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学院生活

亜人の中に獣人やエルフなどの種族がいるという設定です。


今日からいよいよ、俺の『魔法科高等専門学院』通常魔法学院での生活がスタートする。今までは高専や学校など言われていたが正式名称を知ると余計前世を思い出す。

昨日ルークから借りたジャージではなく、支給されたばかりの制服に袖を通す。深い紺色のブレザーの襟元には、ルミナスの紋章である銀色の盾が刻まれていた。

鏡を見ると、そこには前世では一度も見たことがないほどシュッとした男子学生が立っていた。

「……よし。行ってくるか」

寮を出て、昨日買い物で歩いたロータリーを抜け、学院のメイン棟へと向かう。そこは、昨日見た議事堂にも負けないほど巨大で、白亜の石材が朝日に輝く壮麗な建物だった。

ソラとルークと何気なく会話しながら大きな扉を開けた。その瞬間、視界がパッと開けた。

「……うわ、すっげぇ……」

そこは、俺が前世のネット動画や映画で見た「マンモス大学の講義室」そのものだった。

すり鉢状に広がる巨大な半円形の空間。背の高い窓からはルミナスの明るい陽光が差し込み、磨き上げられた木製の長机が幾重にも重なって、はるか上方の天井まで続いている。ざっと見て、数百人は収容できそうだ。画像で見たあの「大学の講義室」を、さらに数倍豪華にしたような空間だった。

教壇の裏にあるのは長細い黒板。

「ここが俺たちの講義室ってわけだ。アル、俺たちは中段の端っこに座ろうぜ。あそこなら居眠りしてもバレにくいし」とソラが言う。

「じゃあそこ行こうぜ」と俺が返すと、ルークが少し真面目な顔でこちらを見た。

「俺はちょっと用事があるからまた後でな」

そう言ってルークとソラは一足先に席へ向かい、俺は一人、教壇の近くに立っていた任務管理部のセドリックさんに呼び止められた。隣には、眼鏡をかけ、知的なオーラを纏った女性教師――ガラテア先生もいる。見た目こそかなりお年を召しているが、その分優しそうで、セドリックからのガチガチな説明を聞いてなお、俺に温かい笑顔を向けてくれた。近所のおばちゃんって感じの人だ。

「そろそろ時間だ、行きますよ」

セドリックがスッと教壇に立ち、右手を上げた。

それだけで、数百人の学生が放っていたガヤガヤとした喧騒が、まるで真空状態になったかのように消え去った。

周りを見渡すと、座り心地のいい木製椅子にはすでに多くの学生が座っている。角が生えた者、尻尾を揺らす者、羽を畳んでいる者。昨日の会議での重苦しい空気とは違い、ここには若者特有の活気と、ほんの少しの緊張感が漂っていた。

セドリックは縁なしの眼鏡を指先で押し上げると、手元の手帳を開き、感情を一切排除した声で告げた。

「今日から――この魔法科高専学院に、一名の特例生が加わることになった」

セドリックは、隣に立つ俺を横目に鋭い視線を放っている。俺は背筋に氷を押し当てられたような緊張感に襲われ、下を向いてしまった。何もしてないのに悪いことをした気分なんだが。

(お願いだから柔らかく紹介してくれ!)

「紹介しよう。特例生、アルティ。彼は先日の最高意思決定機関『ラピス・トリビューナ』の決議により、政府の直接管理下に置かれることとなった学生だ」

ざわり、と講義室が波打つように揺れた。

(おいちょっと……これじゃソラとルーク以外に友達できねぇぞ!)

