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第三章:最初の晩餐、星が消えた日

リナを救い出すべく調理室へ踏み込んだアーサーの脳裏に、凄まじい衝撃と共に「記憶」が逆流してきた。それは彼自身の経験ではない。細胞の隅々に刻まれた、数千年前の先祖の絶望――遺伝子に焼き付いた呪いのようなビジョンだった。

西暦20XX年。かつて「地球」と呼ばれた青い星。

「……信じられない。質量、速度、そしてこの軌道。自然物じゃないわ」

NASAの地球近傍天体観測部門。アーサーの先祖であるエドワードと、その妻マリアは、モニターに映し出されたノイズ混じりの映像に戦慄していた。

「マリア、上層部に報告を。これは隕石じゃない。『群れ』だ。それも、惑星一つを覆い尽くすほどの……」

エドワードの指は震えていた。彼らが発見したのは、宇宙の深淵から音もなく忍び寄る、巨大な有機船の船団だった。彼らは通信を試み、平和的な接触を模索したが、返ってきたのは言語による応答ではなかった。

それは、純粋な「飢餓」の波動。

「報告を……急いで! 全人類に警告を出すんだ!」

だが、時すでに遅かった。 報告ボタンを押そうとした瞬間、NASAの管制室の天井が、巨大な質量によって紙細工のように押し潰された。轟音と共に降りてきたのは、銀色の球体でも、高度なロボットでもない。

粘液を滴らせ、数千の複眼をぎらつかせた、巨大な「あぎと」を持つ怪物たち。

「あ……ああ……」

マリアは腰を抜かし、その圧倒的な捕食者のオーラに身が竦んだ。 彼ら異星人は、地球の文化も、芸術も、科学も、何一つ興味を示さなかった。彼らにとって、ビル群はただの「殻」であり、逃げ惑う人々は「活きの良い食材」に過ぎなかったのだ。

「逃げろ、マリア! 窓から……!」

エドワードは近くにあった消火器を投げつけた。しかし、異星人の一人が、まるで庭の果実を摘むような軽やかさでエドワードの胴体を掴み上げた。

「ギ……ガアアッ!」

エドワードの骨が砕ける嫌な音が響く。異星人はその複眼で、捕らえた獲物の「栄養価」を測るようにじっくりと眺めると、満足げに喉を鳴らした。

『……優良種プライム。繁殖用に保存。』

その思念が、マリアの脳内に直接響いた。 マリアが必死に夫を助けようと駆け寄るが、彼女もまた、別の捕食者の鋭い爪によって拘束される。二人は、地球で最初に「味」を認められた個体となった。

彼らの目の前で、愛した地球の海が吸い上げられ、山々が削られていく。 文明の終わりは、戦争ですらなかった。それは単なる、宇宙規模の「収穫」だったのだ。

「ごめん、マリア……。僕たちが……最初だったんだ……」

暗黒の船内へと引きずり込まれる間際、エドワードはマリアの血塗られた手を握りしめた。その執念と悔恨、そして「いつかこの暴食の連鎖を断ち切る」という野生の叫びが、何十世代もの時を経て、今、アーサーの魂を震わせていた。

「……はぁ、はぁ……っ!」

フラッシュバックから覚めたアーサーの眼前に、先祖をなぶり殺した種族と同じ姿をした「調理師」が立っている。

「思い出したぞ。貴様らが、俺たちから何を奪ったのかを」

アーサーは手にした金属管を強く握り直した。 彼の中に眠っていたのは、NASAの学者が持っていた「知性」と、絶滅の淵に追い込まれた生物が放つ「殺意」だった。


リナを救い出すべく調理室へ踏み込んだアーサーの脳裏に、凄まじい衝撃と共に「記憶」が逆流してきた。それは彼自身の経験ではない。細胞の隅々に刻まれた、数千年前の先祖の絶望――遺伝子に焼き付いた呪いのようなビジョンだった。

西暦20XX年。かつて「地球」と呼ばれた青い星。

「……信じられない。質量、速度、そしてこの軌道。自然物じゃないわ」

NASAの地球近傍天体観測部門。アーサーの先祖であるエドワードと、その妻マリアは、モニターに映し出されたノイズ混じりの映像に戦慄していた。

「マリア、上層部に報告を。これは隕石じゃない。『群れ』だ。それも、惑星一つを覆い尽くすほどの……」

エドワードの指は震えていた。彼らが発見したのは、宇宙の深淵から音もなく忍び寄る、巨大な有機船の船団だった。彼らは通信を試み、平和的な接触を模索したが、返ってきたのは言語による応答ではなかった。

それは、純粋な「飢餓」の波動。

「報告を……急いで! 全人類に警告を出すんだ!」

だが、時すでに遅かった。 報告ボタンを押そうとした瞬間、NASAの管制室の天井が、巨大な質量によって紙細工のように押し潰された。轟音と共に降りてきたのは、銀色の球体でも、高度なロボットでもない。

粘液を滴らせ、数千の複眼をぎらつかせた、巨大な「あぎと」を持つ怪物たち。

「あ……ああ……」

マリアは腰を抜かし、その圧倒的な捕食者のオーラに身が竦んだ。 彼ら異星人は、地球の文化も、芸術も、科学も、何一つ興味を示さなかった。彼らにとって、ビル群はただの「殻」であり、逃げ惑う人々は「活きの良い食材」に過ぎなかったのだ。

「逃げろ、マリア! 窓から……!」

エドワードは近くにあった消火器を投げつけた。しかし、異星人の一人が、まるで庭の果実を摘むような軽やかさでエドワードの胴体を掴み上げた。

「ギ……ガアアッ!」

エドワードの骨が砕ける嫌な音が響く。異星人はその複眼で、捕らえた獲物の「栄養価」を測るようにじっくりと眺めると、満足げに喉を鳴らした。

『……優良種プライム。繁殖用に保存。』

その思念が、マリアの脳内に直接響いた。 マリアが必死に夫を助けようと駆け寄るが、彼女もまた、別の捕食者の鋭い爪によって拘束される。二人は、地球で最初に「味」を認められた個体となった。

彼らの目の前で、愛した地球の海が吸い上げられ、山々が削られていく。 文明の終わりは、戦争ですらなかった。それは単なる、宇宙規模の「収穫」だったのだ。

「ごめん、マリア……。僕たちが……最初だったんだ……」

暗黒の船内へと引きずり込まれる間際、エドワードはマリアの血塗られた手を握りしめた。その執念と悔恨、そして「いつかこの暴食の連鎖を断ち切る」という野生の叫びが、何十世代もの時を経て、今、アーサーの魂を震わせていた。

「……はぁ、はぁ……っ!」

フラッシュバックから覚めたアーサーの眼前に、先祖をなぶり殺した種族と同じ姿をした「調理師」が立っている。

「思い出したぞ。貴様らが、俺たちから何を奪ったのかを」

アーサーは手にした金属管を強く握り直した。 彼の中に眠っていたのは、NASAの学者が持っていた「知性」と、絶滅の淵に追い込まれた生物が放つ「殺意」だった。


第三章をお読みいただきありがとうございます。 物語のプロローグとも言える、地球滅亡の日の真実を回想として描きました。NASAの精鋭ですら餌として扱われた絶望が、現在のアーサーの力へと変わっていく転換点です。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、ぜひ感想や評価をお願いいたします!


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