第十三章:女王の揺り籠、肉の神殿
「肉食惑星」の地表は、今や阿鼻叫喚の地獄へと変貌していた。空からは地球AI連合の軌道爆撃が降り注ぎ、地表では真田とプリンセスが、捕食者たちの防衛線を紙細工のように引き裂いていく。
「見えてきたぞ。主よ、あれがこの星の心臓部……『大母』の居城にござる」
真田が指し示したのは、地平線の先にそびえ立つ、脈動する巨大な肉の塔だった。数キロメートルにも及ぶその塔は、周囲の山々を飲み込み、星の血液を吸い上げるように不気味な光を放っている。
「キラープリンセス、露払いを任せる」
「了解だよ、真田おじいちゃん! 『ドリーム・デス・パレード』、展開しちゃうから!」
プリンセスが空中で指を鳴らすと、彼女の背後から無数のホログラムビットが射出された。それは、かつてのアイドルステージを彩った浮遊カメラを模した自律型自爆ドローンだった。
「みんなー! 最後まで盛り上がっていこうね!」
可愛らしい歌声と共に、数千のドローンが肉の塔へと突っ込み、連鎖爆発を引き起こす。外壁が剥がれ落ち、中から異形の悲鳴が上がった。
アーサーは黄金の雷光を纏い、爆煙の中を突き進む。融合した光剣が、近づく捕食者の群れを薙ぎ払うたび、彼の脳内には未知のデータが流れ込んできた。
(これは……この星の記憶か?)
光剣を通じて流れ込むのは、数千年、数万年にわたって「食らわれ」続けてきた生命たちの絶叫。そして、その最奥に感じる、リナの微かな気配。
「リナ……今、助ける!」
三人は肉の塔の内部、粘膜に覆われた「神殿」へと突入した。そこは、これまでの殺戮が嘘のように静まり返っていた。
広大な空間の天井からは、無数の透明な繭が吊るされている。その中には、眠らされた人間たちが、チューブに繋がれた状態で詰め込まれていた。
「……ひどい」
プリンセスの声から、いつもの茶目っ気が消える。
「パパたちが言ってた通りだ。ここは、ただの『貯蔵庫』じゃない。人間を効率よく増殖させ、熟成させるための……『牧場』だよ」
その空間の中央。一際巨大な繭の前に、一人の女が立っていた。
いや、それは女の姿を模した「何か」だった。リナに似ているが、その肌は白磁のように白く、背中からは蜘蛛のような鋭い脚が生えている。
「ようこそ、失われた種よ」
その「モノ」が口を開いた。声は重なり合い、何千人もの合唱のように響く。
「我らは待っていた。我らが王を完成させるための、最後の一片を。数千年の熟成を経て、ようやく『最高の味』が届いたようだな」
「リナをどうした……。そこにいるのは、リナなのか!?」
アーサーが光剣を突きつける。しかし、女王は冷たく微笑むだけだった。
「リナ? ああ、その個体なら今、我らの一部となった。彼女の『絶望』は、実に芳醇なスパイスとなったぞ」
「貴様ぁッ!」
真田のセンサーが、怒りで深紅に染まる。
「主の情を弄ぶ無礼、万死に値する! 我ら機械の誇りにかけて、その肉塊を塵一つ残さず消滅させてくれよう!」