「政府の直接管理下」なんて言葉、普通の学生生活ではまず聞かない。

「彼に関しては、二つの重要な制限が課されている。一つは、本人の国外への外出および任務への帯同の全面禁止。そしてもう一つは――」

セドリックの声が一段と冷たく響く。

「――学友である諸君らによる、彼の星素回路や出自に対する過度な詮索の禁止だ。もしこれに違反し、国家機密に抵触しようとした者は、防衛局による厳重な取り調べの対象となる。……心して、学生生活を送るように」

紹介というより、それは**『警告』**だった。

(終わった……)

「仲良くしろ」なんて一言も言わない。むしろ「下手に触るとお前らも火傷するぞ」という突き放した宣言。

「……アルティ君。君からも挨拶を」

セドリックさんに促され、俺は喉の奥の渇きを堪えながら、すり鉢状に広がる巨大な空間を見渡した。何百もの「未知の視線」が俺を値踏みするように見つめている。恐怖はある。だけどただの挨拶だ。なんて事ない。

「……アルティです。色々ありますが、皆さんと一緒に魔法を学べることを楽しみにしています。よろしくお願いします」

俺が深く頭を下げると、数秒の静寂の後、パラパラとした、どこか戸惑いの混じった拍手が起きた。セドリックは満足したように一度だけ頷くと、ガラテア先生に教壇を譲り、風のように去っていった。

「……ふぅ。……死ぬかと思った……」

張り詰めた空気が残る中、教壇のガラテア先生が優しく微笑んだ。

「では、アルティ。空いている席へ」

先生に促され、俺が中段の端の席へと移動すると、先に戻っていたルークがすかさず声をかけてくれた。

「アルって変な称号たくさん持ってんだな」

「……あはははは」

「よっしゃあ! 自己紹介も終わったし、ここからは授業だ! 」

ソラの屈託のない笑顔が強張っていた俺の心を少しだけ溶かしてくれた。さらに静まり返った教室の騒がしさも取り戻していった。こうして、俺の「一生国外外出禁止」の学園生活は、嵐のような幕開けと共に始まった。

「――静粛に」

突如、講義室全体に凛とした先生の声が響いた。マイクなんてないのに、まるで耳元で囁かれたかのような鮮明な声。一瞬で数百人の学生たちが静まり返る。

「一応....私は魔法理論学担当のガラテアです。」

ガラテア先生は改めてそう名乗ると、静かに講義室を見渡した。

「……講義を始める前に、一つだけ....この学年の中には、国家の最高決定により『特例』として管理下に置かれている者が一名加わりました。彼に対する不必要な接触や調査は、政府により厳しく制限されている。……だけども、ここは学びの場。学問の前では、すべての学生は平等なんだよねぇ。……それを忘れないように。」

セドリックの冷たい警告を、先生が「ここは平等な学びの場」という言葉で綺麗に包み直してくれた。

「では始めますよぉ」

ガラテア先生が長い黒板の横に指をさすと。

**『第一回:魔素・元素・魔力の変換効率と、回路の臨界点について』**

「さぁ、今日君たちが学ぶのは、世界を形作る『法則』そのもの。……魔素とは何か? なぜ元素回路が必要なのかな? ――っていうテーマです」

こうして約100名程度の生徒と共に講義の毎日が始まった。

生徒達の中には寝ている人もいればボーっとしている人もいる。

基本座学の時はそんな人が多かったイメージだ。

皆んなが活気つくのは実技の授業ただ一つのみだった。

実技になるが先生は変わらずずっとガラテア先生が全ての授業を担当している。それもそのはず一年生は魔法論理学しか授業がないらしい。

毎日4回ほど授業があり、数人のグループをつくり実際にやってみる魔法の実践だったり、属性の相性を見たり。その分レポートも大変だが楽しかった。授業は全て1時間ずつあり、午前中に2回、お昼休憩を挟んで午後にも2回授業があった。

そして学院生活にも慣れてきた1週間後。

事件は起こった。

週に一度ある、1対1の模擬戦。

今日の授業は屋外の演習場で行われており、クラス内で数人ずつのグループを作って戦い合う形式だった。チーム数が多いため、先生の目はほぼ行き届いていない。たまに見回りに来るが、基本的には生徒たちに任されている。それもあって、多少手荒に戦ってもバレない、少し荒れやすい時間でもあった。荒れると言ってもまだ初歩的な魔法しか使えないのだが。

