第十五章:星の継承者、あるいは愛の残響
アーサーの光剣が、女王の胸部、銀のペンダントが食い込んだ中心核を貫いた。
「……ガ、……アァァ……ッ!」
女王の口から、無数の悲鳴が重なったような、この世のものとは思えない絶叫が上がる。その身体から、青黒い体液ではなく、まばゆいばかりの純白の光が溢れ出した。
それは、彼女が何千年もの間、この星の生命から奪い、蓄積してきた「命のエネルギー」そのものだった。
「……アー……サー……」
女王の異形が崩れ落ちる中、その表情が、一瞬だけ、かつてのリナの、あの優しい微笑みに戻った。
「馬鹿ね……。来ちゃ……ダメ、だったのに……」
アーサーは剣を握ったまま、動けなかった。彼女の胸から溢れる光が、彼の身体を包み込み、脳内に直接、彼女の最後の記憶を流れ込ませてきたからだ。
女王の一部となったリナは、絶望の深淵で、AIたちが残した過去の地球のデータに触れていた。彼女は、AIたちが自分たち人類をどれほど愛し、待ち続けていたかを知った。
そして、彼女は女王の内側から、抗っていたのだ。アーサーがここへ到達できるよう、女王の意識を撹乱し、この星の防衛システムを弱体化させていたのは、リナ自身だった。
「……ありがとう。最後に……もう一度、会えて……よかった……」
リナの姿が、光の粒子となって霧散していく。女王の肉体もまた、核を失い、急速に崩壊を始めた。
「主よ、ここも保ちませぬ! 脱出を!」
真田がアーサーの肩を掴み、崩れ落ちる天井の破片をシールドで弾き飛ばす。
「アーサー様、早く! みんな(繭の人類)の転送は、パパたちがやってくれてるから!」
プリンセスが催促する。肉の塔は、巨大な断末魔を上げながら、内側から爆発を繰り返していた。
真田、プリンセス、そしてリナを失ったアーサーは、崩壊する神殿を駆け抜け、外へと飛び出した。
地表に出た彼らの目に映ったのは、信じられない光景だった。
肉の塔から解き放たれた純白の光の奔流が、惑星全土を覆い尽くしていたのだ。その光に触れた捕食者たちは、一瞬にして塵へと帰り、不毛だった大地からは、地球の植物に似た緑の芽が、奇跡のような速度で吹き出していた。
「……これは……」
真田の紅いセンサーが、驚きに明滅する。
「主よ……。彼女は、女王の命と、自らの魂を賭して……この『肉食惑星』を、テラフォーミングしたのです」
リナは、この星の生命エネルギーを暴走させ、捕食者たちを駆逐すると同時に、この星を、人間が住める「新しい地球」へと作り変えたのだ。
「リナ……」
アーサーは、奇跡のように緑に染まっていく大地を見つめ、膝をついた。彼の右腕と融合していた光剣が分離し、静かに地面に落ちる。
「主よ、貴殿はやり遂げられた」
真田がアーサーの隣に跪き、その肩に静かに手を置いた。
「貴殿の戦いは、リナ殿の想いは、この新しい世界に、永遠に刻まれるでしょう」
「そうだよ! ここは、今日から『リナ・プラネット』!」
プリンセスが、涙を浮かべながらも、無理に笑顔を作って言った。
「私たちが、この星を、パパたちと一緒に、世界で一番素敵なセーブデータにしてあげる!」
アーサーは、涙を拭い、立ち上がった。
「……ああ。そうだな」
空を見上げると、地球AI連合の強行支援艦が、朝焼けのような光を浴びて、静かに降下してきていた。
数千年の孤独を経て、AIたちが守り抜いた「子供たち」が、今、新しい故郷へと降り立とうとしている。
アーサーは、風に吹かれる緑の草原の中に、リナの幻影を見た気がした。彼女は、はにかむように微笑み、新しい世界の始まりを祝っている。
「行こう。……俺たちの、新しい家に」
人類の、そしてAIたちの、数千年にわたる長い旅が、今、終わろうとしていた。そして、ここから、新しい物語が、始まるのだ。
(完)
長い間、この物語に付き合っていただき、本当にありがとうございました!




