陽キャって感じでルークは黒髪のクール系かな。 

「よ、よろしく。俺はアルティです。皆んなからはアルって言われてます。ヨロシク」

・・・・・・・。

「んじゃ友達って事で今から温泉行かね?」

・・・・・・・。

展開が早すぎる。

「チッ.....お前はさっきから俺が話してるのに」

「お前が遅いから俺が話してやってんだろうが!」

なんだこいつら、また始まった。

「そもそもルーク()()()が友達作りたいって言い始めたんだろうが!感謝しろよな俺に」

「その呼び方やめろ!アホ!....あぁーもうプッチンきた」

両者の手が互いの顔を押し合っている。

仲がとても良さそうだ。

だが、本当になんだろう。すぐ喧嘩して、言い合って....でもめちゃくちゃ楽しそうだな。

「.....行きます、温泉。てか行かせてください」

・・・・・。

2人が止まった。

「「マジ?」」

「マジ」

(温泉くらい外出にならないよな、多分。きっと)


こうして俺は、初対面の隣人コンビと共に温泉へと向かうことになった.....のだが、そこで一つ、重大な問題に気がついた。

「あの、待って。俺、着替えの服がない。まだ服

これしかなくて.......」

自分のヨレヨレの服を指差すと、ソラが「あー、確かにアルの部屋、クローゼット空っぽだったな」と納得したように頷いた。覗いてたのかよ。

いつのまに。

「なら、俺の予備を貸そう。少し丈が長いかもしれないが、部屋着の代わりにはなる」

とルークがそう言って、自分の部屋から学校指定の動きやすそうな青い衣類を貸してくれた。高身長なルークの服は案の定アルには少し大きかったが、逆にそれが「あぁ、異世界で新しい生活が始まったんだな」という実感を湧かせてくれた。

準備を整え、三人で一年寮の反対側ににあるという温泉へ向かう。

ほんの数分歩いた先にあったのは、白亜の建物が並ぶルミナス特有、いや異世界特有の洋風な佇まいの温泉だった。


脱衣所で服を脱ぎ捨て、引き戸を開けるとーーそこは、地上の楽園だった。

「うおオオ.....最高かよ......」

湯気の中に広がる巨大な岩風呂。硫黄の香りが心地よく鼻を抜ける。

ザバーン!と豪快に湯を溢れさせて湯船に浸かると、この二日間のチヨ婆のトラウマや、魔力操作の疲れが嘘のように溶けていくのが分かった。

「生き返るぅ......なぁアル、お前どこの出身なんだ?見慣れない服着てたし、ヴァルダーのボスが直々に連れてきたって噂、もう1年寮で広まってんぞ」

湯船に首まで浸かったソラが、ニカッと笑いながら聞いてくる。

ルークも少し離れた岩に背を預けながら、こちらに視線を向けた。

「俺?俺は......その、ここから遠く離れた、ちょっと変わった田舎の出身、かな。記憶も少し曖昧で」


さすがに『地球の日本から来ました』とは言えないので、テンプレ通りの言い訳で濁す。

最適な回答だ。

「ふーん、まぁ訳ありってことか。ちなみに俺は東の方の商業都市出身。んで、このルークちゃまは、北の由緒正しい魔術名門グレイス家のお坊ちゃまだ」

「うぉい!....やんのか?おぉ、やんのか?沈めるぞコラ」

ルークが冷たい目を向けるが、ソラはケタケタ笑っている。

流石に他の人もいるので「まぁまぁ」と宥める。


「でもさ、魔法科の高専に入るくらいだから、2人はやっぱり魔法がめちゃくちゃ強いんだろ?魔力量がバケモノみたいに多いとか」

昼間に読んだ本や、自分の『2本の糸」のことが気になって、俺は素朴な疑問をぶつけてみた。

すると、ルークが少し意外そうな顔をして口を開いた。

「.....アル、お前、基礎中の基礎を知らないのか?

魔法使いの強さは、体内の魔力量の多さじゃ決まらないぞ」

「え?そうなの?」


「ああ。どれだけデカいタンク(魔量)を持っていても、蛇口が狭けりゃ意味がないだろ。大事なのは**『循環効率」**だ。体内の魔素をどれだけ速く、無駄なく元素回路へ流して魔力に変換できるか。その効率が極限まで高い奴が、本物の『強者」になれる」

ルークの言葉が、昼間に読んだ『魔法発動の基礎」の内容とピタッと繋がった。

回路の太さと長さ、そしてそれを循環させるスピード。前世の排気量の多いスポーツカーみたいなものか。

(前世いた頃のアニメや漫画とは全くの別概念....)