今日の俺のグループは、俺、ソラ、ルーク、そしてもう一人、この一週間でなんとなく一緒にいるようになった、白髪でフクロウの亜人の女の子――**ミア**だ。彼女は草や木の系統の魔法の使い手で、普段は物静かで少しおっとりしている。

そのミアが、一戦目に相手チームのリーダーである人間の男子に負けてしまった。

相手の男子は、自分が最高にイケメンだと勘違いしているらしく、やたらと髪をかき上げる仕草が痛くてうざい奴だ。後ろには、彼を盲信している犬の亜人1人と、猫の亜人2人の女子生徒を引き連れている。

模擬戦自体は、ミアの魔力が尽きての真っ当な敗北だった。そこまでは別に良かった。だが

「チッ、調子に乗りやがって! 雑魚が」

男は、倒れたままのミアを鼻で笑い、日頃のうっぷんを晴らすように見下した悪口を吐き捨てた。

理由は、おそらくミアによる執拗な攻撃によるものだろう。ミアは回路のスペックや魔力の変換効率こそ凡庸だったが、魔素の制御技術が桁外れに高かった。避けても避けても、まるで意思を持つかのようにしつこく追撃してくる木の蔓――その精密極まる魔力操作こそが、相手にとって何よりも不快だったのだろう。技術の精密さだけで言えば1年の中でもトップ10には入りそうだ。

それに嫉妬したのかただの不快感からなのかは分からないが、流石の俺でも腹が立った。

俺は前世の記憶があるおかげか暴言に少しはムカつくが、すぐに冷静になれた。だが、俺の後ろで一人の導火線が完全に爆発した。

「お前今なんつったんだよこの野郎!」

地面を激しく蹴って前に出たのはソラだった。大切な仲間であるミアを侮辱され、顔を真っ赤にして怒っている。彼女のためにソラが全力で怒ってくれているのだ。

「なんだぁ? 負け犬の遠吠えか? 事実を言ったまでさ。負けたんだからな。まぁ当たり前なんだけどさ」

男はフッと気取った笑みを浮かべ、さらにソラを煽る。

「なんならお前も倒してやろうか?」

そう言いゲラゲラ笑っている。

(なんなんだこいつ。なんでこんな偉そうなんだ)

そしてそのまま言い合いが激化し、今にも殴り合いが始まりそうなその時、さらに最悪なことが起きた。

男の後ろにいた猫の獣人の女子が、ニヤニヤしながら、倒れているミアに向けてさらに追撃の魔法を練り始めたのだ。すでに勝負はついているのに、過剰な攻撃を加えようとしている。

「おい、お前。それはルール違反だろ。何してんだ」

それまで静観していたルークの目が、一瞬で冷たく据わった。

ルークの手元から、バチバチと青白い雷の魔素が漏れ出す。ルークの魔法は雷だ。攻撃力ならこの中で1番強い。もちろん炎が扱えるソラも強いがソラと俺はまだ発展途上中。ルーク程の攻撃力はない。

「うるさいわね! 挨拶代わりよ!」

その瞬間、男がルークの前に立ち、魔法を使用した。彼の魔法はさっき見たが氷のバリアのようなものだった。

属性の授業でやったが、雷は氷を溶かしたり破壊したりすることくらいはできるが貫くことはできない。

ルークはそれを知っていたのか分からないがしっかりと雷のような攻撃を一直線に放った。

そして予想通りルークの魔法は氷のバリアによって無効化されてしまった。

(まずい、ルークの魔法が無効化された)

ルークの魔法は威力が高い分ポンポン撃てるようなものではない。どうすれば良い。

ミアは魔力切れでその場に座り込んでいる。

その時猫の獣人が狙いをミアに定めた。

(こいつ本当にやるのか!軽傷じゃ済まないぞ)

