第九章:鋼鉄の真田と月下の姫君
絶望の底、異星の食料貯蔵庫でアーサーを待っていたのは、地球人だけではない宇宙各地の「食材」たちの嘆きでした。しかし、その静かな絶望を切り裂き、物語はSF活劇へと急展開します。時空を越えて現れた二人の影。それは人類の、あるいは銀河の反撃の狼煙となるのでしょうか。
「……はぁ、また一匹増えたか」
爬虫類のような顔をした倉庫番の異星人が、アーサーを檻に押し込み、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「こいつは例の『超貴重スパイス』とかいう珍味だそうだ。元帥閣下のお気に入りだから、死なせないように生かして保管しろとさ。面倒なことだ、ただの肉の分際で」
「全くだ。さっさと捌いてしまえば管理も楽だろうに。贅沢な悩みだよ」
倉庫番たちの無慈悲な愚痴が響く。檻の中では、絶望に打ちひしがれた異星人たちが、明日の献立に選ばれる恐怖に震え、あるいは故郷を想って声を殺して泣いていた。アーサーはリナを失った虚無感の中、ただ冷たい床を見つめていた。超能力の輝きは失せ、心は死を待つだけだった。
その時だ。
キィィィィィィン……ッ!
鼓膜を突き刺すような高周波の音が貯蔵庫内に響き渡った。次の瞬間、何もない虚空がガラスのようにひび割れ、まばゆい光が溢れ出す。
「な、なんだ!? 空間転移だと!?」
驚愕する倉庫番たちの前で、次元の裂け目から二つの影が躍り出た。
「我は真田左衛門ノ上幸村HD20054H。いざ、参る!」
山のように巨大な体躯を、漆黒の日本の鎧装束で固めた男の目は赤く光っていたそして名乗りを上げた。背中のレーザーブレードを一閃。一刀のもとに襲いかかる衛兵たちの胴体を、熱線がバターのように切り裂いていく。
「そして私は正義の味方、キラープリンセスPT10000MD! 月と精霊に代わって、皆殺し!」
スレンダーなツインテールの女性有機体サイボーグが、満面の笑みでポーズを決めた。彼女の手には、身の丈ほどもある無骨なメイスが握られている。
「えいっ! 死ねっ!」
可憐な仕草とは裏腹に、放たれる一撃は物理法則を無視した破壊力を秘めていた。逃げ惑う倉庫番たちの頭部が、熟した果実のように次々と粉砕されていく。まさに笑顔の撲殺。貯蔵庫は一瞬にして、捕食者たちの断末魔が響く処刑場へと変貌した。
返り血を浴びながらも優雅に舞うキラープリンセスと、一分の隙もなく敵を斬り伏せる真田。二人の圧倒的な暴力の前に、貯蔵庫を守る異星人の軍勢は文字通り壊滅した。
真田幸村HD20054Hは、返り血を拭うこともなく、アーサーの閉じ込められた檻へと歩み寄った。重厚な足音が響く。彼は巨大な鋼鉄の拳を振るい、物理的な強度はもちろん、電子ロックさえも無視して檻の格子を根こそぎぶち壊した。
ひしゃげた鉄格子の音。その先に座り込むアーサーの前に、真田は膝を突き、その紅く光るセンサーで少年を見据えた。
「@#$*^$(古代地球言語返還)。お尋ね申す、汝が、我が創造主である『人間』か?」
重厚な合成音声が、アーサーの魂を震わせた。数千年の時を超え、地球の科学が遺した最強の「兵器」たちが、今、一人の家畜の少年の前に跪いたのだ。
第九章をお読みいただきありがとうございます。 突如現れた「真田幸村HD20054H」と「キラープリンセス」。圧倒的な力で捕食者たちを蹂躙する彼らの姿は、アーサーにとって救済か、それとも新たな嵐の予兆か。
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