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今後

ノックの後、一拍置いて中から「おう、入れ」と地鳴りのような太い声が響いた。

扉を開けると、そこは昨日と変わらない校長室のような明るい部屋。

そして机の向こうには、相変わらず白シャツのボタン君を極限までいじめているボディービルダー体型のボス――ヴァルダーが腕を組んで座っていた。その横には、冷徹な事務処理マシーンのような佇まいのセドリックさんもいる。

そして秘書のフィリアと呼ばれていた人物。

そしてナタリをビンタしていた金髪の人だ。

いずれも美形。

(日本じゃモデル並みだぞ)

この世界は全員美形なのかもしれない。


「失礼します……!」


俺は直立不動で、26時間大遅刻した者の模範的な謝罪の姿勢を取った。

ヴァルダーさんは俺をギロリと睨みつけ……次の瞬間、ガハハハ!と部屋が震えるような大声で笑い出した。


「おう、アルティ! チヨのババアの洗礼からよく生還したな! 初日にあいつに捕まって丸一日以上寝込むなんざ、ある意味でお前は大物だ!」


「は、はは……面目ないです」


どうやらリアナが言っていた通り、チヨ婆被害による遅刻は「不可抗力」として処理されているらしい。ありがてぇ。


「まぁいい、座れ。お前が寝込んでいる間に、今後の予定はあらかた決まったからな」


ヴァルダーさんは机の上の書類をポンと叩いた。


「まず、お前の住処すみかだが、今日から**『魔法科高専』の学生寮**に入ってもらう。これからお前はそこで魔法を学び、生活してもらうことになる」


「高専、ですか……」


前世の日本の学校を思い出して、少し懐かしいような、それでいて新しい生活への緊張感が胃のあたりを刺激する。初期装備の俺がいきなり学校。ラノベの王道展開っぽくてちょっとワクワクしてきたぞ。


「だがな、アルティ。いくらナタリが拾ってきた回路の持ち主だからって、身元の怪しい奴をいきなり授業に出すわけにゃいかねぇ。明日から数日間、高専に入校するための**『ちょっとした基礎訓練』と、お前の回路の『精密測定』**をやってもらう」



「測定、ですか?」


「そうだ。お前がどれだけの魔法を扱えるのか、そのポテンシャルを測る。おい、ナタリ! 入ってこい!」


ヴァルダーさんが声を張り上げると、部屋の隅にあるパーテーションの裏から、げっそりとした顔のナタリが這い出てきた。昨日までの格好良さはどこへやら、魂が半分口から出かけている。


(いたんだ)


ナタリは出てきた瞬間金髪の人と目が合ったのかビクついた。

「げっ...エレナ...さん」


「何よ、」


「いや、なんでも」

あの人エレナって言うのか。名前まで強そうだ。


「……うっす。アル、お前がチヨ婆ちゃんに襲われてる隙に、俺はリアナちゃんにベッドの下の秘密コレクションを全部没収された……。もう何も失うものはないから、お前の訓練は地獄のように厳しくしてやるからな……」


理不尽な八つ当たり宣言をされた。この師匠、やっぱりダメ男だ。 


ナタリの愚痴を完全にスルーして、ヴァルダーさんの表情がフッと真面目なものに変わった。

部屋の空気が一気に重くなる。セドリックさんもメガネの奥の目を鋭く光らせた。


「ここからは真面目な話だ、アルティ。よく聞け」


「はい」


「お前がこれから暮らすこの『聖教都市ルミナス』は、多種族が共生する平和な国に見えるだろう。だが、光が強ければ影も濃い。この国にも、当然のように魔法を悪用する悪人がいる」


ヴァルダーさんは地図を指差した。

「特に注意しなきゃならねぇのが、国を裏切って脱走した無法者――通称**『国抜け』の魔法使いども**だ。あいつらは法の手が届かない外の世界で徒党を組み、ルミナスの技術や、お前のような『珍しい出処の魔法使い』を狙って誘拐や略奪を繰り返している」


「俺を、誘拐……」


「そうだ。お前の『元素回路』がどんなものか、まだ俺たちも全貌を把握してねぇ。だが、もし敵の手に渡れば厄介なことになる。この国の結界の中は安全だが、一歩外に出ればそこは戦場だと思え。……いいな?」


ゴリゴリのマッチョなボスの口から語られる、この世界のリアルな危険。


転生して浮かれていた俺の背中に、冷たい汗が伝わった。チヨ婆とはまた違う、本当の「命の危機」がこの世界には転がっているのだ。


「まぁ、ビビるこたぁねぇ! そのためにナタリやセドリック、俺たちがいる。まずは明日の測定に向けて、今日はしっかり寮で泥のように眠れ! ナタリ、こいつを寮まで連れてってやれ」


「へいへい……。行くぞ、アル。傷心の俺に優しく荷物でも持ってくれ……」


「は...はい」

そう言い荷物を渡してきた。

高校の時使ってたリュックくらいの大きさだが、かなり重たい。

(重たっ....何が入ってんだ?)

ちらっと中を覗いてみた。

そこにはクッションと布と....石。

(え、石?)

拳くらいの大きさの石が数個入ってた。

(これが原因で重たいんだな)

「これって...必要なんですか?」

そう言いその中の一つを見せた。


「あぁ、その石は.......属性測るマンだ」



「オルブ・ティアです。特殊な石に魔力を込めることができ、貯蓄の限界を超えた分の魔力で各属性特有の光を放ちます。その仕組みを利用して属性を測定できます。」


ナタリの言葉に被せるようにフィリアが喋った。


「そう言うことだ。さっ行くぞ、ついて来い」


「え、窓からでるんですか?」


「こっちの方が早い」


「では、ありがとうございました!」

とその場にいた皆んなに挨拶をし、窓に足をかけた。

そして、窓の縁を飛び越えナタリについていった。

勿論ナタリの風魔法も使って。

俺の異世界での初魔法特訓。

楽しみだ。早く訓練したい。

それにしても、改めて見ると意外と広い街並だ。


空から見下ろしたルミナスは、巨大な白亜の城を中心に、数え切れないほどの家屋や緑の森が丸ごと結界に包まれていた。ナタリさん曰く、端から端まで馬車で走っても半日はかかる広さらしい。前世の感覚で言えば、ちょっとしたミニ国家がドームの中にすっぽり収まっているようなスケール感だ。

しばらく移動し、見えてきたのはまたも巨大な建物。隣接する湖。

幻想的な場所だ。さらに制服を着た人々がちらほら見えてきた。

ここで新たな生活が待っているとワクワクする。

反面、不安もあるが....なんとかなるだろうスタンスでいくことにする。

もちろん可愛い人もいるにきまっているだろう。

(待ってろよ、魔法科高専。絶対に魔法使いになってやる)

クソッ中二心がそそられるぜ。

こうして俺は新たな一歩を踏み込んだ。

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