湯気の中で、自分の手のひらを見つめる。

まだ見ぬ自分のポテンシャルの片鱗に、少しだけ胸が熱くなった。

「よし、そろそろ上がるか。アル、のぼせるなよ」


ルークに声をかけられ、俺たちは温泉を後にした。

友達と他愛もない話をしながら入る風呂は、前世の孤独だった高校生活にはない、最高の時間だった。

服を貸してくれたルークにお礼を言い、ソラと「また明日な」と拳を合わせて別れる。

最高の友達ができた。温泉でリフレッシュもした。

充実感に包まれながら、俺は自分の部屋のドアを開けた。

「あー、楽しかった......」

一だが、その言葉は、室内の光景を見た瞬間に喉の奥へと引っ込んだ。

「おかえり、アル。いい湯だったか?」ランタンの仄暗い光の中。

部屋に唯一ある椅子に深く腰掛け、足を組んで俺を待っていたのは。


昼間、一度も姿を現さなかったはずの、俺の師匠ーナタリだった。

その目は一切笑っておらず、手には昨日俺の星素回路を測った『真っ黒い石』が握られている。

(待って、外出禁止を破ったから怒ってるの?それとも、俺の回路の秘密がバレて......)

今度は俺の方を睨み始めた。

部屋の温度が急激に下がったかのような錯覚。

温泉で温まったはずの身体が、一瞬で凍りつく。

ナタリさんはゆっくりと立ち上がり、俺の目をじっと見据えた。


ーやばい。

これ絶対怒られるやつだ。

そう思い、俺はギュッと目を閉じて拳を強く握りしめた。

これから起こることを悟ったのだ。

来る。外出禁止を破ったことへの説教か、あるいは2本の回路についての重大でシリアスな宣告か。

どんな言葉が飛んできても耐えられるよう、全身の筋肉を硬直させて身構える。

数秒の沈黙。

次の瞬間、耳に飛び込んできたのは、予想していた冷徹な声ではなかった。

「....ぶっ、ははははは!あーははははは!!」

「え?」

恐る恐る目を開けると、そこには椅子からずり落ちそうになりながら、お腹を抱えて大爆笑しているナタリの姿があった。


「あははは!傑作、大傑作だよアル!ドアを開けた瞬間の顔、それはまるで....まるで.....そう、死刑告を待つ罪人みたいだったぞ!ちょっと驚かしてやろうと思って待ってた甲斐があったなあ!」

「......は?」

呆然とする俺の前で、ナタリは「ひぃー、お腹痛い」と涙を拭いながら立ち上がった。

手に持っていた真っ黒い石 (オルブ・ティア)

を、まるで手遊びのおもちゃみたいにポンポンと軽く放り投げている。

「じょ、冗談.....ですか?」

「ったり前じゃん。俺がそんなに怒るわけないでしょ。外出禁止だって、急に倒れたりしないか心配したヴァルダーが念のために言っただけだし.......まぁ、回路の2本目の糸については、ちょっと偉い人たちが議論とかして上で大騒ぎしてるから、説明は明日になっちゃうんだけどね」


ナタリさんはそう言うと、俺がルークから借りた少し大きめのジャージに目を留めた。

「おっ、誰かのは知らんがわざわざ服まで借りちゃって。いい湯だったろ。俺も結構行ってたなぁ」

「いい湯でしたよ......!っていうか、マジで心臓に悪いから!!マジ死ぬかと思ったんっすから!!」

緊張の糸が一気に切れた俺は、一気に安堵した。

ナタリは相変わらずの締まりのない笑顔を浮かべている。

この師匠、やっぱりどこか抜けてるし、めちゃくちゃタチが悪い。しかも顔を顰めるとかなり怖い。

「まぁまぁ、お近づきの印にってことで。じゃあ、俺は戻るから。明日の朝、また迎えに来るからな」


「だからなんで毎回狭い窓から出るんだよ!」

...

俺のツッコミを背中で受け流しながら、ナタリはまたしても然のように窓から夜風へと消えていった。本当にあの人の出口は窓しかないらしい。

ドタバタとした嵐が去り、静まり返った部屋で、俺はベッドに大の字になって倒れ込んだ。

(今度からドアと窓の鍵掛けよ)

星素回路の謎は明日に持ち越し。

でも、不器用だけど服を貸してくれたルークと、強引だけど明るいソラ。この世界で初めての「友達」の顔を思い浮かべると、不思議と不安は消えていた。

「.....明日からも頑張るか」

部屋のランタンの火を吹き消し、俺は新しいジャージの心地よい温もりに包まれながら、今度こそ静かな眠りへと落ちていった。

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