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また反省文

ガラテア先生の合図とともに、第一演習場に設置された巨大な魔導石が淡い光を放ち始めた。

「さあ、まずはそれぞれの測定石にぶつけて、基本出力を測りましょうかぁ」

先生ののんびりした声とは裏腹に、周囲の生徒たちは殺気立っていた。特に隣のグループにいるジュリアンが、取り巻きの女子たちと何やらヒソヒソと話しながら、こちらを嘲笑うように見ている。

「……ムカつくな。なあ、アル。あいつらの鼻へし折ってやろうぜ」

ソラが拳をボキボキと鳴らす。

「落ち着けソラ。まずは授業だ」

ルークが宥める中、メンバーであるサニスが不敵に笑い、前に出た。

「よし、まずは私から行くよ。見とけよ特例生君、これが私の……魔法だ!」

そう言い右手をかざした。

さらに何かボソっと唱えたと思ったら、その周囲にパチパチと赤い火花が散った。属性は「火」かのように思えた。

いや、実際は火なのだが。

色が異なっている。ソラが使う赤い炎というよりかは緑色の火だった。

彼女が魔力を練り上げた瞬間からだんだんと緑へと変わっていったのだ。最終的には小さな火球へと集まっていく。

「――っ!?緑で、 火が小さいのに……」

誰も近づけなかった。

なんだ、この迫力というか。色というか。小さい火の球のくせにソラが使う魔法より強そうな見た目だ。

俺の驚きに、サニスは牙を見せて笑う。

「私の魔法は規模は小さいが、その分、質を高めているからな。こんなこともできるぞ」

サニスが放った火球は形状を槍のような形に変えながら、魔導石を貫いた。まるでマグマの矢のような感じだ。貫きながら石がプシューと悲鳴をあげている。

痛そうだな。

こうして半身ほどの魔導石に拳ほどの穴が空いた。

ミアが羽を小さく畳んで興味津々な顔をしている。

「すごい……。何秒いけるかな……」

この魔導石はダメージを受けると自然と修復を始める石なのだ。測定石とも言われる魔導石なのだが、修復に時間が掛かればかかるほど威力が高いということになる。もちろん石に傷をつけれることが大前提である。ちなみに石とは言われてるが硬さは粘土よりちょっと硬いくらいだ。

結果は40秒ちょいくらいだった。

どのくらいかといえばルークの最大出力の魔法で10秒くらいだ。

「サニーは少し乱暴すぎるわ」

お嬢様――セレナだった。

彼女は魔導石に自前の杖を向けて突き立てた。

 だがサニスが凄すぎて

「すげぇ。俺もうサニスに逆らえねぇ」

「俺も」

ソラの弱音にルークも賛同している。

もちろん俺もだ。

「コホンッ」

セレナがサニスへの賞賛の声を遮り魔法を練り始めた。

と思ったら、急に叫んだ。

「いきます!」

「待ってお嬢、それは...」

サニスが言いかけた頃には遅かった。

直後セレナの杖の先端から眩い光が放たれた。

(眩しっ)

視界が真っ白になった。

恐らく俺以外のみんなも目が開けられなくなっているだろう。

(何これ目が痛い)

数秒後、やっと視界がひらけた。

閃光弾.....?

「お嬢。お嬢の魔法はサポート系なんだから威力ないよ」

「ごっごめんなさい!」

セレナの顔が少し赤い。赤面しているのだろうな。

ここはなるべく失礼のないように和ませなければ。

「あ....はははは、まぁそーゆーこともある....よな。ソラ」

「いや、普通に眩し...」

危ない.....それ以上先は言わせない。こういう時はそうだねと言えば良いんだよソラ君。

手でソラの口を咄嗟に抑えていた。ソラが口をモゴモゴしている。

ルークに言えば良かったな。

それに不意に苦笑いしてしまった。閃光の光で目が痛くなることを初めて知ったし、これも学びの内。多分。

そして眩い光につられて来た先生に催促されて次々と測定石に向けて魔法を放った。

俺は3秒。ルークは12秒。ソラは6秒。そして、セレナの妹であるミレイユ。彼女は俺と同じ水だった。そして25秒。水を一点に集めてレーザーのように放った魔法はかなり奥まで削れていた。

(すげぇ....師匠発見)

