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新たな友達

教員室の重い扉が閉まった瞬間、俺たちは一斉にその場に崩れ落ちた。

「……あ、足が、マジで感覚ねぇ……。あのババア、絶対『平等』って言葉の意味間違えてるだろ……」

ソラが廊下の大理石に顔を突っ伏したまま、文字通り生ゴミのように呻く。

「自業自得だ。お前が真っ先に頭に血をのぼらせて突っ込むからこうなる。……少しは頭を使え、アホソラ」

ルークは壁に背を預け、冷え切った手首をさすりながら、いつも通り容赦のない言葉を投げつけた。だがその視線は、俺が着ている彼の大きめのジャージへと一瞬だけ向けられ、すぐに逸らされた。

「本当に、ごめんなさい……。みんな、私のせいで、こんなことになってしまって……」

白髪を小さく揺らしながら、ミアが消え入りそうな声で頭を下げた。フクロウの亜人である彼女は、落ち込むと本当に鳥が羽を畳むような、きゅっと身を縮めてしまうのが見ていて少し痛々しい。可愛いけど。

「いや、ミアのせいじゃないって。あいつらが完全にルール違反だったんだから。俺もちょっとスッキリしたし」

俺はジンジンと痺れる足を拳で叩きながら、ミアに無理やり笑いかけた。

ガラテア先生の『ずっと見られてるわよ』という冷ややかな言葉が、まだ耳の奥でリフレインしている。

国家機密、政府の監視、一生国外外出禁止。不穏なワードは山積みだ。よく考えるとあの状況も見られていたということになる。何事も起こしてこなかったということはそういうことだ。だが極力このような事態は避けることにする。

だけど、今の俺たちの目の前には、それよりももっと具体的で最悪な「敵」が立ちはだかっていた。

一人当たり、大判の羊皮紙にびっしり3枚分の反省レポート。

「よし、とりあえず俺の部屋行くか。ルークに服も返さなきゃだし、みんなで書いた方が早く終わるだろ。……ソラ、引きずってってやろうか?」

「……おう、頼む。マジで一歩も動けん」

こうして俺たちは、放課後の誰もいない廊下を、盛大に足を引きずりながら歩き始めた。

ミアと俺たちはこの件以降も自然と一緒にいることが増えていった。

あの男のグループに関してはその日から対立関係になっていった。

本当にめんどくさいやつだ。まじで。

あの乱闘騒ぎから数日。ガラテア先生に提出した山のような反省レポートの文字がまだゲシュタルト崩壊を起こしているというのに、俺たちの周囲の空気は、温泉の湯気とは真逆の冷気へと変わっていた。

原因は明白。あの時ミアをコケにし、ソラに胸ぐらをつかまれたあの男――ジュリアン・ヴァレンタインだ。

「聞いた? 特例生のアルティ、やっぱり危険思想の持ち主らしいわよ。演習場でジュリアン様にいきなり得体の知れない魔法をぶっ放して、大怪我をさせようとしたんだって」

「後ろにいる獣人たちも、特例生の腰巾着になってジュリアン様を取り囲んで暴力を振るったらしいし……。やっぱり政府に監視されてるような奴は関わらない方が身のためね」

廊下を歩けば、そんなひそひそ話が嫌でも耳に飛び込んでくる。

ジュリアンが自分の取り巻き(あの犬耳・猫耳女子たち)を使って、学内に歪んだ噂を大至急拡散したのだ。

『名門ヴァレンタイン家のまっとうな生徒が、謎の特例生グループに集団暴行を受けた』

という、あまりにも被害者面に特化したストーリー。おかげで俺たちの悪評判は1年寮全体に広がり、講義室でも周囲にぽっかりと空席ができる始末だった。

「クソが……! あいつ、自分から仕掛けてきて負けそうになったからって、陰でネチネチと嘘広めやがって! 直接もう一発殴らせろ!」

中段の端の席で、ソラが筆箱を握りつぶさんばかりの勢いで歯ぎしりしている。

「やめておけ、ソラ。これ以上騒げば、アルに迷惑がかかるかもしれないんだぞ。……まぁ、あのジュリアンとかいう無能の顔を思い出すだけで、俺の雷の魔素が勝手に放電しそうになるのは同意するがね」

