第二章:屠殺場の聖域、捕食者の食卓
ついに残酷な「収穫」がリナの身に及びます。幼馴染を救うため、アーサーは平穏な放牧場を飛び出し、未知なる捕食者の領域へと足を踏み入れます。SF的なガジェットや、異星人の異質な生活圏の描写を交えてお届けします。
「リナ! 行くな、リナ!」
アーサーの叫びは、無慈悲な重低音を響かせる輸送船のエンジン音にかき消された。 広場で「選定」された若者たちは、まるで美しい装飾を施された供物のように、銀色の光に包まれて船内へと吸い込まれていく。リナは最期までアーサーの方を振り返り、怯えながらも「幸せになるから大丈夫よ」と、言い聞かせるように微笑んでいた。
彼女は何も知らない。その先に待っているのが、神の住まう上層階ではなく、血濡れた調理台であることを。
「……ふざけるな、こんなことがあってたまるか!」
アーサーは、管理球体の監視の目を盗み、輸送船の底部にある貨物搬入用ハッチへと滑り込んだ。そこは、家畜人間たちの排泄物や、彼らが「恵み」として与えられていた合成飼料の残滓が排出される汚泥の通路だった。
数分の猛烈な上昇感の後、ハッチが開く。 アーサーが潜り抜けた先に広がっていたのは、緑豊かな「エリア・グリーン」とは真逆の、冷徹な金属と有機的な管が入り混じった異形の空間だった。
「ここが……奴らの住処か」
空気は重く、焦げた肉の匂いと、嗅いだこともない芳醇なスパイスの香りが混ざり合っている。通路の壁は生物の粘膜のように脈動し、時折、天井から青白い液体が滴り落ちる。
アーサーは、古書から得た知識を絞り出し、姿勢を低くして進んだ。 しばらく行くと、巨大な透明な壁越しに「居住スペース」と思われる広大な空間が見えた。
そこには、巨大な調理場、そして食堂を囲む異星人たちの姿があった。 彼らは地球人とは似ても似つかない。六本の節足を持ち、頭部には複数の複眼が怪しく光る。彼らが手にしているのは、精巧に細工されたナイフとフォーク……そして、皿の上に載っているのは、ついさっきまで広場で笑っていた「友人」たちの、見るも無惨に調理された姿だった。
「うっ……おえっ……!」
アーサーは口を抑え、激しい嘔吐感を堪えた。 知的生命体としての尊厳など微塵もない。彼らにとって、自分たちはただの「食材」であり、その悲鳴や絶望さえも、肉を柔らかくするための調味料に過ぎないのだ。
「リナは……リナはどこだ!」
アーサーは狂ったように走り出した。 通路の脇にあるモニターには、収穫された人間たちのデータが流れている。 「個体番号:8821(リナ) 状態:極上 調理法:低温熟成後に生け捕り解体」
「まだ間に合う……!」
最深部にある、巨大な冷蔵施設のような扉。その先から、リナの泣き声が聞こえた。 扉の隙間から覗くと、リナが医療用のような拘束台に横たえられ、巨大な異星人の「調理師」が、彼女の皮膚の弾力を確かめるように指先で触れていた。
「やめろ……リナに触るな!」
アーサーは、通路の壁から引き抜いた鋭利な金属製の管を手に、理性をかなぐり捨てて部屋へと飛び込んだ。 異星人の調理師が驚きに複眼を見開く。 アーサーの瞳には、かつて地球を焼いた炎と同じ、漆黒の怒りが宿っていた。
数千年の家畜生活を経て、人類という種が初めて「牙」を剥いた瞬間だった。
第二章をお読みいただきありがとうございます。 楽園の裏側にある「キッチン」の描写を通して、圧倒的な種族の格差と絶望を描きました。アーサーは無事にリナを救い出し、この血塗られた惑星から逃げ出すことができるのでしょうか。
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