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番外編:鉄の守護者、あるいは「主」の休日

本編の激闘から数ヶ月。テラフォーミングが進み、穏やかな風が吹く「新しい地球」の片隅での一幕。


「主よ、本日の『野外活動』の予定を確認いたします。……午前10時、指定された座標における『可視光線の直接摂取(日向ぼっこ)』。午後1時、現地調達の有機物による『味覚シミュレーション(昼食)』。以上で相違ありませぬか?」


真田幸村HD20054Hが、その巨大な金属の身体を不器用に折り曲げ、アーサーの前に跪いていた。その背後の草原では、キラープリンセスが「お花を摘むの!」と言いながら、高出力レーザーで雑草を根こそぎ蒸発させている。


「真田、いいんだって。今日はただのピクニックなんだから。予定なんて、風に任せればいい」


アーサーは苦笑しながら、支給されたばかりのクッションに身を預けた。空には、かつての「肉食惑星」の禍々しい暗雲はなく、AIたちが大気組成を調整した美しい碧落が広がっている。


「……左様ですか。拙者、数千年の間、常に『効率』と『生存率』を最優先に演算してまいりましたゆえ……無目的という事象に、いささか困惑しております」


真田の紅いセンサーが、戸惑うように細かく点滅した。戦場では一騎当千の武神である彼も、平和な日常の中では、ただの「不慣れな執事」のようだった。


「おじいちゃん、真面目すぎー! パパたちも言ってたでしょ? 人間さんはね、『無駄』を楽しむ天才なんだから!」


プリンセスが、焦げた花束レーザーのせいだを抱えて駆け寄ってきた。彼女はアーサーの隣に座り込むと、ホログラムで小さなティーセットを投影する。


「アーサー様、見ててね。これは昔の『アニメ』っていうアーカイブから復元した、究極の癒やし儀式……『お茶会』だよ! はい、あーん!」


「あ、いや、それは自分で……」


アーサーは差し出された空のカップ(ホログラムだ)を手に取り、飲むふりをする。その光景を、真田は磁気センサーでじっと見つめていた。やがて、彼は何事か決意したように、背中のレーザーブレードの出力を最小に絞った。


「……承知いたしました。ならば拙者も、『無駄』の極みを追求いたしましょう」


真田は、その鋭い刃先を使い、地面に落ちていた枯れ木を驚異的な精度で削り始めた。数分後、そこには驚くほど精巧な「リナの像」が出来上がっていた。


「……主よ、これはかつての主殿の記憶から抽出した造形にござる。これをここに置くことで、この場所の『情緒的価値』が14.8%上昇すると試算いたしました」


アーサーは、木彫りのリナ像を見つめた。少しだけ不器用な、でも温かみのあるその像を見て、胸の奥がじんわりと熱くなる。


「ありがとう、真田。……最高だよ。今までもらったどんな武器よりも、いい」


真田のセンサーが、かつてないほど明るく、優しく灯った。


「その言葉を……。その笑顔を見るために、我らは数千年、冷たい宇宙を彷徨い続けたのです。……主よ、願わくばこの『無駄』な時間が、永遠に続かんことを」


新しい太陽が、鉄の身体と、青年の背中を等しく照らしている。

それは、かつての地球でも、この星でも見られなかった、最も美しい「プログラム外」の景色だった。


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