こうして測定が終わり、休憩に入った。

持参した水を飲みながらふと思い出す数分前の出来事。

あの2人の魔法は凄まじかった。もちろんセレナお嬢もすごい。

彼女の放つ光は、攻撃性こそ低いが、不思議と心を落ち着かせる温かさがあった。

嘘です。温かさなんてなくただただ眩しかったです。

ただサポート系というのは間違いない。

「セレナさんたちの魔法、洗練されてますよね。……失礼ですが、3人の出身ってルミナスじゃないんですか?」

俺の問いに、セレナが優雅に頷いた。

「ええ。私たちはルミナスの真北にある、自由連合の出身よ。あそこは雪が多くて鉱山資源が豊富な分、独自の魔導技術が発展しているの。この国とは昔から、つかず離れずの『ただの隣人』って感じだけどね」

「連合の奴らは基本、人間だけど昔の獣人の血が混ざってる奴も多い。まあ、今はほぼ人間だけどな。尻尾もない」

サニスが補足する。

そんな会話をしている間、後ろでソラが冷や汗のようなものをかき、もじもじしている。

何だこいつ。もしかして好きなのか?惚れたのか?

もしかしちゃったのか?

すると急にサニスの方をチラッと見た。

サニスにか!?

「どうしたんだよ。誰に惚れたんだよ」

そう小声で言うと、決心した顔でソラが喋った。

「サニス...さんって、も....も....もしかして狼.....?」

(え?そこ?)

予想と反した質問にびっくりした。

「あぁ.....一応そうだ。ん?あぁ!ソラは犬の獣人だったのか!安心しろ!私は雪山生まれの雪山育ちだ!」

どうやら犬と狼には序列があるらしく。火炎系の魔法を得意としているらしい。サニスの牙と炎の威力で気づいたのか。それにしても時差がありすぎだ。

「なんだ、ヒヤッとしたぜ」

「ふはは、まぁ無理もない私は星付きだからな」

「「!?」」

急に爆弾落としてくる。

「あれ言ってなかったっけか?」

あぁ、ルークとソラが怯えている。猫っぽい耳と犬っぽい耳達もビクビクしてる。

どれだけ強いんだ。同じ1年だよな。何しに来たんだよ。学ぶことなんて何もないでしょ。

「...聞いてないです、どんな能力なんですか?」

おい!ダメだ、ミア。デリカシーというものを知らんのか。

そんなこと聞いても答えるわけないだろうし、絶対に牙をみせてくるぞ!

「おっ知りたいか?いいだろう。教えてあげるとしよう。内緒だぞ?」

「はい!」

「え?」

あれ。ナタリが言うには基本自分の能力は伏せておくべきなんじゃないのか?どういうことだ。何かの戦略?それともただのバカ....じゃない、バケモノ....でもなく、強いから教えても大丈夫だからとかなのだろうか。

「あのっ良いんですか?能力は基本隠すものと師匠から言われてて」


「あぁ、別に私の能力なんて弱い方だし、見られたところでなんにも変わらんだろう。以前にも人に見せたことあるし.....ミアも知りたいよね」

「....はい!」

なんて純粋な笑顔なんだミアは。

よし、初めて見る他人の能力。どんな感じなんだろう。ナタリによると自由度が高く、単純な能力や複雑なものまであるらしいが。精神乗っ取るのはちょっと怖い。

「私の能力は名付けて『トラジェクトリー・エディット』だ。どうだ、かっこいいだろ!」

やだ。かっこいい。

中二病心を捨てないでおいてよかった。

「まっ弱いんだけどね。まぁ見ててよ」

そう言い地面にあった石を手に取った。

そしてジュリアンのいる方向へと思いっきりぶん投げた。

(っておいおい!何してんの!)

「ダメだ。当たる」

(まぁ当たっても別に悲しくないし、むしろ当たってくれても....)