猫耳の女子が容赦なく魔法を放とうとした瞬間――俺の頭からも冷静さが完全に消し飛んだ。

「――バカ!!やめろ!」

俺は右手へと体内の魔素と元素を急速に『循環』させた。ターゲットは、あの猫耳女子が放とうとした魔法へ目掛けて。

魔力が上手くできるか分からない。でもやるしかない。

思いっきり魔力を巡らせた。そしてイメージ。どんなイメージだ。貫く?砕く?ダメだイメージが湧かない。

(....シャボン玉...破裂)

その時突然思い出した。前世にいた頃、それも幼い頃。よくおばあちゃんとシャボン玉で遊んだのを急に思い出した。なぜか分からないがこれがイメージを良い具合に働かせてくれた。魔法を破裂させるイメージだ。

咄嗟に浮かんできたイメージで狙いを目掛けて放つ。

(なんとかなれ!)

そして、

パンッ!!! と乾いた音がした。

見ると、女子の魔法が手元で霧散していた。

「熱っ。な、何よこれ!?」と驚く彼女たちの隙を突いて、ソラが男の胸ぐらに掴みかかる。

「お前ら、まとめてぶっ飛ばしてやら!!」

「やるか、特例生の腰巾着どもが!」

そこからは、完全に言葉通りの「泥沼の乱戦」だった。

男の目線がソラにいっているのを確認したルークが容赦のない雷で男の足元を爆破したおかげで、バランスを崩すことに成功した。

(ナイス!ルーク!)

その隙をつきソラが殴りかかり、相手の犬耳・猫耳の女子たちも悲鳴を上げた。

そして演習場は土煙と怒号でめちゃくちゃになった。

「――そこまでぇ!!」

演習場全体に、地響きのような、だけどどこかおっとりとしたガラテア先生の声が響き渡った。

いつの間にか戻ってきた先生は、普段の「近所のおばちゃん」のような優しい笑顔を完全に消し去っていた。目が笑っていない。思い出す、小学生の頃の担任。これは怒られるやつだ。

「元気があって大変よろしいですが……お片付けが大変そうですね」

全員、ピシッと動きが止まった。

結果として、俺たちのチームとうざい勘違い男のチームの2チームとも、放課後に居残りとなり、ガラテア先生の教壇の前で正座させられる羽目になったのだった。

額に青筋を立てた先生から、みっちり1時間の説教と、山のような反省レポートを言い渡された。

「いいですか?魔力切れというものは元素を使い果たした場合と体内の魔素の使いすぎです。元素を使い果たすことは極めて珍しく、大体は魔素切れです。その状態で魔法を使用すると寿命の短縮や白髪化や視力低下が起こり極めて危険なんです。授業でやりましたよね?実技の授業でカッとなることは良くありますが、あそこまでする必要ありましたか?」

(うっ....確かに。それはそうなんだが、こいつらが先に手を出してきたよな。)

いかにも「お前が悪いんだぞ」感を出しながら横を見ると、あの男とその取り巻き共がそっぽを向いて正座している。本当どうしようもない野郎達だ。右にはルークとソラがいけ好かない顔をしながら正座させられている。そして申し訳なさそうに下を向いているミア。

「「すみませんでした」」

そう迷惑をかけた先生にみんなで声を合わせ謝っておく。あいつらが謝ったかは分からないが。とにかく俺達は謝った、非はあちらにあるのに。

そうして説教が終わり教員室を出ようとした時。

「ちょっとあなた」

そう言われたのは俺だった。

「はい」

そして少し小さめの声で注意された。

「君はただでさえ政府の管理下なんだから変なこと起こさないように。多分ずっと見られてるわよ」

「....分かりました。気をつけます」

そう言い教員室を後にした。

(……大変で色々危険はあるが、まぁ、学園生活も退屈はしなさそうだ....見られてるってマジかよ。俺のプライバシーはどこへ)

俺を待ってくれていた3人。正座で痺れた足をさするソラと、ため息をつくルーク、環境を汚してしまったと申し訳なさそうに頭を下げるミアを見ながら、俺は異世界での「新しい絆」を、確かに感じることができた。



誤字脱字言い換えの間違いあるかもです。

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