ルークもノートに視線を落としたまま、いつも以上に声のトーンが低い。

それでも俺のことを心配してくれている。

本当にいい奴だ。

「……私の、せいで……」

ミアにいたっては、完全にフクロウの羽を閉じきるように、小さく丸まって今にも泣きそうだ。なのに頭からアホ毛が出ていることで可愛いの方が勝ってしまう。

ちょっと可愛い。

「気にすんなって、ミア。あんな痛い奴の言うこと、信じる方がアホなんだから。それに....俺は別にどうってことない。俺は全然平気だ」

俺は努めて明るく笑いかけた。前世のいじめに比べれば、こんな根も葉もない噂話なんて蚊に刺されたようなもの……と言いたいところだが、胸の奥が少しだけ熱を帯びるのを感じていた。

「――はい、そこまでぇ。席につきなさぁい」

タイミングよく教壇に現れたのは、ガラテア先生だった。いつものおっとりした笑顔だが、俺たちの机のどんよりした空気を察したのか、一瞬だけ眼鏡の奥の目を細めた気がした。

「今日の授業は、屋外の第一演習場で行います。テーマは、『属性相性の精錬実験』。座学でやった相性関係が、実際の出力にどう影響するかを目で確かめてもらいます。……今回は2チーム合同の対抗形式で行いまぁす」

先生が手元の名簿を読み上げる。

「第一グループは……アルティ、ソラ、ルーク、ミアのチーム。そして合同実験のパートナーは」

「――っ!?」

講義室の向こう側で、髪をかき上げながら勝ち誇ったような笑みを浮かべるジュリアンと目が合った。

周りの生徒たちが、一斉にゴクリと息をのむのが分かる。

お願いだからジュリアンのチームはやめてくれ。頼む。

「サニス・オレバのチームです」

どこの誰。

いや、良かった。ひとまず安心だ。ジュリアンじゃなければ基本誰だって良い。

「えー、お次の第二グループはーー」

そうして次々と合同実験の組み分けがされていった。

サニス・オレバ。どこの誰だか分からんが良かった。ジュリアンでないことが重要である。ソラ達も安堵のため息をついているし、これは皆んな同じだろう。あとはサニスのチームがジュリアンの息がかかってないことを祈る。

「それでは移動してくださぁーい」

俺はブレザーの袖を少しだけまくり上げ、席を立ち上がった。

移動する途中俺たちの制服とは違う色、緑色の制服を着た生徒がいた。

「....魔法研究開発科。珍しいな」

ソラが緑の制服を着た生徒に放った言葉が気になる。

聞いてみるか。

「魔法研究...開発科?って?」

「俺らとは違って研究したり魔法具を開発する人達だ。ソラみたいな脳筋バカは入れない少し頭が良い人達だ」

ルークが説明してくれた。説明してくれたのはありがたいのだが....まずい。

また始まる。ルークが余計なことを言うからだ。

「おい、お前。今バカって言ったよな!言ったよな!しかも俺とお前同じ科だぞ?俺バカならお前もバカじゃん!」

金色の尻尾をブンブンと怒りで振り回しながら、ルークに食ってかかった。

ルークがアホなのかソラが賢いのか。とにかくこうなったら長い。

「やっぱお前アホだろ!ほんとアホだろ!」

多分、今回はルークの負けだな。

よしミアを連れてひと足先に移動するか。

「行こうぜ」

こうしてミアを連れてひと足先に目的地へと向かった。

広場には続々と生徒が集まっており、第一グループの方を見るとすでに数人集まっていた。

サニス...すごく偏見なのだが、たくましそうな名前をしている。

「サニス・オレバ...名前的に男っぽいよな」

「うん」

1、2、3.....3人しかいない。

見るからに全員女性だ。

「あの、こんにちは。アルティです。こっちが...」

「ミア...です。ミア・オーウェンです」

顔を合わせると、真ん中に立っていた少し背の高い女子生徒が、悪戯っぽく口元を釣り上げてニヤリと笑った。

「おっ、君らが噂の特例生グループかい? 私はサニス・オレバだ」

彼女はそう言うと、白い歯を見せて快活に親指を立ててみせた。まさに、事前に名前から想像していた「たくましさ」を、最高にカッコいいベクトルで体現したような人物だった。

健康的に日焼けした小麦色の肌に、ひときわ目を引く鮮やかな金髪。それを高い位置で一房に結わいたポニーテールが、彼女が動くたびに元気よく揺れている。

着ているのは俺たちと同じ深い紺色の制服だが、ブレザーのボタンは全て外され、中のシャツも少し襟元が緩められていた。そのせいで、制服の上からでも分かるほど引き締まった抜群のプロポーションと、どこか男勝りな姉御肌のオーラが隠しきれていなかった。

彼女の後ろには、同じクラスの、少し気弱そうな金髪の女子生徒が1人。もう1人は、サニスとはまた違った意味で目を引く、クールでツンとした雰囲気を纏った金髪の美少女だった。少し気怠げに波打つ細い金髪の間から、冷ややかで知的な瞳がこちらをじっと見つめている。紺色の制服の上から黒いマントのような上着を羽織り、両手をきゅっと腰に当てたその立ち姿は、まるでどこかのお嬢様のようで、どこか近寄りがたいオーラを放っている。

多分この3人グループのリーダーは、このサニスだろう。

「あ、よろしく。俺の噂、結構広まってるみたいだけど……大丈夫?」

俺が苦笑いしながら尋ねると急に空気が変わった。

「暴力した極悪人だろ?知ってるさ。本当最低だな」

(え?)