「これが、トラジェクトリー・コントロールだ」

そう言うと、投げた石が真逆にサニスの方へと軌道を変えて戻って来た。速度は変わらずにだ。

「何が起きたんだ」

そう言ったルークの口が開いたままだ。

ふむ。おもしろい。実にかっこいい。

「投げた物の軌道を変えれるんですか!それとも引力的な物ですか!」

「後者の方が近いかな。あっアルさん方もタメ口で良いですよ。自国では貴族でも今は同じ生徒だもの」

そうセレナが答えた。続けて、

「サニーの能力は動きのある物体を速度は変えずにサニー自身の方向へと軌道を変えるかとができるのよ。小さい頃からの付き合いだからそれぐらいは知ってるわ」

「す、すごい、それって全然弱くない気がするけど.....?」

クソっ。急にタメ口ってなるとなんか恥ずかしいというかなんというか。

「まぁ自分の方向にしか軌道を変えれないんだけどな。それも生物以外に限定される。矢とか剣とかなら自分の方向に軌道を変えれるだけだ。なんならかえって危険な場合もある」

本人はそう言うが案外強いと思う。

飛んでくる遠距離攻撃を全部自分に引き寄せて叩き落とせるなら、前衛としては無敵に近い防御手段だ

俺がそう感心していると、案の定、脳筋のソラが目を輝かせて身を乗り出してきた。

「おもしろそうじゃん! なぁサニス、ちょっとその能力と魔法の連携、ここで試してみようぜ!」

「おいソラ、まだ授業中だぞ。測定が終わったからって勝手に行動するな」

ルークがすぐに眉をひそめてソラの襟首を掴む。だが、サニスは「いいねぇ、やろうか!」と完全にノリ気だ。

「ちょっとサニー! ガラテア先生が見てるわよ。勝手な練習は減点の対象になるわ!」

セレナも両手を腰に当てて反対したが、サニスは「大丈夫だって、お嬢。先生、あっちのグループの面倒見ててこっち見てないし」と、ジュリアンのチームに捕まっているガラテア先生を指差して笑い飛ばした。結局、ルークとセレナの正論は、ソラとサニスの暴走にあっさりと押し切られる形になった。

「じゃあ、まずは私の火球をサニーが軌道修正する感じで....ってあっ、魔法は引き寄せられないのかーー」

「あ、待って。その前にさ、ちょっと気になってたんだけど」

ソラが構えようとしたのを、サニスが手で制した。彼女の視線が、ソラやルーク、そして俺へと向けられる。

「あんたたち、なんでさっきから全員**『無詠唱』**で魔法をぶっ放してんの?」

・・・・・?

「え? なんでって……それが普通だしなぁ」

ソラが不思議そうに頭を掻く。サニスは信じられないといった様子で呆れ顔になった。

「普通なわけないだろ。無詠唱だと、体内の魔素を外に出すときにどうしても形がガタついて、威力がばらけるんだよ。だから私はさっきも、魔法のイメージを固定するためにボソッと詠唱を唱えてたんだ。出力が高いルミナスの人間は、みんなそうなの?」

「いや、俺たちもここに入るまではそれが普通だと思ってたけど……」

「セレナは詠唱してなかったぞ」

そうソラが言うと、セレナは『テヘペロ』な様子で

「私は....忘れちゃった」

うーん。セレナお嬢様はルーク系の人種だな。

おっちょこちょい系で言うと1人目だな。

(可愛いなら全て良し。可愛いだけじゃダメじゃないです)

「詠唱....か」

ルークが少し考え込むように顎に手を当てる。

なるほど。魔力がばらける、か。俺は前世の科学知識でいう「エネルギーの拡散」みたいなものだと解釈した。詠唱には、魔素のベクトルを一定方向に整える「収束剤」のような役割があるらしい。

「ねぇ、無詠唱の謎は後で解析するとして……アルティ、君は僕と同じ水属性だよね?」

不意に、後ろにいたミレイユが元気な面持ちで俺に話しかけてきた。

僕っ子だったのか。しかもかなりパワフルなオーラを感じる。さっきまでとは全く違う雰囲気だ。

気のせいかな。

「あ、うん。そうだよ。ミレイユのさっきのウォータージェット、凄かったな。測定石をあんなに削るなんて」

「あ、ありがとうございます!でも、アルティ君は無詠唱なのに、水の密度が変に高い気がして。もしよかったら、僕の知ってるコツ、教えてもいいですか?」

「え、いいの? 助かるよ」

ミレイユは少し照れくさそうに微笑むと、自分の前に小さな水球を作り出した。

「魔法にはね、属性以外にも『操作系』と『創造系』っていう大きな分類があるの。私のは、すでにある水や、大気中の水分を操る『操作系』。だから形を細く鋭くしてレーザーみたいに飛ばせるの」

