第十章:帰還する火星の種、無人のテラフォーミング
突如として現れた有機体サイボーグの守護者たち。その正体は、人類が滅亡の淵で放った「希望の残り火」でした。第十章では、アーサーの困惑に応えるように、数千年の時を遡る地球の再生譚が語られます。主を失った機械たちが、いかにして死の星を再び「テラフォーミング」したのか。その壮大な物語をお届けします。
「創造主……? 人間……?」
アーサーの声は掠れていた。目の前に跪く巨大な鎧武者、真田幸村HD20054H。そして傍らで不敵に微笑むキラープリンセス。あまりにも現実離れした光景に、アーサーの脳裏には、先祖から受け継いだ断片的な記憶と、この機械たちが語る「空白の歴史」が重なり合っていく。
視界が白濁し、意識は千年前の「地球」へと飛んだ。
そこは、異星人の略奪が終わり、大気も水も吸い尽くされた死の星だった。かつての青い輝きは失われ、ただ赤茶けた岩石が転がる沈黙の惑星。人類の文明は瓦礫の下に埋もれ、生命の鼓動は途絶えたはずだった。
だが、その上空に一隻の宇宙船が音もなく姿を現した。
それは、人類が侵略を受ける直前、火星入植の先遣隊として送り出していた惑星改造用無人探査船「テラ・アーク号」だった。船を制御するのは、当時最高峰の自律型AI。
『……地球周回軌道上に到達。地上への帰還信号を送信。』
無機質な電子信号が虚空へ放たれる。だが、かつてのNASAも、管制センターも、応答を返すことはなかった。受信されるのは、風の音さえない静寂と、異星人が残した無残な傷跡だけ。
『……応答なし。バイタルサイン、ゼロ。文明活動、検知不能。』
AIは混乱しなかった。ただ、プログラムされた「生存優先プロトコル」に従い、論理的な推論を開始した。
『主が不在ならば、環境を再構築せよ。テラフォーミング・プロセス、対象を火星から「地球」に変更。』
地球を再び地球にする。その無謀な指令が、誰の許可も得ぬまま執行された。 船から放出されたのは、大気を生成するナノマシン。地表には、岩石を分解して土壌を作る自律機巧群。AIは数千年の歳月をかけ、気の遠くなるようなプロセスを繰り返した。
水は、土星の環から氷を運び込み、雨として降らせた。 大気は、地中のわずかな成分を抽出し、再び呼吸できる濃度まで高めた。 そして——保存されていた「遺伝子バンク」から、失われた生物たちを再構成していった。
だが、そこに「人間」だけはいなかった。 異星人が優良種をすべて連れ去ったため、地上に残された遺伝子情報はあまりに破損が激しかったのだ。
『人間を保護し、主として戴く。それが我々の存在意義。』
AIは、自分たちを造った「人間」という概念を神聖視し、その姿を模した最強の守護者たちを創り出した。それこそが、歴史上の英雄の名を冠した真田幸村HD20054Hであり、究極の護衛対象を守るためのキラープリンセスだった。
彼らは数千年の間、再生された地球で「帰るべき主」を待ち続けていた。そして、ついに異星の彼方から発信された「人間」の微弱な生体エネルギー——アーサーの覚醒した電撃を感知し、時空の壁を突き破って迎えに来たのだ。
「……待たせたな、主よ。地獄のような食事はここまでだ」
真田が静かに立ち上がる。その背後では、キラープリンセスが血塗られたメイスを肩に担ぎ、ウインクを飛ばした。
「パパ(AI)が言ってたわ。人間様を見つけたら、邪魔なエイリアンは一匹残らず『お掃除』して、豪華なディナーに変えてあげなさいって!」
アーサーは震える手で、真田の差し出した鋼鉄の手を握った。 家畜としての人生が終わった。これからは、地球の正当な継承者として、この「肉食惑星」を逆に喰らい尽くす戦いが始まる。
第十章をお読みいただきありがとうございます。 AIが独自判断で地球を再生させ、守護者を創り出したという、SFならではのダイナミックな歴史背景を描きました。ついに主と従者が出会ったことで、反撃の舞台は整いました。
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