いや、勝手に良い方向に想像してた自分が悪かった。

これはかなりの厳しい戦いになりそうだ。

と思った瞬間

「サニー!!......ダメって言ったでしょ!」

誰かが叫んだ。

急な主張にびっくりして声のした方向、サニスの後ろを見ると先ほどの金髪のお嬢様みたいな少女が仁王立ちしてサニスの方を睨んでいた。

「ぷっ.....ふっはははははは」

(え、怖い)

サニスが爽快に笑っている。今のやりとりにそんな面白いところあったか?

どうゆう状況だ。全く読めない。

「ふはは、ごめんごめん。冗談だ。ジュリアンのクソ野郎の戯言なんざ信じるわけないだろ。ってことでよろしく!」

「もうっサニー!」

そう言いペシッとサニスの頭を叩いた。

「ごめんってお嬢、ついいじりたくなったんだよ。ごめんごめん」

(お嬢?この金髪の人本当にお嬢様だったり?)

「全くサニーってば。ごめんね、アルティ君そんなつもりじゃなかったの。私達はあなたの味方だから!」

そう言いこちらの方向へ目を向けてくれた。

なんかよく分からんが、味方らしい。

それと訂正、この3人の中のリーダーはお嬢様らしい。強さではサニスっぽいが。

「心配すんな、アルティ! ジュリアンのぼんぼんが流してる噂だろ? あんな陰湿な嫌がらせ、まともに信じる方がアホだって。同じクラスなんだから、あいつが普段どんな奴かくらい分かってるよ。私は自分の目で見た事実しか信じない主義だからな!」

サバサバしたその言葉に、俺の隣で縮こまっていたミアが、ぱあっと顔を輝かせてアホ毛をぴょこぴょこと揺らした。

「そ、そう言ってもらえると、すごく嬉しいです……!」

「お、可愛いフクロウちゃんだ。よろしくぅ、」

サニスがミアの頭を遠慮なくガシガシと撫で回していると、背後からドタドタという騒がしい足音が近づいてきた。

「だから! 同じ戦闘科なんだからバカのレベルは一緒だろって言ってんだよ!」

「お前と一緒にされる筋合いはない。俺の脳の思考回路はお前とは構造が違う」

まだやってる。

案の定、ソラとルークが互いの胸ぐらを掴みかねない勢いで、言い合いをしながら合流してきた。

「お、噂の脳筋コンビも到着か。賑やかでいいねぇ!」

サニスが面白そうに二人を見上げる。ソラはその視線に気づくと、サニスの引き締まったスタイルと、その圧倒的なビジュアルに一瞬だけ目を丸くした。

「うおっ? お前がサニスか? 名前的にてっきりゴリゴリのマッチョ男が来るかと思ってたわ……」

「ソラ、初対面の相手に失礼だぞ。……すまない、うちの単細胞が」

ルークがすかさずソラの頭を小突いて前に出る。サニスはそれを見ても怒る風でもなく、むしろ嬉そうに目を細めた。

「いいっていいって! 実際、名前で勘違いされるのは慣れてるしな。それより、同じクラスなのにじっくり話すのは初めてだし、この合同実験、楽しもうぜ!」

サニスが不敵に笑う。

「じゃあまずは自己紹介からだな!俺はソラだ。こいつがルーク」

「私はサニス。こっちの可愛いお嬢様がセレナ・アルヴィス様だ。そんでこっちがミレイユ・アルヴィス様だ」

「セレナよ!よろしく。こっちは私の妹のミレイユ。」

「ミレイユです....よろしくです」

こうして簡易的な自己紹介を終えた頃、各生徒も配置についた。

隣のチームにジュリアンがいることはいったん無視することにする。

だが、噂話で孤立していた俺たちに、偏見なく接してくれる頼もしいクラスメイトが加わった。

ジュリアンの嫌がらせにはムカつくが、この合同実験、思ったよりも面白いものになりそうではある。、俺はブレザーの袖をもう一度引き締め直し、ガラテア先生の次の指示を待つことになった。

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