「操作系と、創造系……」

「そう。ゼロから物質を生み出す『創造系』は魔力の消費が激しいけれど、操作系は効率が良いんだ。苦手な方を魔法詠唱で補うって感じかな。もちろん、得意な方で詠唱をすると精度が上がったり強くなったり、色々あるんだけど.....アルティ君の水の出し方を見ていると、なんだか無理やり空間に水を生み出しているような……創造系に近い違和感がある。もっと、周囲の空気に馴染ませるようにイメージしてみて」

なるほど。俺は今まで「水を作る」というイメージで魔法を使っていた。だから魔素のロスが多かったのかもしれない。前世の知識で言えば、大気中の水蒸気を結露させて集めるような感覚、つまり「操作」の意識を持てばいいわけだ。

「大気中の水分を集めて、形を固定する……こんな感じか?」

俺はミレイユのアドバイス通り、空間の水分を引き寄せるイメージで、手のひらの上に水の塊を形成した。無駄な魔素の拡散が減り、さっきよりもずっと滑らかに、かつ強固な水球が出来上がる。

「あ、すごい……! すぐにコツを掴んじゃうなんて……」

ミレイユがパチパチと小さな拍手を送ってくれた。

よし、じゃあこれを少し変化させてみよう。俺は自分のアイデンティティであるシャボン玉のイメージを少しだけ混ぜ、水球の内部のイメージは電子レンジ、いや爆発に近いイメージで.....。

パチン、と小さな音を立てて、俺の作った水球が空気中で弾けて霧散した。

「あ、あれ? 破裂しちゃった」

失敗か、と思って苦笑いしたのだが――目の前のミレイユが、まるで怪奇現象でも見たかのように、顔を真っ青にして硬直していた。

「ミレイユ? どうした?」

「……いまの、なに……?」

ミレイユは震える手で、俺の水球が弾けたあとの空間に触れようとした。

「弾ける、ほんの一瞬前……あの水球のなかの魔素、あり得ないくらい温度が上がってなかった……!?」

「え?」

「水なのに……熱いなんて、そんなの、操作系でも創造系でも絶対に起こらない……。アルティ君、一体、何の魔法を使ったの……?」

冷徹な瞳を持つはずの金髪美少女が、完全に怯えたような、それでいて未知の真理に触れてしまったような目で、俺をじっと見つめていた。

「い、いやそう言われても....なぁ」

その瞬間別世界から来た存在であることが頭の中をよぎる。

「た...たまたまなんじゃないかな?」

そうしてミレイユを良い感じにぼやかせれた、かに思われた。

ミレイユが小声で話してきた。まるで何かを理解したように。

「あっそうか。アルティ君は特例生とか言われてたんだった。公にはできないよね。.....あっそうだ、僕が、アルティ君のその未知の力をバレないように鍛える方法を教えてあげるよ」

見るとグットポーズとウィンクをしてくれている。

「あ、うん。ありがとう」

いつまでも分からないまま、騙すのは面白くない。

たまには理解してもらうのも悪くはないな。

「じゃあ、さっきみたいに破裂さる前の段階までやってみて」

「分かった」

こうしてこの日から秘密の特訓が始まった。

ミレイユと俺だけの秘密の特訓である。

そしてその数分後。

「さっ、このグループの進捗はどうですか?」

その瞬間。全員の動きが石像のように固まった。

「反省文10枚とレポート5枚。明日までに」

よし。切り替えていこう。

秘密の特訓も約束したし。

それに.....


「じゃあ皆んな今日俺の部屋来いよ。そこでやろうぜ」

そうソラが召集をかけてくれた。

そして、

「賛成だな」

サニスもあっさり賛同してくれた。


それに新しい友達ができた。関わりが増えれば増えるほど大変だが、それが楽しく感じてしまう。

「それに、私ミアの羽と梳かしてみたい」

サニスに気に入られてるミアも嬉しそうだ。

「おいおい、まずは反省文だぞ」

とソラ。

まぁこの状況予想できなくはなかったがそれも含めて今後も楽しくなりそうだ。

こうしてその日は夜遅くまで皆んな起きて反省文を書いていた。

寝坊して遅刻しませんように。

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