第四章:知性の逆襲、爆ぜる調理場
調理室の冷え切った空気の中で、アーサーの脳はかつてない速度で回転していた。 先祖エドワードから受け継いだ「科学者」としての血が、目の前の異星人のテクノロジーを単なる「魔法」ではなく、理解可能な「構造物」として分解し始めていた。
「リナ、動くな! そのままじっとしていろ!」
アーサーは叫びながら、調理台の脇にある複雑な配管へと駆け寄った。 異星人の調理師は、羽虫が暴れている程度にしか思っていないのか、低い唸り声を上げながら、巨大な三本指の片手をアーサーへ伸ばしてきた。その爪には、獲物を麻痺させるための青い電流がパチパチと爆ぜている。
(……落ち着け。奴らの熱源はあの脈動するタンクだ。そして、壁を流れる青い液体は、高濃度の冷却触媒……!)
アーサーは手にした鋭利な金属管を、迷いなく床の接合部へと突き立てた。 古書で読んだ「圧力」と「爆発」の原理。NASAの技術者たちが極限状態で叩き込まれる、物理法則の応用。
「食われるだけの家畜だと思うなよ……!」
金属管が触媒のパイプを貫いた瞬間、凄まじい勢いで冷気が噴出した。異星人の調理師が驚きに複眼を細める。アーサーはその隙を逃さず、今度は調理台の加熱制御パネルを、もぎ取った金属片で無理やり短絡させた。
「ギ、ギギィィッ!?」
調理師が異様な叫び声を上げた。 制御を失った加熱システムが、一気に数千度まで温度を跳ね上げる。一方で、アーサーが破壊したパイプからは絶対零度に近い冷却液が溢れ出し、熱と冷気が衝突する空間で、金属の壁が悲鳴を上げて歪み始めた。
「リナ、こっちだ!」
アーサーは拘束を解き、リナの腕を掴んで、爆発の予兆に震える部屋の隅へと飛び込んだ。 次の瞬間、調理室全体を揺るがす大爆発が起きた。
高圧タンクが弾け飛び、その破片が巨大な調理師の肉体をズタズタに引き裂く。最高級の「素材」を求めていた捕食者は、皮肉にも自らの調理器具によって、無残な肉塊へと変わり果てた。
炎と煙が立ち込める中、アーサーは立ち上がった。 その手には、先ほど調理師が持っていた、未知のエネルギーを放つ「高周波ナイフ」が握られていた。
「これからは……俺たちが狩る番だ」




